㉗
2/28 六話目
「ジャンナ、俺の女神――」
「えっと、クロ? 貴方、私の昔話聞いてから変じゃない? 私が女神って何を言っているの??」
「俺は変じゃない。ジャンナが俺の女神なのは事実だ。女神のように慈愛深い」
ジャンナは俺を変なんていうけれど、俺は変なところは何もない。
この場所に騎士たちが訪れて、ジャンナが俺を差しだすことがなかった日から数日たった。
どうしてジャンナを疑ってしまったんだろうと過去の自分を殴りたいぐらいに、ジャンナが美しい心を持っていると知ったから。
誰よりも心が穏やかで優しくて、何処までも慈愛深くて、心が美しい。
本当に同じ人なのだろうかとそんな風に思うぐらいの、本当に女神のような人だと思ってならない。
戸惑い、恥ずかしがるジャンナが可愛いと思う。……婚約者だったエレファーにだってこんな感情感じたことがない。
最初にジャンナの事が可愛いだとか、愛おしいだとかそういう気持ちを感じた時、俺は自分で驚いて少し戸惑いを感じた。けれど、あの時の俺を差し出さなかった時のジャンナの真っ直ぐさと、その後に触れたジャンナの心の美しさを知ってそういう気持ちを俺が感じるのも当然だと思った。
「ジャンナ、良い獲物獲ってくるから誉めてくれ」
「ジャンナは、やっぱり女神のように優しい」
ジャンナに頭を撫でられると何だか嬉しい。他の奴に頭を撫でられたらきっと俺はすぐに拒否するだろうけれど、ジャンナに頭を撫でられるのは幾らでもやってほしいと思う。
ジャンナは俺の言葉にずっと戸惑っている。けれどジャンナは本当に女神のようなのだから、そういう言葉を受け入れればいいのにと思う。
「ジャンナ、どうしたの。俺をじっと見て」
「いや、えっと……」
「何かあるなら言って。俺はジャンナを困らせるもの全部、排除するから」
ジャンナがこれからも笑っていられるように、そのためならなんだってしたいと思った。
「クロ、そういうのはないわ。ただ、クロの変化に戸惑っているの。
あの日からクロは私にとてもやさしいでしょう。そ、その、私の事をめ、女神なんていったりとか。私は女神なんて大層な存在じゃないし、クロにそんな態度されるほど特別なんかじゃないのよ?
だからその、そういう態度しなくていいのよ?」
ジャンナはそんなことを言う。
俺の思いは何一つ伝わっていないらしい。ただジャンナが俺を差し出さなかったから、それに恩を感じてこういうことを言っていると思われているようだ。
「あの日から、ジャンナは俺の女神だから。ジャンナは大層な存在じゃないっていうけど、俺にとってジャンナは一番特別だよ。特別じゃないなんて卑下する必要はない。ジャンナは凄く素敵で――「ちょ、ちょっと待って!! 恥ずかしいから!!」
俺より年上なのに、ジャンナは顔を真っ赤にして、恥ずかしがっている。
戸惑い、顔を赤くするジャンナに思わず俺は笑ってしまう。
「ジャンナ、照れてるのか? 可愛い」
「だ、だだだから、そういうのはいいの!! 無理してそ、そんなか、可愛いとか言わなくていいの!! 私がそんな可愛げがないことぐらい自分が一番分かっているもの。
私のこと信用してくれていることは嬉しいけど、そ、そんな言葉言わなくたって、私はクロを追い出したりしないし、クロを差し出したりなんてしないもの。多分、クロは吊り橋効果みたいなので、私のこと、そんな風に言っているだけよ。だからもっと落ち着いて、ね?」
ジャンナは俺の言葉を信じなくて、俺がこういう言葉をかけるのは一時的なものではないかとそんな風に言う。
慎み深くて、遠慮がちなジャンナ。やっぱり女神か何かかと思う。
――この胸から湧き出る気持ちが、一時的なものだとは俺には思えない。というより例え、一時的なものだったとしても、この胸の奥に広がるあたたかな感情はきっとずっと残り続けるだろう。
「誰が、ジャンナを可愛くないっていったの?」
それよりも可愛げがないことは分かっているなんていう言葉が気になった。
「……えー、それはどうでもよくない??」
「もしかして元婚約者だっていう陛下? あの王城の連中?」
「え、っと、クロ、それはどうでもいいわ!! それよりも落ち着いて。ほら、冷静になってみたら分かるでしょう? 私が可愛くなんてないって。クロはとても素敵で優しい子だから、私じゃなくたって受け入れてくれるわ。だから落ち着いて、ね?」
「そのね? っていうの可愛い。やっぱりジャンナが一番可愛くて、綺麗」
「……ク、クロ、話聞いている? もっと落ち着こうね?」
「俺の女神の話を聞かないわけがないだろ。俺は落ちついている。落ち着いたうえで、ジャンナが可愛い」
俺がそう言い切れば、ジャンナは困ったように笑うのだった。




