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『救国の乙女』になると預言されて、早二十年経ちました。  作者: 池中織奈
クラレンス・ロードが幸せをつかむまで
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「――っ」



 強烈な痛みに、俺は目を覚ました。



 王城で、婚約者の傍に居る時にこんな攻撃を受けるだなんて思ってもいなくて、油断しきっていた俺が悪かったのかもしれない。



 だけど、俺にとって王城という場所は、第二の家とでもいうべきか――、安心できる場所の一つだったのだ。そんな場所の一つでこんな目に遭うかもしれないなんて想像さえも出来なかったのだ。



 けれど、俺は明確に攻撃を受けていた。



 目を覚まして、視界に入ったのは俺を攻撃する仲間たち。意味が分からなかった。俺は裏切られていたのだろうか。どうして俺を彼らは攻撃しているのだろうか……。

 何もかもが分からない中で、俺は「どうしてこんなことをするんだ、エレファー」とエレファーの目を見て告げていた。



 エレファーは、俺が眠る前まで俺の婚約者で、俺の恋人であった。

 そこでエレファーに声をかけたのは、何だかんだ俺にとって婚約者という立場のエレファーが特別だったという証だったのかもしれない。



 エレファーならこの状況を説明してくれるのではないか。エレファーは俺のことを裏切ったりしていないのではないか――そんな淡い期待はすぐに裏切られた。




「私の名を化け物が呼ぶなんておぞましい!!」



 何を言っているのか分からなかった。



 エレファーの目が、俺を射抜くように見ている。どうしてそんな目で見られているのかがさっぱり分からない。


 目の前の現実を信じたくなかった。夢だと思いたかった。だけど、目の前にいる俺の仲間だった連中は、そして俺のことを慕ってくれていた騎士たちは――明確に俺の敵となりえた。

 どうして、こんなことを。

 そう問いかけた俺の言葉には驚くべき言葉が返ってきた。





「――お前が『魔王』の側近だからに決まっているだろう」

「我が国の敵である『魔王』の側近がこんな王城にまで忍び込むなんてっ!! 『魔王』の敵を取ろうとしているのでしょう」




 ――彼らの中でいつの間にか俺は『魔王』の側近という立場になっているらしい。俺はそんなものではないのに、『魔王』の側近だと周りからは認識されているというのを最初は理解出来なかった。



 俺はエレファーたちと共に、『魔王』を倒した。

 俺の記憶が間違いでなければそれは真実のはずだ。だけれども、俺は今、『魔王』の側近なんていう訳の分からないものになっている。




 ――『魔王』が何かしたのだ。


 そう結論付ける。何を行ったかはわからないが、俺に対する認識を書き換えた……と言えるのだろうか。




 俺のことを『魔王』の側近と思い込んで、捕らえようとする彼ら。俺は今の状況の理解が追い付かなかったのと、おそらく『魔王』の手によって認識を書き換えられているであろう知り合いたちに対して反抗を出来なかった。



 俺を『魔王』の側近だと思い込んでいるだけならば、俺の話を聞いたら俺が『魔王』の側近ではないということを理解してもらえるのではないか――。そう思ったから大人しくとらえられることにした。



 俺の知る王城の人々は、決して悪い奴らではない。そして理性的だ。何かがおかしいとだからこそ気づいてくれるのではないか、『魔王』の側近だと言われていても分かってくれるのではないか――。一緒に居た時間が長かったからこそ、俺はそのことを信じていた。






 だけど、その期待は、その信頼は――他でもない知り合いたちによって砕かれた。








 俺が何を口にしても、どんな行動をしても――彼らは俺の言葉を聞かなかった。俺の行動を疑問に思わなかった。



 俺が『魔王』の側近ではない。何か不思議な力が働いているんだと言っても、彼らは鼻で笑った。俺がそう口にして、周りを油断させて――そしてこの国を滅ぼそうとしているのだと信じていたのだ。



 今まで、俺はこの国のために力を振るってきた。他でもないこの国に、愛着があったからこそ『魔王』を倒すことにした。――だけど、その結果がこれなのか。

 いたぶられ、拷問を繰り返される。




 下手に身体が丈夫だった俺は、他の人たち程簡単には死なない。……俺が殺されなかったのは、おそらく殺さず捕らえるようにと不思議な力がエレファーたちに投げかけられているからだろうと思った。



 命を失うぎりぎりまで追い詰められ、回復させられる。……そんな日々が二年も続けば、俺の心も折れてきた。





 ――俺はエレファーたちが、何かがおかしい気づいてくれると信じていた。

 ――俺はエレファーたちの誰かが、俺の言葉を聞いてくれると信じていた。



 だけど、そんなの幻想だった。





 俺が『魔王』の側近であると信じ込んだ彼らは、俺の話を一切聞かない。俺のことを一切信じない。



 この状況を打破するためには……どうしたらいいのだろうか。『魔王』はもういない。……ならば俺はこの状況から抜け出せないのだろうか。

 このまま死ぬのだろうか。





 ――嫌だなと思った。このまま勘違いされたまま死ぬぐらいなら、いっそのこと――、俺を信じなかったこの国も道連れにしてやろうか。




 そんな思いがわいてきたのも当然であると言えるだろう。



 こんなところで死にたくない――そう思った俺は、捕らえられて二年たったある日、最後の力を振り絞って、牢屋から脱獄した。



 


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