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王都 ②

「久しぶりですね。しばらく来ないので心配していたのですよ」

「すまない。立て込んでいてな」



 王都で馴染みの商人の所へ向かえば、そんなことを言われた。なるべく男口調を意識して私は、返答をする。


 この商人は、素性が怪しい私のポーションを真っ先に取り扱ってくれた人だ。

 『救国の乙女』として期待されることがなくなり、自分で生活費を稼がなければやっていけない――そんなところまで追い込まれた私にお金をどうやって稼ぐかというのが一番の問題になっていた。



 もしかしたら国は『救国の乙女』になるであろうと言われながら、そういう力を一切発現しなかった私にはやく死んでほしかったのかもしれない。うん、悲しい事実だけどその方がしっくりくるのだ。でも私は何だかんだ図太く生き延びている。

 この商人にも感謝しかない。真っ先に私のポーションを見て、買ってくれるといってくれたのだ。

 あの後、私のポーションが評判になってから他の商人も私にポーションを売ってほしいと寄ってきたけれど、それは断った。



 何だか目からしてみても、獲物を狙う魔物のようで、食い物にされるようにしか見えなかったから。

 その判断は間違っていなかっただろう。この商人は今の所、そういう所はない。本当に良い商人にあたることが出来て良かったと思う。


 ……此処にポーションを持ってきた当初の私なんて、どうしようもないほど世間知らずだったもの。幸い、『救国の乙女』として真面目に学んでいて本当に良かった。



 その時の経験がなければ、あの森の中で私は一人で生きていくなんてとてもじゃないけれど出来なかっただろうから。





「今回も良い出来ですね。王都でも大変評判ですよ。二年前の『魔王』討伐の際も英雄様方が愛用していたぐらいですからね。どうか、このポーションを作った方に、こちらで働かないか交渉してもらえませんか? 希望の給与を支払いますよ」

「いえ、我が主はそれを望んでいません」


 私が作っていると知られたらまた勧誘が激しくなるだろう、そう思うからこそ、私は敢えてそういう設定で此処に来ていた。


 この商人が悪人だったのならば、無理やり私にポーションを作っているものの場所を吐かせて、無理やりつかえさせるということもやったかもしれない。しかし、この商人は出来た人のようで、そういう無理強いをしない。

 それに他の商人たちから、誰がポーションを作っているのか探られているらしいが、一切情報を喋ったりはしていないようだ。

 本当にそのあたりは感謝している。



 ……下手に『救国の乙女』と呼ばれ、森に追いやられている存在が気軽に王都に来ているなんて知られてしまったら本当にややこしいことになる未来しか見えないもの。

 ……『救国の乙女』と呼ばれていた頃、仲よくしていた人たちは、今は遥か遠い存在だし、私にそのネームバリューがないのなら……と去っていってしまった。

 私は『救国の乙女』と預言されていなければ、ただの村娘でしかない。『救国の乙女』でなければ、あの場所にいることなど出来なかったのだ。




「そうですか。本当に頑固な方ですね。ですが、私は諦めませんよ。気が変わったらいつでも商会で雇うことをお伝えくださいね。

 何を思って貴方の主がこれほどのポーションを作れながら細々と活動をしているのかは分かりませんが、このポーションはとても素晴らしいものです。私は素晴らしい才能を持っている方が埋もれて生活をしているのは嫌なのですよ」



 そんなことを商人は言う。



 正直言って、そういう風に私の作ったポーションを評価してくれることは嬉しい。自分の作ったものにそれだけのことを言ってもらえることも、心が動かされる。

 本当にこの商人は、嬉しいことをよくいってくれるのだ。ただ、やはり、私が『救国の乙女』になるだろうと言われていたことが頭に引っかかる。だからこそ、頷けない。


 そもそも『救国の乙女』が表舞台に出れば、王妃様が嫌な思いをするだろう。やはり私は大人しくこそこそと忘れられるために行動するのが一番良いなと改めて実感した。




「主には伝えておきます。ただし良い返事は期待しないでいただきたいです」

「伝えてもらえるだけで十分ですよ。それにしても本当に前回から間が空いてましたね」

「主も忙しいんだ」


 クロを拾って、クロのことを心配していたからこそ、中々家にクロを一人にしようとは思えなかったのだ。

 まだまだクロは全てを諦めた目をしている。


 今だってクロを一人でおいてきたことが不安で仕方がない。クロはもしかしたら私がいないうちにどこかにいってしまうかもしれない。思い詰めて何か行動を起こすかもしれない。……考えたらとても心配になってきた。


 だけど、折角王都にやってきたのだから私はやるべきことをやらなければ。



 そう思った私はポーションの棚卸をしたあとに、商人に『魔王』の側近の話を振ってみた。




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