12 想い出の庭
庭だった。
ただし、枯れた庭だ。
「ここは……?」
すててて、と足取り軽く中央付近まで歩いて行った黒猫は、そこにあった白石の台座のようなものに飛び乗った。綺麗に円形にカッティングされた石が、二段重ねになっており、二段目は一段目よりも幾回りか小さい。その二段目にまで飛び移ると、黒猫は周囲を見渡し、次いで足元を覗き込む。
ハルカも、フェリエに押されるがままに王女の後に続いて入っていく。
広い空間だ。四方は石壁で、見上げれば壁に切り取られた青空が見える。扉から中央の、黒猫が乗っている台座までは、舗装はされていないまでも踏み固められており、雑草がわずかに顔を覗かせる程度にとどまっている。その道は、白の台座から別の方へも続いており、視線で追っていくと壁際に、木の柱に屋根を載せただけの簡素な小屋のようなものがあって、そこに鋤や鍬、スコップ、麦わら帽子など、庭作業をする用具がいろいろと立て掛けられていた。
そしてそれ以外は、庭だ。
赤レンガで枠を仕切られた内側は、さらに小さな木製の柵で区画を分けられている。まっすぐに置かれながらも、時折ガタつきのあるそれは、手作り感が強い。その枠内に満たされている土は、よく吟味して選ばれたのであろう上質なものだ。
けれどそこには、何も植えられていない。
手入れのされない庭は、朽ちるのも早い。レンガや木の柵はところどころ崩れているし、雑草も散見される。全体の綻び具合に比べると、腰の高さまでの雑草で満ちていても不思議ではない印象だが、
「草抜きだけは、頑張っていたんですのよ……フェリエが」
ああ……とハルカと黒猫はフェリエを見る。フェリエは穏やかな微笑みのまま無言。
んー、と台座を観察していた黒猫が、てしてしとそれを足で叩いた。
「やっぱりこれ、井戸だね。四方に向けて水路が繋がってる。……枯れてるけど。それも、枯れたのは何年も前だねコレ」
ええ、と頷く王女の足元を横切って、黒猫が戻ってきた。ハルカの横に座って、王女を見上げる。
「それで、王女様。もう大体察しはついてるけど、御用件を聞かせてもらえる?」
「ええ。ことここに至って、勿体ぶるものはありませんわ。ハルカさん――花の魔法使いさん。私が貴女にお願いしたいことは、ひとつ」
両の手を浅く広げた。この庭を、今や枯れ、最盛の面影を思い描くこともできないこの場所を示し、王女は願う。
「どうか、この庭を――おばあ様の興したこの庭を、一度でいいから、あの頃の姿を取り戻していただきたく思いますの」




