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五行の剣 ~再会は異世界で~  作者: 三ケ月 九音
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第三話 本選開幕

第一章: 剣技大会


第三話

本選開幕



 空が白み始める頃、外に出て準備運動の後に、軽くランニングして汗を流す。


 ここグランド王国は、一応四季らしいものはあるが、大きな気温の変化はない。

 今は春だが、一年を通して穏やかな気候で気持ちがいい。


 宿から少し離れた丘で、いつもの日課の剣を走らせる。

 本選を前についつい力が入り、細い棒を素早く振った音を剣が奏でる。


 手にしているのは、よく見かける両刃の直剣。

 魔剣や業物でもないが、大切な親父の遺品だ。

 少しでも軽くするために厚みを極限まで削り、しなるギリギリで鍛えなおした。


 剣に風魔法をエンチャント付与し、剣全体をコーティングするように纏わせる。

 風に抵抗せず大気と一体化し、剣を振るというよりも線を引くような「走らせる」感覚。


 ただ剣が薄い分、力技の剣戟には弱い。そこはバーターだから仕方がない。

 他の人はどうか知らないが、刃全体にも風を高速で流し、多少の剣戟にも耐えれるようにしている。

 剣戟せずに倒すのが理想であり、それを補うためにも攻撃を躱す体術も鍛えている。


 「・・・ふう、結構汗をかいたな」

 「クリーン」


 この世界では、シャワーや風呂なんて気の利いたものは滅多にお目にかかれない。

 王族や貴族は持っているだろうが、庶民はせいぜい水浴びがいいところで、それすらもしない者が多い。


 ”クリーン”は水や石鹸・シャンプーを使わずに汗や臭いを消失する生活魔法で、清潔好きの元日本人にとっては必須の魔法なのだ。


 「キースさーん、朝ごはんできましたよー」


 10歳くらいの女の子が呼びに来た。オヤッさんの娘、アーチャである。


 「やあ、アーチャ、おはよう」

 「おはようキースさん、朝から頑張ってるね」

 「ああ、今日から本選だからね」


 アーチャと一緒に宿に戻り、食堂で朝食をとる。

 食後、早々に身支度を済ませ、本選が行われるコロシアムに向かった。


 用事を済ませ、本選出場者用のゲートを潜り控室に入ると、ピリッと張り詰めた空気の中、数人が控えていた。

 ある者は筋トレしており、ある者は剣の手入れをしており、ある者は空を見上げブツブツ言っている。


 本選は一時間と決まっており、その時間内で相手が戦闘不能となった時点で終わる。

 無論、戦いの中で死んだとしても責任は問われないが、治癒部隊が控えているから体が霧散することがなければ死ぬことはないだろう。


 攻撃魔法は使用禁止で身体強化、武具強化等の補助魔法やエンチャントは許可されている。

 魔道具やアイテム類も同様で補助系のみ許可されているが、回復系の使用は禁止だ。

 一時間を超えた場合は判定となり、ダメージが軽い方、攻撃的優勢な方が勝ち上がる。


 主な戦闘スタイルは、ゴリ押しによる短時間勝負か、ヒットアンドウェイの判定狙いだが、前者は観客たちの受けがよく、後者は玄人からの受けがよい。

 観客には、王族、貴族、軍(騎士団)関係者もいる。

 つまり、出場者にとっては如何に早く、派手に相手を屈服させるかアピールする場でもあり、就活の場でもあるわけだ。



  (俺は中間・・・といったとこか)



 ヒットアンドウェイで攪乱させ相手の動きが止まった瞬間に止めを刺す。

 無力化するのが理想だが、手間取るなら遠慮はしない。躊躇わずに急所を狙う。


  「出場者の皆さん、入場をお願いします」


 ドアノックの後、大会の案内役が控室の出場者に声を掛ける。

 声を張り上げる者、目を輝かせる者、黙々と装備を付ける者、と様々な中、俺は静かに剣を持ち立ち上がった。



 案内役の後に続き歩いて行くと、途中、別の大会関係者から木札を渡された。


  「この札をお持ちください」


 渡された木札には3と書いてある。



 会場出入り口に近付くにしたがい観客のざわめきが大きくなり、入り口に差しかかると観衆の大歓声がコロシアム内を駆け巡る。。



 こちらとは反対側にも同じように、それぞれの剣や槍、モーニングスターなんて武器を手に出場者が出てきた。

 こっちは全員野郎なんだが、あっちは男女入り混じっている。

 しかも、ビキニアーマーって、何たるけしからん格好か、コッチに回せや(怒)


 案内役に誘導され、会場の中を進むと、会場を一望できるベストな観客席の前に並ばされた。

 そこに王冠を被った髭面のオッサンが片手を挙げて立っているのが見えた。


 出場者のひとりが前に出て、そのオッサンを見上げ、胸に手を当てて、大声を張りあげた。


 「我がグロンド王に宣誓する!」

 「我々出場者は、この大会の場を設けて戴き、また五剣の保持者候補として、この場に立てたことに感謝する」


 (おっ、懐かしい)


 前世の運動会やスポーツ大会を思い起こさせる選手宣誓だ。


 「正々堂々と鍛えあげた腕で相手を叩きのめし、二度と逆らえないほどの精神的外傷を与え、異性に恵まれない鬱憤を晴らすとともに、王国の繁栄と安寧に寄与することを誓う」


 (おいおい、前世の宣誓とは随分と趣が違って物騒なんだが・・・)


王が満足気にゆっくりと”うんうん”と頷く。


 「よくぞ勝ち上がってきた、次代の保持者候補達」

 「力強い宣誓で余も嬉々たる思いだ。鍛え、磨き上げた腕を存分に披露し、次代の五剣保持者を目指してくれ!」


 (力強いって・・、途中なんか私情じゃないか。こんな宣誓でいいのか? 王よ・・・)



 王の激励を受け、宣言した出場者が下がり、大歓声が会場の隅々まで響き渡った。



 「さああああぁぁ皆さん! お待たせしました! ただいまより剣術大会の本選1回戦を開催しまあああす!!」



 耳をつんざくような銅鑼の爆音とボルテージが最高潮に達した観衆の声が轟音となり会場を埋め尽くした。



 「さあっ皆さん! お手持ちの札の番号の会場へどうぞぉーーー!」


 (さてと、3番の会場に向かいますか)


 コロシアム内には5つの会場があり、それぞれが直径50メートルくらいの円形、石畳で作られている。

 会場の案内役の後に続き3番の会場に向かうと、ヒゲ面のチビデブがモーニングスターを持って待っていた。



 (ん? ドワーフか?)


 この世界には、多くの種族がいる。

 代表的なのは前世のノベルやネット小説で読んだ、獣人やドワーフ、亜人、エルフ等の種族がいる。


 (まあ、相手がドワーフで、あの体格なら俊敏性に気を取られることはないだろう)


 3番会場に上がると、ドワーフっぽいのがニヤニヤしながら声をかけてきた。


 「よお、あんちゃんよ、コイツの餌食になりたくなけりぁ今すぐこの会場から降りろや」

 「・・・・・」



 ドワーフの戯言をシカトしてたら、トゲトゲの鉄球(トゲ鉄球)が地響き音と同時に手前に落ちてきた。


 「ブルって声もでねえか? あん? 帰って母ちゃんのオッ〇イでもしゃぶってろ! クソガキ!」


 「はあ、たく、それで挑発してるつもりなのか? このチビひげデブは。今日からひでぶと名乗ることを許してやるよw ありがたいだろ? ププッ」


 肩をすくめ、ヤレヤレのポーズをした後、超高目線でおどけてみせる。


 戦いにおける挑発は重要な戦術だ。

 相手が冷静さを欠き感情的になれば攻撃が雑となり、付け入る隙が生じやすく戦いが有利に運べる。


 「クッ、こんクソガキ! ブッ殺す!」



   本選一回戦、はじめっ!!!!



 コロシアムを震わす銅鑼の音と共に大歓声が会場を覆った。





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