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花の唄が聴こえる  作者: FRIDAY
序:ひとりと一匹は旅に出た
7/63

7 エリシア・ハルモニア

「そこに座って待ってて。今、紅茶を淹れるから」

 言われたとおりに、ハルカは示されたソファに座る。

 館長室である。事務室ではない。

 さすがのハルカも緊張して身を固くしていた。

 エリシアは実に気軽に招き入れてくれたが、この部屋は王室関係者が招かれても何も不思議でない部屋なのだ。

 今ハルカが尻を載せているこのソファにも、王室関係者が同じく尻を載せていたのかもしれないのである

 そう考えると、足元で呑気に前脚の手入れをしている猫が恨めしい。ちょっと蹴りでも入れてやろうか。

「ストレートで飲める? ミルクはあったほうがいいかな」

「あ、いえ、ストレートで」

「ん。猫君はミルクだね」

 エリシアが戻ってきて、ハルカの前に紅茶のカップを、猫の前にミルクの平皿を置いた。

「有り難うございます、館長」

「もう、館長なんてよしてよ。呼び捨てでいいって」

「わあ、エリシアさんのとこのミルクってすっごい美味しいんだよね! いっつも安物のミルクばっかりだからほんとにうれじやぉうっ」

「……ハルカちゃん、あんまり乱暴なことしちゃだめよ?」

「あ、はーい」

 にこやかに紅茶をとるハルカ。ふんずけられた尻尾を抱えて恨めしげに見上げる猫の視線などどこ吹く風だ。

 紅茶を口許に近づける。湯気とともにいい香りが鼻腔を満たす。ハルカは紅茶に詳しくはないが、どうやら相当にいい紅茶だというのはわかった。

 一口、口に含む。

「……ほああぁぁあ」

 背骨を抜かれたような声が聞こえた。ハルカの声ではない。誰かと言えば、いや、この場にはあとは猫しかいないのだが。まあ案の定、猫の声だった。

 皿のミルクを一口飲んだ猫は全身で感動を表現していた。

「さすがエリシアさんだ……ミルクの質からハルカとは段違いだ……!」

「…………」

 とりあえず蹴っておいた。

 もう一度紅茶を口許に近づけ、しかし今度は口に含まずに、香り立つ湯気越しに向こう側に座ったエリシアを見つめた。

 エリシアもまた、同じく紅茶を飲んでいる。

 口許にカップを持ったまま、その湯気越しにエリシアを見る。

 率直に言って、エリシアは美人だった。同性のハルカの目で見ても、その点に異論はない。目鼻立ちはすっきりと整っており、新雪のような肌に碧の瞳、薄桃色の唇と、妬む気も起きない。

 特に、エリシアの髪。彼女の髪は肩口で切りそろえられており、櫛通しも非常に良さそうであるが、それよりも何よりも、

 あの色がなあ……

 そればかりは、ハルカは羨ましいと思わずにはいられない。

 エリシアの、金糸のように流れ輝く髪。実はハルカは、幼少期から密かにあの髪の色に憧れているのだった。

「――それにしても、こうやって外でハルカちゃんを見るの、本当に久し振りよね」

 カップを置いて、エリシアがこちらに視線を向けた。ハルカも慌ててエリシアの髪から瞳に向き直る。

「えと、あー、そうですね」

「……何か、あったの?」

 眉尻を下げて、やや心配そうな表情になる。だからハルカは慌てて、

「そ、そんなことないです! な、何も、あ、いや、何にもないってことはないんですけど」

「何か、嫌なこと?」

「違います!」

 強く言ってしまい、ハルカはそんな自分に戸惑って次の言葉につながらなくなった。思わずエリシアから視線を逸らす。が、

「嫌なこととか、そういうんじゃなくて……何ていうか」

 台詞は、さっきまで入念に練っていたはずなのに、慌てたお陰で全て消し飛んでしまっていた。

「……そのう……」

 頭に血が上り、体温もどんどん上がっていき、そして、

「――あ」

 鼻血が出てきた。


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