第五話 真実
デスクトップパソコンの前に戻る。どうやらマインが俺を待っていたようだった。
「どうやってこちらの世界へ戻ったんですか? それとその、勝手に戻られては困ります……」
「すまなかった。風呂に入りたくなってね」
戻れるか確認しておきたかったってのはあるからな。完全に彼女を信用できないし。
「それにしても、急に襲われたぞ」
先程起こった出来事を彼女に伝えた。
「え、そんなことが。申し訳ありませんでした」
俺以外なら死んでいた可能性があったからな、ここはしっかりクレームをしておくべきだ。
そうか、そうすると現状話をする上でこちらが有利な立ち位置に立っているな。少し強めに言って彼女がなにか嘘を言ってないか探ってみようかな。
「今回の件が俺をはめるためではなくたまたまだと思いたいが、完全に君を信用できる状態でないのは確かだ」
「嘘や隠し事をしてないかな? 話次第では若者たちを連れてこの世界から引き上げさせてもらう。俺の力でゲームの世界を行き来できることがわかったしね」
まるで悪徳業者、モンスタークレーマーのような立ち振舞。人間界のニュースや新聞、ネットで得た知識がこんなところで役に立つとは。
「………」
「尻目さんなら話してしまっても大丈夫かもしれない」
うつむきながら小声でつぶやいた後、観念したように大きくため息をついたマイン。
そして顔を上げ真剣な眼差しでこちらを見つめて話を始めた。
「一つだけ嘘をついていました」
「魔王はゲーム上ではなくそちらの世界に現れるようなのです」
「なぜそのような嘘を?」
「ゲーム上で手に入れた力や武具をそちらの世界へ持っていけるんです。そして魔王を倒しても強大な力を持つ彼らが支配者の道を選びそちらの世界を荒らす可能性がありました」
「力に溺れ支配を企てるかもしれないと」
「はい。ゲームの世界の魔王と戦うと言って実は現世に向かい、魔王を倒した後またゲームの世界に戻り、彼らの能力を元に戻して武具も返却してもらってそちらの世界へ帰ってもらおうと考えていました」
「なるほどね。簡単に言うと全てはゲームの中で起こったこと、終われば元に戻る、ということにしたかったわけだ」
「はい」
一点の曇りも迷いもない目。おそらく本当のことだろう。ということはこちらの世界を救おうとしてくれていたわけだな。様々な意味で。
「ありがとう」
「え?」
「こちらの世界を気遣っての考え、計画だったっわけだろう?」
「一応は。それでも魔王は元々ゲームの世界、こちらの世界の負の遺産と言うべきものですから」
「そちらの世界に気づき、そちらの世界で復活を企てたわけですからね」
「魔王の強さはどのくらいだろう」
「私の十倍はありますかね。もちろん単純な戦闘力だけで見た場合ですけど」
「バルクとマインはどのくらいの差がある?」
「これも十倍くらいですね」
となるとバルクの百倍か。それなら勝てるか。
「ああ、それともう一つ。実はいつでも封印を解くことが出来ます。封印は三ヶ月が限界ですね」
いつでも戦えるわけだな。
「魔王は厄介な特殊能力とか持ってる?」
「そういうものはなかったはずです」
「ならいけるかな」
「俺が魔王を退治しよう」
「出来るんですか!?」
「力だけってことならね」
「妖怪の中には『股下通られたら死ぬ』とか『飛び越されたら死ぬ』とかヤベー能力を持ったやつが居てね」
「それはまたとんでもない能力ですね……」
「だから特殊能力使うやつは気をつけないといけない」
「さて、戦う準備をするかな」
パソコンデスクに置いてあったスマホを手に取り電話をかけた。
「伸上さんお久しぶり」
「あら尻石さん、お久しぶり」
探偵をしている伸上さん。彼女も妖怪でその正体はろくろ首。探偵の仕事が非常にあうらしく「首を伸ばせばイチコロよ」とかなんとか言っていたな。
「ちょっと急ぎで雷獣を探してもらいたいんだが頼めるかな」
「ふふふ、尻目、じゃなかった尻石さんのお願いなら何よりも優先しちゃうわよ」
「無理にとは言わない」
「あらあら、釣れないわね。まあいいわ、一日待って」
その日は眠る。
次の日の夕方くらいに電話が入る。
「見つけたわ。どこに連れていけばいい?」
「このアパートの近くにある公園に連れてきてくれ」
「それじゃ出かけてくる。そうだな、一週間程で帰ってくるよ。そうそう、またゲームを起動させるのは大変だからパソコンの電源を入れっぱなしにしておくよ」
「わかりました、行ってらっしゃい」
部屋から出て公園に向かった。
公園のベンチで一時間ほど待っていると黒いワンボックスカーが公園の入口付近で止まった。
エンジンが止まり、女性と犬のような生物が車から降りこちらへ向かってきた。