第一話 神隠し
東京、新宿。
日本を代表する繁華街を、俺は一人うろついていた。
スーツに身を固め、片手にはノートパソコン。ぱっと見は営業のサラリーマンに見えるだろう。
ポケットに入っていたスマホが振動する。確認すると知り合いからの電話だった。
「こんにちは尻石さん、高山です。困った事件が起きてね。相談に乗っもらえないかな」
「わかった、それではいつもの喫茶店で待っている」
スマホを仕舞い、目的地へと向かう。喫茶店に着き、適当に注文してノートパソコンをいじりながら彼を待つ。
「お待たせ。早速だが話を」
「近頃若者を中心に失踪事件が連続で発生している。失踪者の関係者や某掲示板等から情報を集めたところ、どうやらとあるゲームが深く関係していることがわかった」
「とあるゲーム?」
「うむ。『EARTH HOLE』と言う一人用のPCゲームだ」
「アースホール、か」
高山がバッグからヘッドバンドを取り出した。
「この脳波スキャンヘッドバンドを使って自分の身体能力を測り、その力をゲームキャラに反映できる一人用のゲームだ」
「変わったゲームだな」
「このゲームを作っているところに問い合わせても機械的な対応をするだけ、訪ねようと調べて見つけた住所の場所へ向かったんだが、そこには何もなく空き地になっていた」
「存在しないゲームメーカーか」
「それからゲームを詳しく調べていくと基本的に身体能力の高い若者が行方不明となっていることがわかった」
「と、ここまで調べたんだが、行き詰まってな」
「俺に潜入して調査してもらいたいってところか」
「ご明察」
体を前に乗り出し、頬に手を当て小声で話をする高山。
(尻目のアンタならなんとかできるんじゃないかって思ったのさ)
俺は妖怪の尻目。
電気と光を操る妖怪だ。
(たしかに俺向きかもな。わかった、やってみよう)
小声で返す。
(助かる。俺の力じゃ無理そうでな。かといって明らかに危険な仕事を人間にやらせるのも気が引けてな)
彼もまた妖怪でその正体は天狗。
(それにしても凄いなその技術。顔のパーツとその髪は電気で出来てんだろ?)
尻目の顔には本来なにもない。
基本的には変化の術、道具を使って人間に化けている。
(人間の使う技術、3Dグラフィックを見て思いついたのよ。電気を使ってリアルで再現したわけだ)
(はっはっは、相変わらず面白い奴だ。変化の術いらずとはな)
高山も変化の術で人に化けている。
「脳波スキャンヘッドバンドを3つほど用意してある。これは市販の物だ。足りなくなったら連絡してくれ」
バッグからノートと数枚の写真を取り出す。
「写真は行方不明者のものだ。後、このノートにはゲームを普通に遊んだ子達の初期からのステータスが書いてある。おっとそれからそれから」
ノートを数枚めくって指を指した。
「これがサイトのアドレスだ」
「帰って試してみるよ」
「頼んだ」
現在住んでいるアパートに帰り、部屋着に着替えてデスクトップパソコンを立ち上げる。おっと、顔のパーツももういいか。顔のパーツがなにもない、本来の姿へと戻った。
教えてもらったURLを開くとゲームが始まった。ニューゲームを選ぶとスキャンをしてくださいと出た。
次に普通に遊べた子のステータスを見ようとノートを開く。最初のページに注意書きが書いてあった。
「ほぼ全員の初期ステータスと辞めた時のステータスを記入してある。初期ステータスをほぼ全員が覚えていたのはこのゲームで自分の能力がどのくらいか発表することが一部で流行っていたため、とのこと」
そうだな、普通は初期ステータスなんて覚えてるわけないよな。こういう背景があったわけか。
「この子達よりちょっと能力が高ければ何かが起こるかもしれない。といったところか」
行方不明になった子達は身体能力が高いって話だからな。
「さて、やってみるか」
脳波スキャンヘッドバンド頭につける。
どういう原理か知らないがこのゲームは脳波を調べることによって身体能力を正確に把握できるらしい。そして脳波とは電気。電気を操る俺ならまあなんとかできるかな?
脳波スキャンのスイッチをオン、同時に頭付近の電気をコントロールする。
「ボンッ」
小さな爆発音がヘッドバンドから聞こえた。焦げ臭い臭いがする、確認すると金属部分から煙が上がっていた。壊れてしまったかな。
ディスプレイを見てみる。測り直してくださいと書かれている。失敗だ。
「3つで足りるかな?」
何度か試しているうちにもう一つ壊してしまう。
最後の一つで何度か挑戦、若者たちよりちょっと高めの能力にすることに成功した。
すると画面が切り替わりファンファーレのような音楽が流れ始めた。
「おめでとうございます! 貴方は選ばれしものです!」
ナレーションかな、声だけが聞こえ俺を称賛した。
「これからこの『アースホール』であなたはい……何だコイツはガ、ガァーーー!」
ナレーションが悲鳴を上げると同時に画面に血糊のようなものがまかれる。その後画面が点滅、程なくして安定したところで、画面の中心に黒い粒のようなものが現れる。それが徐々に肥大化。最終的にはいわゆる悪魔と呼ばれるような姿の異形の者が画面に映し出された。
『GUYAAAA!』
なんと、その異形の者がゆっくりと画面から出て来る。
腕と顔が少し出たところで異形の者が俺を見た。
『GU……ば、化け物!』
俺が? 化け物に化け物と言われるとは。
いや、確かに顔のパーツがなにもないから化け物っちゃ化け物だけど。そっちも化け物じゃないか。まあ、俺もそう思ったから引き分けってことにしておこう。
ん? そんなことより、今普通に喋ったぞ。
『ぐ、GUYAAAA!』
あ、元に戻した。よく見ると震えている。
何となく気まずい雰囲気だ。そうだな、とりあえず引っ張り出してみるか。
手を電気でコーティングして異形の者の腕を掴む。そのまま相手も電気でコーティング。ゆっくり引っ張ったところ、徐々に体がディスプレイから抜けていくことがわかった。そのまま引きずり出し、体が半分くらい出たところで一気にに引きずり出した。
「バタン」
『ギャン』
床に叩きつけられる異形の者。
はてさて、コイツは一体何者なのか。
興味深げに眺めていると異形の者が徐々にその姿を変え始める。
「女の子?」
異形の者は女の子になった。