㉟
3/2 二話目
「えっと? ランダン様が、なんで??」
ジャンナはランダンのことを知っていたらしく、驚いた顔をしている。どんな表情を浮かべていてもジャンナを見ていると穏やかな気持ちに言う。
「あはは、『救国の乙女』様、凄く驚いてるねー。それにしてもクラレンスが『救国の乙女』様とそんな仲になるとはびっくりだよ。何でも何も、俺が此処にクラレンスを連れてきたんだけどなー?」
おどけた様子でジャンナを見るランダン。ジャンナを思わず抱き寄せる。
「お前はジャンナに近づくな」
「あはははは、なんなのもう。これだけべた惚れなの超面白いんだけど。って、睨むな睨むな。俺もクラレンスの事を『魔王』の側近と思い込んで酷い扱いはしたけどさー。呪術解けて真っ先に迎えにいったんだぜ?」
「それは感謝している。それでこれだけはやくジャンナの元へ帰って来れたし。でもそれとこれは別だ」
俺がジャンナの元へ即急に戻ってこられたのは、ランダンのおかげである。
そのことは感謝している。俺に謝っても仕方がないことが分かるからこそランダンは昔のような態度をしているのが分かる。
どういう態度をしていようが、俺にとっては今はどうでもいいが。
「ふぅーん、それにしても本当に『救国の乙女』様は『救国の乙女』になったんだね。俺達、クラレンスのこと、『魔王』の側近って思い込んでいて殺す気満々だったし。……本当、クラレンスを殺してなくて良かった。でも本当にすまなかった」
「ああ。俺がこうしているのもジャンナのおかげだ。ジャンナは俺の女神だ」
「って、おーい、俺の謝罪は無視なのか。……王城に行ってほしいんだけど、あとエレファーはどうする気だよ」
ジャンナの家に来る前に話した通り、俺はエレファーとの婚約を続けるつもりはない。それはランダンも承知だろうが、あえてその言葉を口にしたのは俺の口からちゃんとジャンナに聞かせたかったからだろう。
「ランダンの謝罪とかどうでもいい。王城に行く気も特にしない。俺を捨てたのはエレファーだし、俺はジャンナと一緒にいる」
「……おおう、俺達のせいだけどさ、クラレンスは本当冷たくなったな。本当にごめんな。お前が『救国の乙女』に救われて、『救国の乙女』と一緒に居たいのはわかるけどさ。王城には行った方がいいぞ。それに『救国の乙女』が王城で、金食い虫とか言われて扱いがひどいのは知って――って、睨むな。これを言っているのは俺じゃなくて、王城の連中だからな!! 『救国の乙女』の事を愛しくてたまらないって思っているならちゃんと、『救国の乙女』のおかげでクラレンスが救われたっていうことを示すべきだろう」
ジャンナが金食い虫とか言われているのが本当に許せない。
ランダンの言っていることももっともだ。俺の女神がそんな風に言われているなんて許せない。俺のジャンナは、俺を救ってくれた存在だ。ジャンナがいなければ俺は此処にはいないんだ。
――ジャンナの名誉をきちんと回復させたい。
「それもそうか。じゃあ王城にいって、どれだけジャンナが女神かを力説しよう。いや、駄目だな。ジャンナが馬鹿にされるのも嫌だ。ジャンナのすばらしさを国中に広めないと」
「……え、ク、クロ?」
ジャンナがどれだけ素晴らしい女性なのかを、伝える必要がある。
ジャンナのすばらしさを広めないといけない。大体、俺が呪術にかけられたからといって俺の言葉を何一つ聞かなかった連中が俺のジャンナの酷い噂を話しているなんて許せないから。というか俺の女神のすばらしさを実感しろと思う。
「そうかそうか。じゃあ、『救国の乙女』も一緒に王城に行こうか」
「ああ。ジャンナも一緒じゃないと行かない」
「え、ちょっと、クロ。私が王城に行く、なんて……」
「大丈夫だ。ジャンナには手出しをさせない」
「そんな怯えなくて大丈夫だよ。俺もクラレンスから散々、『救国の乙女』にどれだけ救われたのか聞かされてたからね。ちゃんと俺も説明するからさ」
王城に行くという話を聞いて、ジャンナが戸惑った表情を浮かべている。王城に行くことを不安に思っているらしい。
そんなに心配する必要はないのに。ジャンナを悲しませる存在がいるのならば、俺はすぐに物理的に黙らせる気がある。
「大丈夫だ」
そう言ってジャンナに笑いかければ、ジャンナは恐る恐る頷いた。
それからランダンが魔法を使って、王城に俺たちは飛んだ。初めての転移に不安がっているジャンナを安心させるように抱きしめたら、ジャンナも抱きしめ返してくれて幸せな気持ちになった。
王城の連中に会うことは、気が進まない。それでもジャンナがいるなら、何だってやろうと思う。そしてジャンナとこれからも一緒にいるためなら、どんな面倒なこともきちんと終わらせる。
とりあえずジャンナの元婚約者である陛下に釘をさしておきたい。ジャンナはもう俺の物なんだって。
「――クラレンス・ロード。よく戻ってきた。そして済まなかった」
「謝罪は受け取ります。陛下」
謁見の場にたどり着いて、ジャンナを抱きしめながらその言葉に答える。
「それで、その女性は……?」
「貴方達が『救国の乙女』と呼んでいる存在ですよ。そして、俺にとっての女神だ」
問いかけられて、俺はジャンナを抱きしめたまま堂々と答えた。
ジャンナが俺の腕の中で身体を震わせたのが分かった。不安に思わなくていいよ。ジャンナ。俺はジャンナが悪いようには絶対にしないから。そう思いながらぎゅっとジャンナを抱きしめる。




