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『救国の乙女』になると預言されて、早二十年経ちました。  作者: 池中織奈
クラレンス・ロードが幸せをつかむまで
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3/1 二話目

 その角の生えた魔族の女性は、俺を見て一瞬焦った表情を浮かべて――だけど、次の瞬間には笑った。




「クラレンス・ロード。貴方はそれをどうにかした所で、幸せにはなれないわ」




 何を言うかと思えば、そんなことを言いだした。




 『魔王』もそうだったが、彼の傍にいる魔族は決して自我がなく暴走しているといったそういう存在ではなかった。ただこの国を侵略しようとしていた。『魔王』なんて名がついているけれど、それは国家同士の侵略と似たようなものだった。




「――貴方が呪術を解いたところで、貴方をまわりが信じなかったことは変わりがないでしょう。貴方と周りは昔のようには戻れない」



 そんな当たり前のことを魔族の魔族の女性は口にする。




 一度壊れたものは、修復は出来るかもしれないが、元通りにはならない。それは物と一緒だ。特に人間関係なんて、一度こじれたら戻ることはないものだ。

 俺は昔のようにエレファーたちに接することは出来ない。俺にとってジャンナ以外の存在は信じられないものだ。





「だから?」




 俺がこうして目の前の魔族の女性の話をただ聞いてしまっているのは、何を言い出すのだろうかと少し興味を引いたからだ。




「――貴方、このまま『魔王』にならないかしら。クラレンス・ロード、貴方は人間以外の血を引いているでしょう。ならば私たちと一緒じゃない」




 俺と魔族の女性は一緒だと、そんなことを言いだす。




 でも考えてみれば、ある意味一緒なのかもしれない。俺は人間以外の血を引いていて、純血の人間とは明確に違いがある。でもだからと言ってこんなことを言いだすとは思わなかった。






「私たちはこの国を憎んでいるわ。私たちはこの国に迫害されてきたもの。だからこの国を壊してしまおうと思っていたの。残念ながら、貴方という例外に『魔王』様は倒されてしまったけれど、貴方でも問題ないわ。貴方一人が暴れれば、この国はどうにかできるもの」




 この国を憎んでいると、女性は言う。その迫害されたというのはいつの話なのかは分からない。長生きしているからこその人間からはずっと昔の話なのか、それとも先祖が迫害されたことでそういう風に憎しみを募らせたのか。

 何にせよ、色んな出来事が積み重なって『魔王』が生まれたのだろう。




 確かに俺が暴れれば、どうにでも出来るかもしれない。寧ろそれを望んで呪術をかけたのだろうと思う。――俺は実際にジャンナに会わなければ、自棄になって大暴れしたかもした可能性は高かった。



 だからこそ目の前の女性にとって、俺がこうして呪術をどうにかしに来たことは予想外だったのだろうと思う。





 ジャンナだったら、こういう女性の心だってほぐせるのかもしれない。ジャンナはそういう存在だから。

 そういう話を聞いて同情しないわけではない。でも俺はこの魔族を助けようとは思わないし、共感して行動しようとも思えない。





「――貴方だって同じでしょう。幾ら呪術にかけられたからといえ、すぐに手の平を返した周りに絶望したでしょう。もうこんな国は嫌だと嘆いたでしょう。ならば貴方にとってこの話は悪い話ではないと思うの。だから――『魔王』にならないかしら。その鬱憤を晴らすことが出来るのよ」





 そんなことをその女性はいった。




 俺が絶望していると確信を持っているといった口調。




 確かに俺はジャンナに会わなかったら、そうだったかもしれない。誰も本当に俺のことを受け入れてくれなかったら……、誰もが俺のことを信じなかったのならば……、俺はそもそもこうして此処に来ることもなかっただろう。




 そしてこういう誘いに乗ってしまったかもしれない。どうせ呪術が解けても変わらないと、意味がないと、そう考えて。



 だけど――、俺はジャンナに、俺の女神に出会った。

 思わず女性の誘いに笑った。笑った俺を女性は訝し気に見ている。





「――俺は絶望なんてしていない。だからその誘いには乗らない。俺を待っている人がいるんだ。『魔王』なんて俺の女神の傍に似つかわしくない」

「え?」




 女性は俺が何を言ったか分からないと言った表情をした。




「『魔王』様を触媒にした呪術がきかない人なんていないわ。そんな強がりはおよしなさい!! 貴方を受け入れる人なんていないのよ!!」

「はは。きいていたさ。ちゃんとな。俺は誰にとっても『魔王』の側近だった。誰の目から見てもそういう風に見えた。だからお前たちの呪術は成功しているさ」





 ――呪術はちゃんときいていた。ジャンナにだってそれがきいていないわけではなかった。だけれど……ジャンナの心は『魔王』や魔族が想像の範囲にいなかった存在だった。

 俺の女神は、誰よりも優しく、美しい。




「なら――」

「俺の女神がお前たちの想像よりも美しかったというそれだけの話だ」





 これ以上話す必要もない。目の前の魔族にジャンナのすばらしさを告げる必要もない。俺はジャンナの元へ帰る必要がある。




 もう気になったこともある程度聞けた。




 俺はジャンナから借りた剣を手に、向かっていった。まずは魔族を殺す。『魔王』の側近と言えるだけの女性だったのだろう。魔法に翻弄され、少しだけ手間取った。

 だけどそれだけだ。




「やっぱり……貴方は、『魔王』に……」





 最期にとどめを刺そうとした時に、そんな言葉をかけられた。

 あきらめの悪い魔族だ。




「――断る」




 俺はそれだけ告げて、魔族を叩き切った。



 そしてその後、触媒を破壊した。


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