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『救国の乙女』になると預言されて、早二十年経ちました。  作者: 池中織奈
クラレンス・ロードが幸せをつかむまで
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 ジャンナとの日々は、穏やかに過ぎていく。



 その日も俺は、気持ちよく目を覚まし――、ただ今までと変わらない日を過ごす予定だった。“今までと変わらない日々“といってしまうほどに何だかジャンナとの日々が馴染んでしまっていることに驚く。

 ――どうしようもなく、ジャンナとの日々が穏やかで心地が良くて……俺が『魔王』の側近だと言われてしまっていることなんて夢なのではないかと思ってしまうほどに、ただ優しい日々だ。





「クロ、王都にポーションを売りに行くから、この容器にポーションをつめるの手伝ってくれない?」




 その言葉に俺は驚いた。

 それはジャンナが王都に向かおうとしていることにもだが、その容器にもだ。




「いいけれど……、この容器って」

「ん? どうかしたの?」

「いや……何でもない」




 そのポーションの容器は……、俺が『魔王』を倒しに向かった時にもお世話になったものだったから。それに騎士団でも買われているポーションだ。正体不明の腕の良い薬師が作ったものとして噂になっていた。それがまさか、ジャンナが作ったものなんて思わなかった。



 ――俺はジャンナと今まで何のかかわりもないと思っていたけれども、そうではなかったのだ。



 その事実に何だか不思議な気持ちで驚いた。

 ジャンナは俺の表情を見て、慌てたように口にする。






「クロ、心配しなくていいからね。私はクロのことは何も言わないわ。心配だというのならば、何か誓約をしてもいいわよ! あ、そうだわ。『約束の腕輪』とか『誓約の首輪』って魔法具とかもあるわ。それ使ってもいいわよ!!」

「……それを持ち出す時点で本気なのはわかるから、それはいらない」

「ならよかったわ!! 私はクロのことを誰にも言わないわ!!」




 ジャンナが俺のことを誰かに売ろうとしている可能性は当然ある。……だけど、ジャンナを見ていると、そういう風に見えない。信じていいのではないかと、そういう気持ちがちらつく。……でも信じた所で、裏切られるのは嫌だから俺のことはジャンナには言えないけれど。




 それにしても『約束の腕輪』も『誓約の首輪』もそれなりに高価な魔法具だ。一般人はそもそも持っていないものだ。

 それなのに……、ジャンナは二つとも持っているのだという。そのこともおかしい。やっぱりジャンナはただの女性ではないだろう。



俺の敵なのか、味方なのかは現状では判断がつかない。けどただの一般人ではない。何かしらの理由があってこんな所にいるのは分かる。



元貴族とかだろうか? でもジャンナの年代で没落した貴族というのは俺は知らない。

一応騎士として貴族の名前などはある程度頭に入れている。やっぱりジャンナはよくわからない。




 何処までも不思議で、俺が出会った事がない女性。




 数日間、王都に向かうというジャンナがポーションを売りに向かうための手伝いをした。

 そしてジャンナが王都に向かう日がやってきた。





「クロ、王都に行ってすぐ帰ってくるからね。いい子にしていてね」

「……ああ」




 ジャンナは何故だか変装をしていた。いつもと少し雰囲気を変えて、男性にも見えるような恰好をしている。



 どうしてそんな恰好をするのか分からない。

 気になったけれど聞かなかった。――ジャンナは王都にそのままの姿で向かうのが憚れる人なのだろうか?



 俺と一緒……ということなのだろうか? 

 俺のように何らかの理由があって、王都に行けない、いや、暮らせない? ポーションを売りにいけるということは、俺とはまた違った事情だろうけれど、少しだけ親近感を感じてしまう。



 ジャンナは、いい子にしているよう俺に告げてそのまま去って行ってしまった。




 このまま、ジャンナがいない隙にどこかに行くという選択肢もあった。ジャンナが王都にいって、俺の情報を王城に売る可能性もあった。




 ――けれど、ジャンナの笑顔を思い浮かべる。

 どこまでも俺を安心させようと、優しい笑み。俺のことを絶対に見捨てないとでもいうような、笑み。

 その笑みをもう少し見ていてもいいのではないか……。どうせジャンナが敵だったとしても、俺が力づくでここから逃げればいいだけなのではないか。――なんて、言い訳のようなことを思いながら、俺は残る事を決めてしまった。




 ジャンナがいない間、俺はジャンナの家で何をしようかと思う。

 ジャンナと出会ってから、少しずつ、なんだろう……何をしようかと考える余裕が出来てきた。

 だから何をしようかと思ってしまった。




 ただ家主であるジャンナがいない間に、何かをすることはどうかと思った。だからぼーっとしていた。




 ベッドの上に寝転がれば、眠たくなった。

 そして、気づいたら俺は眠っていたのだった。



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