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『救国の乙女』になると預言されて、早二十年経ちました。  作者: 池中織奈
クラレンス・ロードが幸せをつかむまで
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「ジャンナ、これどうしたらいい?」

「これはね、ってちょっとまって、それじゃ駄目だわ」






 俺はあれからちょくちょく、時間があればジャンナの手伝いをしている。ジャンナは本当に博識で、俺はその知識の深さに毎回驚いて仕方がない。



 俺は剣を受け取ったあの日から、少しずつ行動を起こしている。なんというか、あの瞬間何かが変わった感覚だ。やっぱり俺にとって剣というものが特別であるという証であると思う。





 朝早くに目を覚まして、ジャンナが寝ているうちから走ったり、剣を振るう。朝から身体を動かすと何とも気持ちが良いものだった。





 ジャンナが起きてからは朝食作りを手伝ったり、ジャンナが疲れている様子の時は俺が作ったりする。

 俺は簡単なものしか作れないし、ずっと料理をしてきたわけではないから失敗もする。だけどそれでもジャンナは「ありがとう」と本当に嬉しそうに笑ってくれる。

 ジャンナの錬金や畑仕事の手伝いをしているうちに、俺も少しずつそれらの知識を手に入れて行った。午後になると剣を振るうことが多いけれど、それでもジャンナの手伝いはずっと続けている。






 手伝いを続けて、ジャンナはいつも「ありがとう」と笑ってくれる。それでも俺はジャンナから受け取っているものを全く返せていないと思う。ジャンナは当たり前みたいに俺が此処にいることを許してくれて、俺に笑いかけてくれる。





 それでも俺はそのことが本当は奇跡的なことだと知っている。ジャンナがただ俺を受け入れてくれるだけで、そういう人はほぼいない。ジャンナ以外の人は俺を『魔王』の側近だと追い立てていたから。





「なぁ、ジャンナ、俺、魔物狩ってこようか」




 だからそんな申し立てをした。

 俺はジャンナにもっと、色んなものを返していきたい。ジャンナが俺に心穏やかな日々をくれているから。






「それ、大丈夫なの?」




 ジャンナは心配そうな声をかけてくる。



 『魔王』の側近だと言われている俺が外に出て誰かに見つかったら――とずっとそれを考えているらしい。俺もその不安は少なからずある。




 だけど、



「大丈夫だ。人が来たら隠れる。魔力で誰かが近づいてくることは分かるから、どうにでもなる。ジャンナには迷惑をかけない」




 このあたりには人がほぼいないし、近づいてきたら分かるだろうからどうにでもする。ジャンナには迷惑をかけないように行動しないと……と目の前のジャンナを見ながら思う。




「本当に大丈夫?」

「ああ。すぐに戻ってくるしな。ちょっと俺とジャンナで食べる分を狩ってくるだけだから」




 そう言ってもやっぱりジャンナは、本当に大丈夫なのだろうか? と俺をずっと心配しているような表情を向けている。




 本当にジャンナは、俺が外に出てジャンナ自身が大変なことになるかもしれないなんて考えない。俺のことだけを心配している。そんなジャンナだからこそ、俺は進んで何か手伝おうと思うのだと思う。

 寧ろジャンナがこういう女性じゃなければ、俺はすぐにここを去ったと思う。いや、それどころか、ジャンナがこういう女性ではなければ俺をジャンナが拾うこともなかっただろうけれど。





「大丈夫だ。本当にすぐ帰ってくるから。それに俺もそろそろ感覚を取り戻しておきたいから」

「……そう、ならちゃんと帰ってきてね。ポーションも渡しておくから、ちゃんと戻っておいで」

「そんなに心配しなくてもいいと思うが。ちゃんと戻ってくる」



 ジャンナは俺の言葉に頷いてくれた。



 だけど俺のことを心配しているのか、ポーションや魔法具などをくれた。こういう魔法具を持っているあたり、やっぱりジャンナは不思議だと思う。

 ありがたくそれらを受け取る。


 それに何だかこうして誰かが俺のことを心配してくれるというのは、嬉しいことだった。




 そして森へと向かった。



 森の中には沢山の魔物たちがいる。それらの中で食用に向いているものを剣で狩ることにする。気づかれないように近づいて、一閃。やっぱり、前より動きが鈍っている。もっと鍛錬を積まないと。

 こうして狩りをすることで、ジャンナに何かを返せるし、俺も鈍っていた身体を鍛えられる。


 なんだかすごく身体が軽くなってくる。気分も良い。





 狩りを終えた後、ジャンナの家へと戻れば、



「おかえりなさい、クロ」

「……ただいま、ジャンナ」



 ジャンナが迎え入れてくれる。




 そして、「怪我はない? 大丈夫?」と近寄ってきて、俺の身体をぺたぺたと触る。『魔王』の側近と俺が周りに思われていても、俺に躊躇いもせずに触る。危険だとも思っていないのだろうか。



「大丈夫だ。それより、魔物、外においている」

「そうなの?」




 ジャンナと一緒に外に出る。外に出てジャンナに狩ってきた魔物を見せる。





「大きい。これをクロが? 大丈夫だった?」





 ジャンナは驚いたようにこちらを見る。


「このくらいなら問題ない。いい慣らしになった」

「そう……やっぱりクロは凄いわね。今日はクロの取ってきたお肉で料理を一緒に作りましょう」

「ああ」




 ジャンナは相変わらず優しい目を俺に向けてくれている。そういう表情を向けてもらうと何だか妙に安心する。



 ジャンナと一緒にキッチンに立って、狩ってきた魔物で料理をした。ジャンナと一緒に作った料理はおいしかった。


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