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第八話 バレットの作って、作って、ぶっ放そう!(魔導回路具・前編)

 バレットが銃を作り始めて、二週間が経った。

 突然だが、皆さんは銃がどうやって弾を発射知っているかを知っているだろうか。

 引き金を引けば弾が銃から飛ぶ。このくらいなら誰でも分かるだろう。

 では、どうして引き金を引くと弾が飛ぶのかの原理までは専門家くらいでなければ分からないだろう。

 銃で弾丸を撃つ方法は代表的なもので二つほどある。

 一つ目は戦国時代に日本に伝来した火縄銃の仕組み。

 銃口から黒色火薬を筒に詰めてから、同じ要領で弾丸を装填、火縄に火をつけ、引き金を引いて火皿(ひさら)に盛った口薬に点火し、火道(かどう)を通して、黒色火薬に引火させて、その爆発で弾丸を飛ばす。

 火縄銃なら拳銃(ハンドガン)より構造も単純で作り易いのだが、デメリットもある。

 まず、一発撃つごとに火薬を詰め、弾丸を装填しなければならない為、速射性に欠け、有効射程距離も現代の銃より遥かに短い。

 更にライフルほどの大きさになるため携行面が悪く、一度火縄に火を付けたのなら消えないように常に気を配り、細心の注意を払わなければならない。

 二つ目は拳銃(ハンドガン)や、突撃銃(アサルトライフル)で使われている弾薬(カートリッジ)を使うモノ。

 弾薬(カートリッジ)は弾頭、薬莢(ケース)装薬(パウダー)雷管(プライマー)の四つのパーツで構成されている。

 それらを全て組み合わせ、銃の薬室(チャンバー)に装填し、撃針(ファイアリングピン)雷管(プライマー)を叩くことで雷管(プライマー)内の火薬に点火し、伝火孔(フラッシュホール)とゆう小さな穴を通り、密閉された弾薬(カートリッジ)内部の装薬(パウダー)に引火、その燃焼によるガス圧力で薬莢(ケース)から弾頭が押し出され、銃身で加速し発射されます。

 こちらは火縄銃と違い、いちいち撃つたびに火薬を詰め弾を籠めるとゆう作業をしなくても撃て、有効射程距離も長い。更に拳銃(ハンドガン)サイズなら携行面にも優れている。

 ただしこちらにもデメリットがある。

 まず、先に説明した火縄銃よりも構成するパーツが増える。精密機械で作るような小さなネジ等もある為、少しの歪みも許されない。

 弾薬(カートリッジ)の方にも精密性と気密性を求められる。

 少しでも歪んでいたり、密閉されていないと、不発になったり、暴発して、銃身が破裂してしまう為、人の手で作るとなると熟練の職人レベルでなければならない。

 バレットはその弾薬(カートリッジ)作りでつまづいていた。

 いくら銃が完成しても、弾がなければ宝の持ち腐れである。

 バレットは銃作りは暗礁に乗り上げていた。

 

「あ~、どうしたもんか……てづまりだ……」


 バレットはいつも銃を作る時に使っている切り株の上でしかめっ面で大の字になって寝転がり、天を見上げ黄昏ていた。少年の心模様と同じように空は夕焼け色に染まっていた。

 彼の周りには様々な形をした弾丸が転がり、既にその数は数百を軽く超えていた。


(なんでダメなんだ、精密性、気密性、原理、構造、全部完璧のはず、何がダメなんだ……撃針(ファイアリングピン)がうまく雷管(プライマー)を叩いていないのか……それとも、魔増爆砂(エーテル・パウダー)事態が黒色火薬程の燃焼によるガス圧力を生み出せないのか……ああ~、ダメだ。全く分からん……)

 

 バレットは手元にあった弾丸を顔まで持ち上げて、眺めながら思考を巡らせた。

 手に持っている弾丸だけでなく、周りに転がる弾丸もとても五歳の少年が作ったモノとは思えないほど、精巧に出来ており、歪なモノなど一つもない。

 少年は弾丸を親指で弾いて、天高く飛ばした。

 弾き飛ばされた弾丸はある程度の高さまで上がった後、彼の足元に落ちた。


「にいさん」


 悩める兄の顔をアリスが覗き込んできた。

 視線だけでバレットはアリスに返事をした。


「もうすぐゆうはんですので、よんできてくださいとてぃあにいわれたのです」


 そう言われ、バレットは上体を起こして周りを確認すると、森の中が暗くなっているのに気付いた。


「もうそんなじかんだったのか」

「はい、だから、もどりましょう」


 頷いて答え、バレットは切り株から降り、双子は手を繋いでログハウスに戻った。


 ログハウスの中に戻ると、ソファでクリアが果実酒で飲んだくれ、キッチンでティアが夕飯を作っていた。


「バレット、アリス。そこの酔っぱらい(おバカ)の代わりに料理を運ぶのを手伝ってください」


 クリアの様子とティアの呆れた口調にバレットも呆れた様子で肩をすくめ、双子はキッチンに向かった。

 キッチンの流し場の隣にあるスペースにサラダや魔獣(ビースト)の肉で作られたサイコロステーキのようなモノが盛られた皿がいくつか置かれていた。

 最初の頃は魔獣(ビースト)の紫色の生肉を見た時、食べることに抵抗をしていた双子だったが、一ヶ月もすれば慣れてしまい、今では普通に食べている。

 双子は置かれた皿を両手に持って、テーブルに運ぼうとした時だった。

 バレットは不意に料理をしているティアの方を見た。

 彼女はフライパンでクリアの分の肉を炒めていた。

 それだけ見れば、何もおかしなところはないのだが、バレットには気がかりなことがあり、足を止めた。


「バレット、その料理を早くテーブルに運んでください」

「ねぇ、てぃあ。ききたいことがあるんだけど……」

「じゃあ、まずそれを運んでください。お話は夕飯の後に聞いてあげますから」


 ティアの態度を見て、取り付く島もないと判断したバレットはそれ以上何も言わず、黙って皿を運んだ。


 数十分後。

 夕飯を食べ終えたバレットとティアの二人はキッチンに立っていた。

 ちなみに夕飯前から飲んでたクリアはでろでろに酔っぱらって、眠ってしまった為、ティアがベッドに運んだ。


「それでバレット。私に聞きたいこととはなんですか?」

「うん、てぃあ。てぃあはほのおのまほうもつかえるの?」

「いいえ、私が使えるのは風の魔法と多少の回復魔法だけですが……何故、そう思われたのですか?」

「だって、ひをつかって、おにくをいためてたじゃん」


 バレットはティアがフライパンを使っていた場所を指さした。

 キッチンなのだから、フライパンを使って、何かを炒めれるのは当然なのだが、このキッチンにはかまどのようなモノはなく、コンロのような物があるわけでもない。

 それにここは森のど真ん中、ガスや電気が通っているはずはない。

 だが、ログハウスの天井にはライトのような物がぶら下がって部屋を明るく照らし、キッチンには冷蔵庫の様な食材の鮮度保つための黒い縦長の箱まであって、妙に近代的なモノが多少なりと存在し、バレットにはそれが気がかりだった。


「ああ、それは『魔導回路具(アーティファクト)』を使っているからよ」

「あーてぃふぁくと?」


 ティアは頷いて、キッチン台に置かれていた箱を手に取って見せる。

 箱は白い石製で、大きさは週刊マンガ雑誌程しかない。その中に大きな緑の円と一円玉ほどの赤い円と十円玉ほどの青い円が刻まれていた。


「『魔導回路具(アーティファクト)』は魔導士と呼ばれる人達が作った道具の事を総称してそう呼びます。魔導回路具(アーティファクト)には魔力に反応して起動する回路が刻まれています」


 そう説明しながら、彼女は持っている魔導回路具(アーティファクト)をひっくり返し、底蓋を外した。

 魔導回路具(アーティファクト)の内側には幾何学模様がびっしりと刻まれ、箱の内側だけでなく、底蓋の裏側にも違う模様や線が刻まれていた。


「これがその回路です。この回路を魔導士の人達は『魔導回路(ルーン)』と呼んでいます。この魔導回路(ルーン)を石や木、宝石等に刻むことで、様々な効果が出ます。宝石に光を収束して発光する魔導回路(ルーン)を刻めば、天井に吊るして部屋を照らす灯りになりますし、このコンロのように火の元素を収束して、発火する魔導回路(ルーン)を刻めば、調理器具にもなります」


 底蓋を戻して、青い円のほうを指差し、バレットに押すように促す。

 彼女に促されるままバレットは指に魔力を流しながら、青い円を押した。

 すると、緑の円に沿うように小さな炎がいくつも発火した。

 その光景にバレットは驚きの声を上げる。

 ティアが赤い円を押して、火を消した。


「これが『魔導回路具(アーティファクト)』です。これが開発されたことによって、人々の生活は……更に……まったく……」


 ティアは説明を続けようとしたがバレットが右手を口に当てて思考を始めた為、これ以上何を言っても彼の頭には入らないと判断して、そこで言葉を区切って、持っていたコンロ型の魔導回路具(アーティファクト)を元あった場所に戻した。


(『魔導回路具(アーティファクト)』……対応する『魔導回路(ルーン)』を刻めば、コンロでもライトでも作れる……もしこの魔導回路(ルーン)を銃の弾丸作りに活かせれば……今直面してる問題を解決できるのでは?)

「ねぇ、てぃあ。もっと、その『あーてぃふぁくと』と『るーん』のことをくわしくおしえてほしいんだけど!」


 バレットが食い気味に聞くが、ティアは困り顔で頬をかいた。


「ごめんなさい、バレット。私でもさすがに『魔導回路具(アーティファクト)』と『魔導回路(ルーン)』の事はちょっと専門外ですね……」


 その言葉を聞いて、バレットは肩を落として、落ち込んだ。

 その様子を見て、ティアは何か出来ないか考え、ある結論に至った。


「バレット、一日だけ時間をくれますか?」

「ん、いいけど……なんで?」

「ありがとうございます。明日の昼頃には()()()()ので、その時まで待ってくださいね」

 そう言って、ティアは少年の頭に手を置いて、撫で始めた。

 バレットは気持ちよさそうに目を細めた。


 夜明け前の早朝。

 バレット、アリス、クリアの三人がまだベッドで眠っている中、ティアは一人、ログハウスの前で軽く準備運動をしていた。


「よし、これくらいでいいでしょう」


そう一人呟くと、彼女は軽く膝を曲げ、軽々と高く跳躍し、不倒樹の枝に飛び乗った。

 ティアはどんどんと上っていき、不倒樹の頂上を超え、森の外に出た。

 彼女は背後に翡翠の魔法陣を展開すると、それを力強く蹴ると同時に魔法が発動し、一気に音速に近い速度まで加速し飛んだ。

 ティアは上空を飛んで一気に森を抜け、再度、魔法陣を展開してそれを蹴り、更に加速し、目的地に向かう。


 数十分ほど飛び、夜が明け切った頃、ようやく目的地の町の城壁が見えた。


アルセリア(ここ)へ帰るのも、何年振りかしらね……」


 過去を懐かしみながら、ティアは町の城壁を飛び越えた。

 城壁の上で哨戒に当たっていた兵が、一瞬鳥と見間違えたが、すぐにそれが人の形をしているのに気付き、すぐに伝令を送ったが、時すでに遅く、彼女はすでに町の中心まで移動していた。

 ティアは右に直角移動すると、ある建物の中庭を見据え、降下を始めた。

 自分に向かって魔法で突風をぶつけ、減速を行った。

 何度も突風で自身の移動速度と落下の速度を落とし、建物の中庭にゆっくりと舞い降りた。

 ティアは一息つくと、周囲を見回した。

 中庭には数人の庭師と建物の関係者らしき服を着た人がいた。

 皆、空から降ってきたティアに驚いて、放心していた。

 ティアは関係者らしき女性に歩み寄った。


「申し訳ありません。ドーガ学院長は今、おりますでしょうか?」


 ティアはとても穏やかな笑顔で尋ねると、先程まで放心していた人物はハッと我に返り、少しうろたえた様子を見せた。


「あ、え、お、ど、ドーガ学院長なら二年前に亡くなりましたよ」

「えッ!?」


 予想外の回答にティアは眼を見開いて驚きの声を上げた。


「そ、それは本当ですか!? あのドーガ学院長が一体なぜ!?」

「学院裏の林に生えていたキノコを食べて、食中毒でパタリっと」

「あ~……なるほど……」


 ティアは納得したのか、何度か頷いた。


「では、今はどなたが学院長をなさっているのですか?」

「ヴぁ、ヴァイス=サファイア=アイシクルス様ですが」

「ゲェッ、ヴァイス!?」


 予期せぬ人物の名前が出てきたことに、ティアは驚きすぎて動揺を隠しきれなかった。


(どうしましょう、ドーガ様なら理由を話さなくても快く貸してくださったのですが……まさか、ヴァイスが学院長になっているなんて……どうしたものかしら、生真面目な彼の事だから絶対理由を尋ねられますね……)


 ティアは予想外のことが続いたことにより、頭を抱えてた。


「あ……あの、学院長に何の御用でしょうか?」

「いや……まぁ……その………………仕方がありません。直接本人に会って、説得しましょう」

「誰に、何を説得するんだ? ティア=アーベリア」


 突然、背後から聞き覚えのある声が聞こえ、ティアが振り向くと、そこに一人の男性が立っていた。

 少し薄い青色の整った髪、同じ色の双眸、まるで固まって動かなくなったかのように微動だにしない無機質な表情、ティアと同じくらいの身長、青と白を基調にした服を乱すことなく着こなし、その背には刃が青い結晶でできた槍を背負っていた。


「あら、お久しぶりですね。ヴァイス」

「ああ、久しぶりだな、ティア。確か、五年前に行方不明になったと聞いたが……」

「まぁ、色々あったのですよ……色々と……」


 苦笑しながら、ティアは誤魔化すように答えた。


「……まぁ、無事ならそれでいいんだ。これ以上、旧知の友を喪うのは私としても不本意だ」

「ふふっ、心配させて、ごめんなさい」

「フッ……それで、何の用だ。お前が用もなく、ここを訪れるとは思わんが」

「あ~……それはですね……その……なんとゆうか……」


 何処か歯切れの悪そうなティアの様子にヴァイスは首を傾げた。


「どうした、言いたいことがあるのなら、早く言え。私も暇ではないのだ」


 ヴァイスに急かされ、眉を顰め思い悩んでいたティアだったが、意を決して、改めて目の前の友人に向き直る。


「ヴァイス、昔馴染みのよしみで頼みたいことがあるのです」

「ん、なんだ?」

「『魔導回路具(アーティファクト)』と『魔導回路(ルーン)』に関する教本をお借りしたいのです」

「何?」


 友人の意外な頼みにヴァイスは怪訝な顔で首を傾げた。

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