2 街外れの小屋
市街地を抜ける。
街を横断する幾本もの道のうちの一本に沿って、延々と東に向かう。中心部から離れるに従って商店よりも住宅が多くなっていき、いつしかそこも抜け、石畳の道がいつしか整備されていない土の道となり、左右に田畑が広がるようになり、それをも過ぎて延々と先を行く。
田畑の果てまで行き着くと、道はそのさらに先、林の中まで続いている。その林を抜け、その先。
不意に、視界の開けたところに出る。
それだけ市街地から離れたところ、もはや誰も居を構えてなどいないと思われるほど便も悪く人気もないところに、しかし一軒の家が建っていた。
背後に茂った森に半ば埋もれるようにして建っている。
元は白かったのであろう壁は、蔦が絡まってその隙間から垣間見えるだけになっている。
大きくはない。家というよりは小屋と言った方が正しいだろう。石造りの壁に木の板を載せて屋根としている。
一見したところ、人が住んでいるようにはとても思われない。家の外観もさることながら、吹けば飛んでしまいそうな木製の扉から、道というものがない。辛うじてここまでは続いていた街道も、その扉までは届いていなかった。扉の前、いやその家の周囲一帯は、咲き乱れる白い花で埋め尽くされていた。どうやら全て同じ花であるらしい、これだけ密集すれば個々の育ちは悪くなりそうなものだが、そんなことは一切関係ないとばかりに元気よく咲いている。もしかすると何らかの魔法がかけられているのかもしれない。
いつもならその通り、まさに無人の小屋といった風情の家であったが、しかし今日はいくらか様子が違った。
今日は非常に珍しいことにその扉が小さく開かれており、さらには家の前に大きめの四輪のリヤカーが横付けされている。それだけでなく、そのリヤカーの上には何やら途方もない数の書物が几帳面に積まれ、山になっていた。
それら書物はその多くが学術書らしく、『治癒系の魔法と相性のいい植物』『毒性花弁大全』などと言ったものがあるが、中には『これでカンペキ! 十全なるコミュニケーション』とかいう雑誌も混ざっている。
そんな家の、中。