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花の唄が聴こえる  作者: FRIDAY
序:ひとりと一匹は旅に出た
4/63

4 まずは返却

「格好つけて出て来たのはッ──いいんだけども」



 ガラガラガラガラガラガラガラ──



「ああもうこのッ──おっもいッ」

 大小厚薄様々な書物が山と積まれた台車を引きながら、ハルカは悪態をついた。

「何だってこんなに重いのよっ!」

「それはハルカがいつまでも滞納し続けたからでしょ?」

 台車の上、本の山の頂点に悠々と寝転ぶ猫が言う。

「あーもう、お前も手伝え!」

「猫の手も借りたいとはよく言ったものだけど、実際のところ猫の手なんて借りたって大した役には立たないよね」

 余裕綽々だ。そんな猫の態度に眉間に皺を寄せたハルカは、口の中で何かを唱えた。

「や、わ、ちょっと、そんな御無体な!」

 猫を中心に突如起こったつむじ風に巻き上げられ、悲鳴とともにじたばたするがあえなく地面へ落下する。

 さすがにそこは猫らしく墜落寸前に身を回して着地したが、ほっと一息つくとにゃーにゃー騒ぐ。

「いきなり何すんのさ! ハルカには全く動物愛護の精神が足りてないよね!」

「次は埋めてやろうか?」

「すいませんでしたッ!!」

 その場に深々と伏せた猫は一瞥するのみで、再びガラガラと台車を引き始める。

「やっぱり真面目に舗装しておくべきだったわ……遠い。街道まで遠過ぎ!」

「自走とか筋力の強化は習わなかったの?」

「習ったけど、基本教養だったからもう覚えてないよ」

 言いながらも、ハルカは一応立ち止まり、少し離れて台車に向き直った。

「何するの?」

「一応、自走の魔法を試してみる」

 ものは試しよ、と少し記憶を探って詠唱を思い出すと、集中するために両目を閉じて台車へ向けて短く歌のようなものを唱えた。

 風もないのに、ふわっとハルカの黒髪の襟足が浮き上がる。

「……そうやって、魔法を唱えてる間は、カッコいいんだけどねえ」

 ぼそっと、ハルカに聴こえないように極めて小さな声で猫が呟いた。それでもいつもならば耳聡く聞きつけて蹴りを入れられたかもしれないが、慣れない魔法を行使して集中しているハルカは気付かない。

 やがて、詠唱を終えたハルカが目を開ける。浮き上がっていた髪も元のように降りた。

 しかし何も起こらない。

 沈黙の後、猫がぼそっと、

「失敗した?」

「かしらね。やっぱりどこか間違ってたかな……お?」

 引き直すか、と近付いたところでようやく、ギギギ、と軋みながらゆっくりと台車が動き始めた。

「できたわ。やってみるものね」

「ボクが気付いたお陰だね。誉めていいアァッ!!」

「ふむ。これなら最初からやっておけばよかったわ」

 ハルカは自分の魔法の出来栄えに満足げに頷く。そして、少しずつ加速していく台車と並行して歩き始めた。

「この分なら、予定よりずっと早く街に着けそうね」

 口調には台詞ほどの元気もなく、心なしか震えてもいる。それでもなお、ハルカは声を励まして、

「先生方にも挨拶して行った方がいいわよね……緊張する。何て言えばいいのかな」

 ガラガラガラ……という音を横に並べながら、あくまでも表面上は気楽さを装って、ハルカは敬愛する先生方への挨拶をあれこれと模索しながら歩いてゆく。



「――あれ、ねえ、ちょっとハルカ? 置いてかないで? あ、もうほんとに、抜けなッ――待ってェ!」


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