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『救国の乙女』になると預言されて、早二十年経ちました。  作者: 池中織奈
クラレンス・ロードが幸せをつかむまで
78/88

2/28 七話目

「ジャンナ、可愛い」

「やっぱりジャンナは俺の女神だよ」

「流石、ジャンナ」




 ジャンナは一時的なものだと、吊り橋効果だとそんな風に言ったけれど、俺の心の中に広がる気持ちは、日に日に増していった。



 だってジャンナは、何時だって慈愛深くて、優しくて、可愛い。

 俺がそう口にすれば、何時だって戸惑うジャンナが愛おしいなと思う。



 ジャンナはあまり自分に対して自信がないようだった。人よりも様々な事が出来る多様多種な才能があって、それでいてこれだけ慈愛深い。

 ジャンナは誰よりも輝いていて、優しい人だと思う。



 ジャンナが誰ともかかわらない生活をしているからこそ、周りがジャンナのすばらしさを知らないだけで、きっとジャンナが表舞台に立てばジャンナのその優しさに心惹かれる人はきっといるだろう。





「ジャンナは可愛くて、優しくて、素晴らしい人だよ。ジャンナは特別じゃないなんていうけど、俺にとっては一番特別だ。俺の女神なんだから、もっと自信をもって。ジャンナは何でもできて、凄い人なんだから」



 それは本心からの、心からの言葉だった。




 けれどジャンナは戸惑いの表情を見せている。このまま俺の言葉をすべて受け入れて、ジャンナが俺とずっと一緒に居たいと思ってくれればいいのにと思う。

 ジャンナが俺に絆されますように――そんな願いを込めて、俺はずっとジャンナに言葉をかけ続けた。






「クロ、今日は何を食べたい?」

「ジャンナが作ったものなら何でもいい」



 ジャンナは俺に美味しい料理を作ってくれている。




 あの日から、余計にジャンナが作った料理を食べられることが幸せに感じられた。料理も上手なんてやっぱりジャンナは女神だと思う。





 ジャンナが中々俺の言葉を受け入れないのは、俺の気持ちが覚めることを恐れているのだと思った。

 ジャンナは『救国の乙女』として期待されて、結局その期待に応えられなかった。

 ジャンナをもてはやしていた人が、ジャンナが『救国の乙女』になれなかったからと顔をそむけた。

 そう言う経験があるからこそ、ジャンナは俺がそっぽを向くと思っているのかもしれない。



 それは何だか面白くない。




「ジャンナ」

「……クロ、本当に私は貴方にそんな目を向けられるような人間じゃないのよ?」

「そんなことない。ジャンナはとっても可愛くて、俺のたった一人の女神」





 ジャンナに分かってもらうためにはどうしたらいいだろうか。――俺の女神が、俺の気持ちを分かってくれるようにするにはどうしたらいいだろうか。

 理解してもらえるようにジャンナの手を取って、その手に口づけを落とす。





「ジャンナがどんな人間だろうとも、俺の女神はジャンナだよ」




 そう言ったら、ジャンナは顔を真っ赤にしていた。

 その頬に触れたらきっと柔らかいだろうな、とそんな少し変態じみたことを考えてしまう。




「ジャンナ」



 ただただ、俺はジャンナの名前を呼ぶ。




 ジャンナの名を呼べることが嬉しい。こうしてジャンナが俺の声に恥ずかしそうに頬を染めることが嬉しい。

 ジャンナは日に日に俺がこうしてジャンナに気持ちを伝えるのに慣れてきたようだ。




「なぁ、ジャンナ。ジャンナは自分をないがしろにした連中をどうにかしたいとか考えていないの?」

「ないがしろにしたっていうのは……」

「王城の連中とか。ジャンナの婚約者だったのにジャンナ以外と結婚している陛下やジャンナに酷いことをいった王城の人たちとか。俺は俺の女神にそんな扱いした連中、ぶちのめしたいけど」

「私は全くないわ。……クロ、お願いだから物騒なことを言わないで」




 俺はジャンナが望むなら、王城の連中を殺したり、痛めつけたりするぐらい躊躇わずにやるだろう。

 だけどやっぱりジャンナは女神のように慈愛深い。俺のことを必死に止める。





「あのね、クロ。私は確かに王城で大変な目にも遭ったわ。やってないことを噂されたり、ひどい言い草をされたり、期待外れだと蔑まれたり――、って怖い顔しないの!!」




 酷いことを言われたり、蔑まれたと聞いて思わず怒りが顔に出る。



 ジャンナはそんな俺に慌てて、頭を撫でた。





「でもね、悪い事だけじゃなかったの。私はこの国から沢山のものを与えられたの。確かに嫌な思い出もあるし、『救国の乙女』になるって預言されたから今、こんな暮らしをしているけどね。

 でも、私はそんな預言がなければここにはいないの。ただの村娘として、何も学ぶこともできずに、生きていたと思うわ。私が錬金術を使えるようになったり、魔法を使えるようになったり、知識を蓄えられたのは全部この国のおかげだわ。

 だからね、私は感謝をしているの。私に沢山のことを与えてくれたこの国にね。だからどうにかしようなんてないわ」





 そんなことを口にするジャンナは、やはり女神だと思う。



 どれだけ悪いことがあったとしても、大変な目に遭ったとしても、それがなければ今のジャンナはいないから――、だから感謝している。それだけ言い切れる人はほぼいないだろう。

 俺はその心の美しさに本当にほれぼれした気持ちになる。





「やっぱりジャンナは女神だよ。優しくて、綺麗な、俺の女神」

「いや、だから違うって……」

「ううん、そうだよ。俺はジャンナみたいに考えられない。嫌な思いさせられたら相手を滅茶苦茶にしたいとか、そういう風に思っちゃう」

「思ってもクロはやらないでしょう? 優しいクロは」

「……本当に、ジャンナは女神だよ。俺がジャンナの言う”優しいクロ”でいられるのは、ジャンナのおかげだよ」




 俺が“優しいクロ”で居られるのは、ジャンナがいたからだ。

 ジャンナが慈しみを持って接してくれているから。優しい女神であるジャンナに出会えたから、俺はこうして穏やかに過ごせている。





「なぁ、ジャンナ。ジャンナは陛下のこと、まだ好きなの?」

「へ?」

「ジャンナが国に感謝しているのって、陛下のおかげ? 結局ジャンナ以外と結婚したのに」

「え、っと、確かに感謝しているのは陛下のおかげでもあるわ。私が王城で楽しく暮らせたのは陛下や友人になってくれた人がいたからだもの。でもまだ恋愛感情を抱いているかと言えば違うわね。私はちゃんと、陛下が結婚した時、祝福できたもの」




 気になっていたことを聞けば、そう言われた。

 その言葉に俺はほっとする。陛下にまだジャンナが心を奪われていたら嫌だと思ったから。




「そうか。……良かった」



 思わず俺の顔には、笑みが浮かぶ。笑った俺に、ジャンナも笑った。





こうしてジャンナと笑いあうことが幸せで、ずっと続けばいいと思っている。

けれど、俺が本当にジャンナの傍にいるために、ジャンナに信じてもらうためにもケリをつける必要がある。



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