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拾った青年 ③

 ぽかんとした表情をした青年を連れて、椅子に腰かけさせる。

 青年は意味が分からないといった表情のまま、何もしゃべらない。


 

 私はその前に食事を並べた。

 ぐうううううと、大きなおなかの音が鳴った。青年のお腹からだ。


 よっぽどお腹がすいているようだ。考えてみれば『魔王』の側近として囚われていたのならば、食事がまともに取れないのも当然だ。

 こうして外に出れているのもおそらく恩赦が下されたからということはないだろう。それならばあの王城から抜け出してきたのだろうか。囚人が捕らえられている場所から抜け出すなんて普通は出来ないはずだけど……。


「どうぞ」


 私が食べていいと許可を出すと、青年ははっとした顔をして食べ始めた。



 いきおいよく食べ始める青年を見る。


 誰かと一緒に食事を取るのが楽しみだと此処に留めようと行動しちゃったけど、この青年は大変だったんだろうなと思う。何があったのか分からないけれど、『魔王』の側近だと捕らえられ、そしてお腹を空かしていたんだと思うと、年長者としていっぱいお食べ! という気分になる。



 食べながら色々話してみたいと思ったけれど、ゆっくり食べさせてあげようって思った。



 なので私も食事を取りながら無言だった。我ながら作ったものが美味しくて満足する。青年も美味しいと思ってくれていたらいいんだけど。


 誰かにこうして食事をふるまうのも久しぶりだし、一緒に食事を取るのも久しぶりで、何だか何もしゃべらなかったとしてもとても温かい気持ちになった。



 一人の時間というのは大事だし、私もずっと誰かと一緒に居るのは苦痛だと感じることだってないわけじゃない。けれど、常に一人で過ごしているとやっぱり誰かと一緒にいる時間が大事だと思う。

 昔はそんなこと、全く考えていなかった。ただ『救国の乙女』として人に囲まれることが当然で、何も考えることなく、それを当たり前と思っていた。



 人に囲まれて、優しくされているのが当たり前だった日々はもうなく、私の今の日常は誰ともほとんど関わらない。


 そんな日々だからこそ、人との関わり合いが大切だとより一層思う。

 ……そう考えると目の前の青年を食事を終わった後も何処かに行かせてはいけない予感がする。私が青年を拾ったことに意味があるのかどうかは分からない。もしかしたら何の意味もないのかもしれない。



 それでも目の前にいる青年が悪い人には一切見えないし、『魔王』の側近なんて言われていることも含めて、話を聞くぐらいはしてあげれるのではないかって思った。というか、そもそも何で彼が『魔王』の側近なのだろうか。

 そのことは分かるけれど、どうしてそうなのかは疑問でいっぱいである。


 さて、目の前で勢いよく食事を口に詰めている青年を何と言ってとどまらせるべきだろうか。

 外に出たら追手がいるだろうし……、幸い、この家には放っておかれている『救国の乙女』だからこそ誰も訪れることはない。そのことを言って、とどまってもらおうか。



 私はそんなことを考えた。







「食事、美味しかった。ありがとう」



 青年は食べ終えると、淡々とそう言った。

 そしてじっとこちらを見つめる。その瞳が私を見据え、何か思案したような表情をする。



「邪魔をした。去る」


 そして青年は私に何か言いたそうにしているというのに、私に何か聞く事もなくそう口にする。そして椅子から立ち上がるとそのままこの家から去ろうとする。



「待って!! えっと、まだここで休んでいてもらっていいわ。倒れていたっていうことは体の調子が悪いのでしょう? だったら此処にいていいわ。幸いここには誰も来ないし、私だけしかいないもの。だから、此処にいなさい!」


 言い方が変になってしまったのは、どんな風に青年を此処に留める言葉を口にしたらいいのか分からなかったからだ。

 青年はまじまじと私の顔を見る。




「……俺と関わらない方がいい。それはなぜかわかっているだろ?」

「貴方が『魔王』の側近だっていうこと? 知っているわ。貴方が『魔王』の側近だということは一目みたら分かったわ」

「なら――」

「でも、だからといって辛そうな状況にある年下の男の子を放っておけるわけないじゃない! 『魔王』の側近だからこそ、貴方が此処から出たら大変な目に遭うの分かっているもの。それで黙って送り出すなんて出来ないわ。いいからしばらく此処にいなさい。ここには誰も来ないから、ゆっくりしていきなさい」



 『魔王』の側近だとはわかっている。でも、だからっていって放っておけるはずもない。あれだけ辛そうに悪夢を見ていて、此処から出たら追手に捕まってひどい目に遭うかもしれない年下の男の子を放っておくなんて私には出来ない。

 それに『魔王』の側近だとしても、悪い人には見えないのだ。私は私のやりたいようにする。私の心は青年を放っておけないと思っている。だから、その心に従う。




「いや、でも――」

「でもじゃないわ。いいから、ゆっくりしていきなさい!」



 結局、私はそう言って青年に此処にいるように押し切ってしまうのだった。





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