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花の唄が聴こえる  作者: FRIDAY
肆:広がる白円
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6 手持ちの薬草で間に合うと思います

 アレスクに案内されたのは、村にあるうちの一軒だった。ドアを軽くノックして、「アレスクだ、入るよ」

 やや埃っぽい一部屋だ。奥の寝台にひとり、横になっている少女と、付き添うように壮年の女性がひとり。

「アレスク? どうしたのさ、いきなり」

 驚いた顔で振り返った女性は、アレスクを見るとひとつ吐息し、止めていた手を再開して、ベッドに横たわる少女の額の布を取り換える。濡らした布巾だろう。

「いやさ、例の魔法使い、この子なんだが、エカリーの風邪に薬を出せるかもしれないって」

「え、本当かい?」

 再び驚いた顔で振り返るも、アレスクの傍に亡羊と立つハルカを一瞥して、不審げな表情になった。まあまあ、とアレスクは苦笑する。

「駄目で元々さ。診させてやってくれ。この子からも、エカリーに訊きたいことがあるんだってさ」

 恐る恐る歩み寄るハルカに、女性は不審そうな顔は変わらないまでも、ベッドの前を空けた。

「何か訊くにしても、障りない程度にしておくれよ……何だい、魔法で治してくれるって?」

「んー、魔法で治すというよりは、魔法で症状を把握して、薬草を処方する感じかな」

 突如聞こえた少年のような声に、女性が驚いて視線を落とすと、黒猫が小さく座っていた。

「あれま。この猫、喋るのかい」

「ハルカの使い魔兼通訳だよ」

 通訳は余計だ、とハルカは内心に毒づくが、あながち否定もできない。

 ともあれ、小さく会釈してベッドの傍らに寄る。母親と同じ薄い茶髪の少女は、ハルカよりいくつか年若いくらいだろうか。頬は紅潮しており、呼吸はやや浅く、早い。ハルカを見返す瞳も熱で茫洋としている。

「こ、こんにちは。私は、ハルカといいます……薬、が作れるか確認したい、から、少し、失礼するわ、ね」

 そっと、額の布を一旦外し、手を当てて熱を測る。布を戻し、手首を取って脈を、口を開けてもらって喉奥を覗き込む。

「咳と……鼻水は」

「今は落ち着いてるけど、咳は出てるよ。鼻水はそれほどでも」

 母親の回答に、ハルカは頷いた。続いて、エカリーの額に右手をかざす。

 かざしたハルカの掌が魔力の光を帯びる。

 数秒瞑目。目を開けると、不思議そうに掌を見上げていたエカリーと目が合ってびくっとするも、すぐに視線と掌を外した。

「風邪、です……他の病気の併発はしていませんが、このまま衰弱すると、その恐れもあります……」

「薬は? あるのかい?」

 母親の問いに、ハルカは頷いた。

「手持ちの薬草で、間に合うと思います……」

 腰のポーチから、いくつかの二つ折りにした麻布を取り出す。開くとそこには、乾燥させた薬草が数種類挟まれている。それらをいくつか見繕ってまとめて手に持った。

「それをどうするんだ? この村には薬師なんていないから、薬研も何もありゃしないが……」

「いえ……大丈夫です」

 言下に、再びハルカの繊手が光を帯びる。同時に、薬草の束がハルカの手を離れ、宙に浮く。

 お、と一同が見守る前で、軽く浮いた薬草の束がくるくると回転し始めた。見る間に回転は速度を上げ、先端から解けるように粉末化していく。しかしながらいつもの如く、風は感じず、粉末が飛び散ることもない。

 みるみるうちに全ての葉が粉末になると、今度はその粉が収束し、小さく、いくつかの球体を形作る。大きさはひとつまみ、といったところだ。数は5つ。

「丸薬……です。粉よりは、飲みやすいかと……一日一回、食事後に服用を、してください」

 とりあえずひとつ、と水を入れたコップを受け取り、エカリーの上体を浅く起こす。

「……飲めます、か……?」

 先に少し水を含ませる。嚥下できていることを確認してから、丸薬をエカリーの口に入れた。

「あまり長く口に入れておくと、溶けて、苦くなるから…すぐに飲んで」

 すぐに水も追加で飲ませる。少し噎せたが無事に飲み込めたようだ。

 頷いて、エカリーを元の通り寝かせた。数秒、エカリーは茫洋とした視線を彷徨わせていたが、すぐに目を閉じると、寝息を立て始めた。心なしか、既に呼吸が落ち着いているようだ。

 その様子を見届けると、ハルカはアレスクとエカリーの母親に身を向ける。視線はあらぬ方向を向いてしまっているが。

「薬を飲み終える頃には、かなり快復できると思います……その頃に、また話を聞きに来ます」


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