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『救国の乙女』になると預言されて、早二十年経ちました。  作者: 池中織奈
クラレンス・ロードが幸せをつかむまで
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「俺も、何か読んでみようかな」

「読みたいなら、家にあるものならどれでも読んでいいわよ」




 俺がそんなことを口にしたのは、ジャンナがいつも本を読んでいるからだった。



 それにジャンナは沢山の本を読んで、これだけの知識をつけたのだという。俺は本なんてほとんど読まないで生きてきたけれど、読んでみたいと思った。



「今まで本を全然読んでこなかった。身体ばかり動かしていた。でもジャンナと一緒にいると、本も読んでみようかなと思ったから」

「そうなの? でも今まで本を読んでこなかったなら、急に難しい本を読むと疲れるわよ。まずは簡単な本から読む? 伝承などの本もここにはあるのよ」





 俺が本を読み慣れていないというのを知ると、ジャンナは書斎から幾つかの本を持ってきてくれた。

 絵本や簡単な説明書の本、武器についての本や、英雄の伝承について。

 俺が興味を惹きそうなものをわざわざ持ってきて、「まずはこういう読みやすいのから読むのはどう?」とジャンナは問いかけてくる。




 俺はジャンナが持ってきた本を一つ一つ手に取って、まずは読みやすい絵本から手に取った。




「……あんまり本読まないから、とりあえずこれ読む」

「いいと思うわ。全然本を読まないなら、はじめはそういうところから読んだ方が読みやすいもの」

「ああ。それにこれは、昔聞いたことがある絵本だから」




 それは英雄譚をモチーフにした絵本だ。

 俺も昔聞いたことがある。それにエレファーも好きだと言っていた絵本だった。

 子供向けのものだったけれど、ストーリーは面白かった。一人の少年が伝説の剣を引き抜き、化け物を倒す物語。

 少しずつ強くなって、最終的には勝利し英雄になる物語。





「面白かった」

「楽しんでもらえたなら良かった。次は何か読む?」

「……今日はいい。明日読む。ちょっと外いってくる」




 ただ俺にとっては絵本でも少し疲れてしまった。ほとんど本を読んだことはなかったから、一旦明日にすることにする。




 外に出て、狩りを済ませて戻った時、ジャンナは書斎にいた。机に積まれた本は俺が関心を持ちそうなタイトルで、わざわざ探していてくれたのかと驚いた。

 やっぱりジャンナは優しいと思う。




 俺はやっぱりジャンナのことを心から信頼しているわけではない。結局互いの過去を俺たちは知っているわけではない。ジャンナが俺を信用させるだけさせて裏切ろうとしている可能性がゼロではない。

 ……それでも元々俺は全てがどうでもよくなっていた。ジャンナに拾われなきゃこのまますべてを壊して、俺も死のうかとそんな風に思っていたぐらいに。

 今は少しずつ動く気力がわいて、そういう気持ちも少しずつなくなってはきているけれども。




 ジャンナはある程度色んなことが出来るとはいえ、強さといった面で言えば俺の方が強い。例えばそういうことがあったとしてもどうにでもすることはできるだろう。でも出来れば、そういう悪い想像はあたらなければいいと思う。







 それから俺は時々本を読むようになった。






「クロ、本を読むのはどう?」

「結構楽しい」




 ジャンナに進められた本を何冊か読んだけれど、結構楽しいものだった。俺が今までの人生で本に触れてこなかったのは、少しもったいないことをしてたのかもしれない。

 本を読めば、少しずつ知識がたまっていく。






「ねぇ、クロは他の本には興味がない? 色んなジャンルの本がこの家にはあるのよ」

「……どんなのがあるんだ?」

「そうね。魔法のものとか、珍しいものだと呪術のものとか、あ、呪術の本を持っているとはいっても後ろ暗いことに使ったことはないわよ。ただ私は自分が何を出来るか模索していた時があって、その時に色んなことをやったの」





 ジャンナが呪術という言葉を口にしたため、俺は驚いた。

 呪術は人を呪ったりする力だ。ジャンナにはそういう力が似合わないと思った。だからその力についての本がこの屋敷にある事に驚いた。





「いや、それは心配していない。ジャンナはそんなことをしないだろう」

「あら、クロは私の事をそんな風に信用はしてくれているのね。嬉しいわ」

「一緒に過ごしていればそのくらいわかる。そもそもジャンナが本当にそういう事を行う人間だったら、『魔王』の側近と呼ばれている俺のことを拾ったり、面倒を見たりしないだろう。たとえ、ジャンナがこれで俺をだましていたとしても、それは俺の見る目がなかったというそれだけの話だ」





 ジャンナのことを心から信頼しているわけではない。それでも結局、ジャンナが本当に俺の敵であるのならば、ただ見る目がないだけの話なのだ。





「私はクロをだましたりしていないわよ。まぁ、口でいっても信用できないかもだから、そのあたりは行動で示すだけね」

「そうか。それにしても呪術の本は数が少ないのに、よく持っていたな。使い手も少ないのに」

「そうね、貰い物よ。この国も前までは呪術師などに対する差別も強かったものね」




 ジャンナの言葉にやっぱり不思議な気持ちだ。




 この国で呪術に対する差別がなくなってきているとはいえ、この国では危険とされていたこともあり、本などは少ない。英雄として活躍した呪術者がいたからこそ、少しずつ呪術は浸透しているが……、その本がこんな場所にあるのは驚きだった。




「呪術も、忌避されているものだからな。俺は……純粋な人間以外の血も継いでいるから、それに加えて呪術なんて学ぶ気もならなくて、それで学んだことはなかった」

「ああ。そうなのね。それは想像していたわ」





 俺自身他の種族の血を引いている。人間以外の血を引いているからこそ、俺は丈夫な身体だった。両親がというより、先祖にその血を継いでいたものがいたらしく先祖返りである。

 だから明確に何の血を引いているかというのは俺自身も分からない。ただ俺の身体は人間にしては傷が治りやすく、体力があった。それにたまに鱗のようなものが身体から零れ落ちる時もある。





「それに俺は、剣の方が好きだったから。あとは魔法も使えはするけど、やっぱり剣の方がしっくりきた」

「そうなのね。まぁ、興味を抱いたらでいいから読んでみたら? 全然知らない世界を知る事が出来るのは案外楽しいわよ」




 ジャンナがそんなことを言うので、俺は時間がある時に呪術の本を読んでみることにした。

 そして「そうだな。気が向いた時に読む」と言った俺の言葉にまたジャンナは笑った。


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