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戸惑う青年 ④

 その日、私はクロにお留守番を任せて森に出ていた。



 クロは「一人で大丈夫か」と心配そうにしていたが、いつものことなので問題がないと口にして一人で森に来ている。



 クロは相変わらず自分の事は語ることはせず、自分から何かをしようともしない。

 私が笑みを浮かべてクロに話しかけているのに、まだ戸惑っているように見えた。そして私に対する警戒心もまだ薄めていない。



 クロにとって私はきっと「変な女」とかそんなところだろうと思う。



 クロは『魔王の側近』とされて捕らわれていたのだ。なんとか逃げ出した先で、優しくしてくれる人がいるなんて出来すぎにもほどがある。

 クロは戸惑いと警戒を心に持ち、私のことなんて信頼はしていないのだ。



 私がクロの立場だったならと考えるとそういう態度も理解出来る。



 それにしてもずっと警戒心を持っているのはきっと疲れることだろうから、その警戒心を無くさせてあげられたらいいのに。

 でも私に出来るだろうか? 私には『救国の乙女』になると言われた過去があるだけで、それ以外には特別な力は何もない。

 でもクロはきっと強い力を持ち合わせている人だ。私なんて簡単に殺せるぐらいの力を持ち合わせている青年。




 私にクロの警戒心を無くす事が出来るのか……いえ、出来るか出来ないかじゃないわね。やりましょう。




 あまり家を空けるとクロが心配するかもしれないから、なるべく早くに帰宅するようにしよう。それに私が出かけている間にクロがいなくなってしまう可能性もあるしね。



 クロが喜ぶようなものを手に入れられたら良いのだけど……、と思っていたらクロを拾う前に仕掛けていた罠に猪の魔物がかかっていた。

 まだ生きているその猪の魔物に留めをさす。そのままの状態では持ち運びは出来ないので、掻っ捌いて小分けにしてから持ち帰ることにした。



 魔物が寄ってこないように魔物除けを使ってから刃物を入れていく。

 この森に住みだした当初は魔物を解体するのも苦手だったものだが、今は簡単に出来ると思うと自分が成長したのだと思えてなんだか嬉しい気持ちになった。



 それにこの猪の魔物はとても美味しいのだ。

 クロがこの魔物を好きかどうかは分からないけれど、美味しいと言ってくれたらいいなと思う。




 錬金の材料も集めていたらすっかり私は大荷物になってしまった。





 女一人での森での暮らしは中々肉体労働なのだ。でもまぁ、私は『救国の乙女』として暮らしていたから魔物除けとか、そのころにもらったものとかあるから本当の自給自足生活よりは断然楽な暮らしが出来ているとは思うけれど。


 それに今日はいつもより足取りが軽い。

 その理由は明確だ。——家に戻れば誰かがいるというのはそれだけで、私の心を軽くする。案外、平気なつもりでも一人での生活に寂しさを感じていたのかもしれない。


 クロが家に待っていてくれている。家にいてくれている。

 その事実があるだけで、頑張ろうという気持ちがわいてくるものだ。




 ……クロが家に帰っていなかったらどうしようとドキドキしながら家に戻った。





「ただいま」



 そう口にして扉をあければ、返事はかえってこない。

 クロが居なくなったのだろうかと不安に思いながら、クロが寝泊まりしている部屋を開ければ、クロはすやすやと眠っていた。

 けれど、私がドアを開けたと同時にガバッと起き上がった。そしてきょろきょろと当たりを見渡す。



 私と目が合うと、



「なんだ……あんたか」



 とほっとしたように息を吐いた。




 ああ、そうか。

 最初に拾った時はよっぽど疲労していたから眠りにつけたが、それ以外ではそんなに深く眠れないのかもしれない。

 今は私が出かけていたから誰もいないと眠れたのかもしれない……。普段は深く眠れないほどに警戒心に包まれているクロの心を溶かすことは私に出来るだろうか。



「ただいま、クロ」

「……おかえり」

「今日は猪の魔物が取れたの。今日も美味しいもの作るからね!!」




 私がそう言って笑えばクロは頷いた。



 それにしても眠りが浅いということは、もっと深く眠れるように音魔法を使ってあげた方がいいかもしれない。ここにはクロに何かをするような人は誰もいないというのに、それでもあれだけ警戒しているのだ。どうにかしてあげたい。


 というか、私年上なのにそういう所まで頭が回らないのが情けない。

 もっとクロが何を考えているか、クロがどんなふうに苦しんでいるか分かればいいのに。そしたらクロが安心して暮らせるように何か出来るのに。







 よし、ひとまずクロのためにも今日は猪の魔物を使って美味しい料理を作ろう。

 一杯美味しいものを食べてもらって、その後は音魔法を鳴らそう。クロが嫌だっていうならやめるとして、クロがそれで心穏やかな気持ちになるのならばそっちの方が絶対良いもの。




 そんなことを考えながら私は掻っ捌いた猪の魔物を保存庫に入れて、採ってきた薬草類の仕分けをするのだった。




 

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