①
俺は人よりも体力があり、丈夫なほうだった。
だからこそ、騎士という道に進んだのは当然のことだったと言えるだろう。
俺は孤児である。
幼い頃に両親が亡くなり、その後は生きていくのに必死だった。最初はどぶさらいとか、そういうことばかりやっていた。
そんな俺はとある騎士に才能をかわれ、剣を教わることになった。
それが俺の転機であったと言えよう。剣を習ってからの俺は水を得た魚のようだったといえる。剣を振るう事は、俺にとってしっくりきて、みるみるうちにその技が上達していくことが俺にとっては楽しかった。
いつの間にか、俺は王国随一の騎士などと言われるようになっていた。そういう騎士を目指していたというわけではない。ただ俺は剣を振るうことが楽しかった。それだけでやってきた俺が騎士の中の騎士だとか、そんな風に言われているのは正直不思議だった。
――そうしているうちに『白銀の聖女』と呼ばれているエレファーと婚約者になった。
「クラレンスに合うのは私ぐらいでしょ!!」
などと自信満々に言ったエレファー。
俺は正直、誰か特定の相手がいたわけでもない。王国随一の騎士という肩書があるのもあって、俺に近づいてくる異性は多かったし、それなりに相手にはしていた。
エレファーに恋をしているわけではなかった。だけどエレファーは俺にとって一緒に居て落ち着く友人であったのは確かだった。だからこそ俺はエレファーとの婚約を受け入れた。
エレファーが俺のことを好いているのもそのうち分かった。面倒な事にならなければ誰が婚約者でも構わないと思っていたというのが正直な話だった。
「クラレンスと結婚出来るのが楽しみだわ。クラレンスはどう? 結婚したらどんな暮らしをしてみたい? 私はね、クラレンスと一緒ならどんな暮らしでも嬉しいわ」
「そうか」
エレファーは俺と婚約を結べて、心から嬉しそうにしていた。これだけ友人であるエレファーが楽しそうにしているのならば、結婚をしても特に問題もなく過ごしていけるだろうとそんな風に考えていた。
俺のことを理解してくれる友人もいて、概ね平和な日々を俺は過ごしていた。
その日々が変化したのは、『魔王』が現れたのがきっかけだった。
『魔王』が現れた時、国は『救国の乙女』になるだろうと言われていた女性のことが話題になった。俺が騎士になる前に、この王城に留まり、陛下と結婚する予定であったという女性。
俺はその女性にも大して関心は持っていなかった。
ただエレファーは「そんな預言をされておきながら、国のために力を振るうこともせずに、国庫のお金を使い込んでいるなんて許せません」と怒っていた。
結局、その『救国の乙女』になるだろうと言われていた女性は『魔王』退治の時にも何の力にもなれないと協力を断ったらしい。
それで俺はエレファーと、ランダン、そして他の三名ほどの仲間たちと共に『魔王』退治に向かうことになった。
この国を狙っている『魔王』という存在は、ただ考えなしに暴れているような存在ではなく、この国を侵略しようとしていたのだ。魔族全てが悪であるかはわからないが、少なくともこの国にとって侵略して来ようとしている『魔王』は明確な敵であったと言えよう。
そんなわけで俺達は、『魔王』退治に向かった。
「――クラレンス、『魔王』退治を終えたら私たちの結婚式ね。楽しみね」
「ああ」
『魔王』退治を終えれば、俺とエレファーの結婚式が待っている。
『英雄騎士』などと呼ばれるようになった俺と『白銀の聖女』と呼ばれるエレファーの結婚式だからと、それはもう盛大な結婚式になることが決まっている。
俺はそこまで盛大にしなくてもいいと思っているが、エレファーの意向で派手な結婚式になることになっていた。
王国先鋭のパーティーで『魔王』の元へ攻め入った。
「――このままで終わると思うなよ」
最期にとどめを刺すとき、『魔王』がそう口にした。その目に嫌な予感がした。嫌な感じが俺の横を通り抜けていった。
「『魔王』を倒せたわ!!」
「やったな!!」
「これで国も平和になるだろう」
「わしらも英雄かのぉ」
「私は故郷に帰って、親孝行するわ!」
仲間たちの声を聞いて、俺も『魔王』を倒せたのだから嫌な予感を感じる必要もないかと首を横に振った。
それから王都に戻った。
王都では皆が喜び、俺達をたたえた。
それでパーティーを行い、王城でエレファーと共に休んだ。婚約者という立場だったが、もう体の関係もあったし、普通に同室だった。
「ねぇ、クラレンスは何人の子供が欲しい?」
「何人でもいい」
「ふふ、私もクラレンスの子供なら何人でも嬉しいわ」
そう言ってエレファーは嬉しそうに笑っていた。
そんなエレファーの言葉を聞きながら俺は眠りについた。
――そして起きた時には、俺の世界は一新していた。
というわけで唐突に書きたいなと思っていたクロ視点を始めます。




