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2/28 八話目
「ジャンナ、ジャンナはこの国や大陸が大変な目に遭うの嫌なんだよね?」
「……え、ええ。もちろん。この国に感謝しているもの」
俺は周りがどうなろうとどうでもいいと思っている。
――俺のことを信じなくて、俺のことを『魔王』の側近だからと追いかけた連中なんてどうでもいい。どうなろうと知ったことではない。
だけど俺の女神であるジャンナはそんなことを望んでいない。
こうしてどんな目にあっても周りに感謝し、慈愛の心を持っている。そういうジャンナだからこそ、俺は愛おしいと思う。そういうジャンナにだから、俺は心惹かれている。
俺はジャンナの言葉に笑って、心の中で一つの事を決意する。
「――ジャンナ、俺はやることがある。だからちょっといってくる」
俺は自分のことにケリをつけにいくことにした。おそらく俺の今の現状は、『魔王』か、『魔王』の周りによる呪術の結果だろう。呪術でなかったとしても、『魔王』関連で俺がそういう風になっていることは確かだろう。
俺が『魔王』の側近と思われたまま、ジャンナの側にいればジャンナに迷惑をかけてしまう。それに女神であるジャンナには、『魔王』の側近と言われている俺は釣り合わない。
ちゃんとケリをつけて、それで此処に戻ってきて、ジャンナに信じてほしい。
ただジャンナが俺の言葉にショックを受けて、寂しそうな顔をしていて、このまま連れて行きたくなった。
でもこれは俺がケリをつける必要があることで、ジャンナは戦闘職ではないから連れて行かない方がいい。
だから俺は寂しそうな顔をしたジャンナに手を伸ばした。
ジャンナの頬に手を伸ばす。
「ジャンナ、そんな寂しそうな顔をしないで。俺は他の誰でもない、ジャンナのために成し遂げなければならないことを、成し遂げにいく」
「私の、ため?」
ジャンナが不思議そうな顔をする。そのぽかんとした顔が愛おしいと思う。
俺がこうして自分のことにケリをつけようと思ったのは、自分のためというか、ジャンナのためだ。
俺の女神がこんなところで、『救国の乙女』になるはずだった女性として朽ちていくなんて許せない。周りがジャンナのことを謗るのも許せない。――ジャンナが素晴らしい女性だと知らしめたい。
周りからそう認められたジャンナはきっと戸惑いながらも笑うだろう。そんなジャンナの隣に俺が居れたらいい。
「俺はジャンナの元に必ず戻る。俺が帰る場所は此処だから。だから、ジャンナはただ俺が帰ってきた時に、おかえりと言って。俺の女神が、おかえりと笑いかけてくれる――それ以上の褒美はないから」
ただおかえりと、ジャンナに笑いかけてほしい。
それが俺にとってのご褒美なんだ。ジャンナが俺を受け入れてくれて、笑ってくれたら――俺はただそれだけで幸せだから。
「ジャンナ、俺の女神。——愛している」
可愛い。優しい。そんな俺の女神。
顔を赤くするジャンナが可愛い。ジャンナは俺のことを嫌いなわけじゃないだろう。俺の言葉を徐々に受け入れている。
そんなジャンナに思わず、顔を近づけて口づけた。
「やっぱり、可愛い、ジャンナ。——返事は、俺が帰ってきてからして。俺以外、側におかないでね、ジャンナ」
顔を真っ赤にしているジャンナは可愛かった。
俺はジャンナに嘘を吐きたくない。ちゃんとこの状況をどうにかして、クラレンス・ロードとして此処に帰ってくる。
――そう決意して、俺はジャンナの家を後にした。




