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『救国の乙女』になると預言されて、早二十年経ちました。  作者: 池中織奈
クラレンス・ロードが幸せをつかむまで
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「おはよう、クロ」

「……おはよう」





 ジャンナは王都にいって戻ってきても、全く持って態度が変わらない。此処の日々は穏やかなだ。だけれども時々ジャンナに眠っている時に近づかれると目を覚ましてしまったりはする。



 ジャンナはそんな俺でも笑顔を浮かべて受け入れてくれている。

 ただジャンナの側は落ち着いて、ただこの日々が続く事を心のどこかで俺は望んでいるのだと思う。

 ジャンナとの暮らしがただの一時期ではなく、もっとずっとジャンナの傍にいれたら穏やかな日々になりそうでそう言う日々を過ごせたらきっと楽しい日々になるだろう。



 俺はジャンナの手伝いをすることにした。



 ジャンナは俺のことをただ笑顔で受け入れてくれる。それは誰にでも出来ることではなくて、それにどれだけ俺が穏やかな気持ちになっているのかジャンナは自覚していないだろう。

 当たり前みたいにそういうことをやれるその器の大きさが凄いなと純粋に思っている。

 ジャンナは俺に何も強要することもなく、俺がやりたいようにやればいいとそんな風に言ってくれる。――そういうジャンナが俺を拾ってくれたからこそ、俺はこうして少しずつ何かをやろうという気持ちになっている。




「クロ、私は部屋でのんびりしているから、自由にしていてね」

「ああ」



 ジャンナは俺がその場に残っていても気にしない。俺が悪人だったのならば、何をするか分からないというのに。それだけ俺がそういうことをしないと思っているのだろうか。ジャンナは何処までも俺がそういうことをしないと、思ってくれている。心の底からそう信じてくれている。



 ……それがこれまで過ごしてきて分かった。これだけの気持ちを受け取ったらそういう悪いことをしようとする気持ちさえもなくなる。ジャンナの見た目は普通で、何処にでもいるように見えるけれど、そうではないのだ。

 こんな場所に一人で過ごしていているだけでも特異であるし、やっぱりジャンナは謎だらけ。

 ジャンナは不思議で、何もわからない。





 だけれど――、



「クロ」




 ただ“クロ”とその名前を呼んでもらうだけで、俺は何だか嬉しい気持ちになっていた。




 クラレンスとしての俺を、ジャンナは知らない。そしてジャンナの過去も今も、俺は知らない。

 そう言う関係性だからこそ、俺たちは心地よい関係になっているのかもしれない。




「ジャンナ」



 その名を呼べば、ジャンナは嬉しそうな顔をした。



「今日は天気が良いわね」

「ああ」

「外に出ると気持ち良いわよ。広い庭もあるからお昼寝でもする?」

「……ああ」



 ジャンナがあまりにも嬉しそうだから。

 あまりにも、やさしい笑みを浮かべているから。だから俺はジャンナの言葉に頷いてしまった。





 ジャンナは驚いた顔をして、その後、また笑った。




 ジャンナと一緒に外に出る。天気は良い。その天気のよさに思わず俺は笑ってしまった。……こうしてその太陽の明るさに、青い空に感動ができただけれども俺の心の余裕が少しずつ出てきた証だろうか。





「クロ、私は畑仕事するからゆっくりお昼寝していてね」





 そう言われて俺は頷く。



 俺は草木の上に寝転がる。自然の匂いがして、心豊かな気持ちになる。こんな風に外で昼寝をするのなんていつぶりだろうか。




 ジャンナが畑仕事を始めた。

 ジャンナの魔法により、畑に水がやられているのが見えた。ジャンナは畑の様子を見ながら穏やかに微笑む。




 その様子を見ながら俺はいつの間にか眠りについていた。



 ――途中で苦しくなった。『魔王』の側近だと言われた時のことを、よく夢で見る。今の穏やかさと、実際の俺の現状――そのギャップは激しい。穏やかな暮らしをしている俺を責める声がする。




 『魔王』の側近が何をやっているのだと、『魔王』の側近は滅ぶべきだと――そういう声がしている。

 息苦しくなって、何とも言えない不安が増す。



 そんな中でどこからか音楽が聞こえた。その音と共に、嫌な雰囲気が徐々になくなっていく。――その場は穏やかな雰囲気になっていた。



 その穏やかな音色と、優しい光景に俺はそのままもっと深い眠りの世界へと旅立った。


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