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帰宅 ②

 私は家に戻ってから、『魔王』の側近についての噂についてはクロには一言も言わなかった。言ったところでどうにもならないし、クロは私にそういう過去を教えてくれるほどに心を許してくれてはいない。

 クロが自分から話したいと思う時に私はクロから話を聞きたい。それにクロの性格からして話したくないことを聞かれるのは嫌そうだし。



 そう考えながら私は料理を始める。

 王都で購入してきた調味料などを使って、スープなどを作る。王都に行った後は、ちょっとだけいつもより豪華な食事になったりする。

 王都に行く時ではないと、色々と買えないから。


 王都だと色んなものが手に入るから便利なのよね。

 生活用品などを手に入れられてよかったわ。

 


 クロが家にいる間は、王都にはあまり行かない方が良いだろうからこれからしばらくは王都に顔を出すことは最低限にしなければ。私に対して国が興味を抱いていないとはいえ、私の元にクロがいることがどこから悟られるか分からないから。




 料理を準備を終えた後は、クロと二人で食事を食べた。

 食事の間、クロは何もしゃべらなかった。私が王都に行っていることを知っているだろうに、クロの方からそういう話題をこちらに話しかけてくることはなかった。



 クロは何を考えているのだろうか。何を思っているのだろうか。

 そんなことを思いながらも、私も黙々と食事を食べた。やっぱり森では手に入らない調味料などを調達できるといいなとそんな風に思った。



 クロはあまり喋らなかったけれど、「美味しい」とは言ってくれた。その一言を言ってもらえるだけでも、作った甲斐があると嬉しくなった。

 やっぱり食事は一人よりも二人で食べた方が美味しく感じる。






 食事を終えた後は、一旦休憩することにした。




 久しぶりに王都に行ったら少しだけ疲れてしまった。ずっと一人で過ごしていたから、大勢の人がいるところというのは落ちつかないものなのだ。

 いい大人になっても、一人は寂しいとも思うけど、人込みは落ち着かないなんてそんな矛盾した気持ちを抱えている。

 もし、私がいつか『救国の乙女』であったという呪縛から離れることができたら小さな村とかでのんびり過ごせたらなっていう夢はある。

 そんな日がくるかどうかは分からないけど。





 私が椅子に腰かけて、少しぼーっとしていると……、クロが私の事をじっと見ていた。

 何か言いたそうな顔をしているように見える。クロは何か気になっているのだろうか。こんなにクロがじーっと私を見つめてくるのも珍しいのでどうしたのだろうかと不思議な気持ちになってしまう。



 でもあれね。折角だから、クロの方から話しかけてもらった方がきっと良い、とそんな風に私は思った。




 なので、私はそのままクロに話しかけることなくそのまま過ごすことにした。

 これでクロが私に話しかけてくれるなら少しはクロが私に心を許してくれたってことだろうし。

 




 先ほどのクロの様子を思い浮かべる。

 私が近づいてきたからと、私の事を押さえつけて、獰猛な獣のように私の事を見つめていたクロ。

 クロはさっき、私が畏怖の瞳を向けたらどんな風に思っただろうか。きっと傷ついただろう。そう思うとクロの事を先ほど傷つけずによかったと思う。




 私のことを押さえつけていたクロはそれだけ警戒心を常に持っていなければあんな状況にはならないだろう。クロがあんな警戒心を持たずに生活が出来るようになれたらいいのに。

 何も煩わしいことを考えずに、ただ穏やかに生きていけるようになれたら――ってそんな風に考える。



 もちろん、クロをそんな風に自分が出来るとは思っていない。

 私はそんな特別な存在ではないから。ただクロが穏やかに過ごせるようにする手助けが少しでも出来たらって思うのだ。



 王都では沢山クロの悪い噂も聞いたけれど、私はそれを本当にクロがやったとは思えない。

 私は人の噂や『魔王』の側近だとされている事より、目で見たものの方が信じられる。——クロはそんなことをしていない、したとしても何か事情があったのだろうとそんな風に思える。


 ――クロの本当のことを、クロから聞くことが出来たら。クロが心穏やかになれるように、何か力になりたいな。




 そんなことを思っていたら、声が聞こえた。





「……なぁ」





 クロは話しかけてこないだろうと思っていた。

 けれど、クロは私に話しかけてきた。




 私は予想外だったから、最初は聞き間違いなのだろうかと思ってスルーしそうになってしまった。

 そこでクロが私に本当に話しかけてきたことに気づいて、私は「どうしたの?」とクロの方を向いていった。




 ……クロが私に興味を抱いてくれたんだと思うと、嬉しくて、声が弾みそうになった。大きな声を出しそうにもなった。

 けれど、クロを驚かせるわけにもいかないから私は落ち着いた声を出すことを心掛けてそんな風に言った。






「さっきのこともそうだけど、ジャンナは何で俺のことを聞かないんだ」



 そして、クロは私の目を真っ直ぐ見てそんな風に問いかけるのだった。



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