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第七話 バレットの作って、作って、ぶっ放そう!(後編)

 深夜。草木も眠る丑三つ時、バレットは起き上がった。

 彼はゆっくり妹の顔を覗き込み、彼女が眠っているのを確認した。

 物音を立てないようにベッドから立ち上がり、更に忍び足で箪笥まで近づいて、寝る前に用意しておいた服に着替えた。

 慎重に部屋を出て、クリア達の部屋の前まで移動して、中を覗き込んだ。

 二人はベッドで抱き合って眠りについていた。

 それを確認して、音もなく扉を閉めるとゆっくりと一階に降り、ログハウスの外に出た。

 そこからは音など気にせず、走り出し、裏庭に置いてあるバケツを拾い上げる。

 中に手を突っ込んで、バケツが湿っていないのを確認し、それを右手に持ち、今度はブーさんの元に向かって走り出す。

 夜中の為、ブーさんも体を丸めて、眠っていた。


「ぶー、おきて! おきてよ! おきてってば!」


 バレットは小声でブーさんの名を呼びながら、その巨大な体を遠慮なくバシバシっと叩く。

 ブーさんは唸り声を上げながら、目を覚ました。


「ガアアアア~ウウ~」

「やっと、おきた」


 のんきにあくびをするブーさんを見て、呆れた様子で言うバレット。


「ガウウ?」

「ぶー、頭乗せて」

「グウゥゥ?」

「いいから、早く乗せて!」


頭に乗せろとせがむバレットに溜め息のようにブーさんは息を吐いて、彼を両手で器用に掴むと自分の頭に乗せてあげた。


「ぶー、おれがころげおちたどうくつにむかって!」

「グゥ」


 やる気なく返事のように唸ると、少年と熊は夜の森へと消えた。


 漆黒の闇夜に包まれた森は不倒樹のせいで月明りがほとんど入らない為、十メートル先も見えないほど暗く、あちこちから魔獣の遠吠えが聞こえてきたが、近くにいる魔獣に対してはブーさんが咆哮を上げて威嚇した為、遠くに逃げて行った。おかげで、バレットとブーさんは彼が転がり落ちた洞窟に無事に辿り着いた。

 バレットはブーさんの頭から飛び降り、今度は足元に気を付けながら洞窟を覗き込んだ。

 昼間以上に暗く、底の見えない深淵を覗いているような気分になった。


「なんだったかな……『しんえんをのぞくときしんえんもまたあなたをのぞいている』だっけかな」

「がう?」

「なんでもないよ、じゃあ、行くよ」


 バレットは右手を上げた。


《われのぞむはやみをてらすあかり。【ライト】》


 バレットは明かりを灯す為に詠唱を行うが、豆電球程の光さえも発生しなかった。

 分かっていたこととはいえ、自分に魔法が使えないことに落胆して肩を落とすと、ブーさんの方を向く。


「とゆうわけなので、どうくつになにかいたら、ぶーのはなだけがたよりなので、よろしく」

「ガウ」


 ブーさんが返事するのを確認して、バレットはゆっくりと洞窟の坂を下り、ブーさんもその後に続いた。


 一メートル先も見えない暗闇の中をゆっくりと一歩一歩、地面を確かめながら進むバレット。

 時折、ブーさんの存在を確認しながら、洞窟の底に辿り着いた。

 そこからに壁に手をついて、壁沿いに進みながら、つま先で足の感触を確かめながら坂を下りる時よりも更にゆっくりと進んだ。


「たしか、うみのすなみたいにさらさらのかんしょくだったはず」


 硬い地面をつま先でつつきながら、昼間に触った魔増爆砂(エーテル・パウダー)を思い出す。

 十分程かけて、ようやく、地面の感触が硬い岩盤から、軟らかな砂の感触に変わった。


「あった!」


 バレットはその場でしゃがむとバケツを傍らに置いて、今度は手探りで砂を探し、両手で掬い上げ、バケツの中に入れた。


「これ……まいかいとりにくるとなるとつらいな。まっくらななかで、てさぐりしながらさがすのは……」


 バレットはこれから魔増爆砂(エーテル・パウダー)を採りに来る苦労を考え、億劫そうに言った。

 直後だった。

 周囲が突如、明るくなり、そのせいで一瞬目が眩んだ。

 ほんの数秒程で目は光に慣れ始め、光源の方を見た。

 そこにはボーリング玉程の光を携えたクリアが立っていた。


「ああ、クリアか。ありがと、暗くて困ってたんだ」


 クリアに礼を言い、バレットはもう一度、魔増爆砂(エーテル・パウダー)を掬い上げようとして、その動きがピタリっと止まった。

 少年の顔がみるみるうちに真っ青になり、体中から冷や汗が大瀑布の如く溢れ出した。

 バレットはその体勢のまま、まるで錆びついて動作が鈍くなったカラクリ人形のようにぎこちない動きで、もう一度、クリアの方を向いた。

 クリアの鋭い刃のような眼差しが一層鋭さを増し、見るものを威圧していた。

 クリアは何も言わず、ズンズンっと早足で歩み寄ってきた。

 咄嗟にバレットはその場でうずくまり、両手で頭を守るように覆った。

 彼に近寄ると、バレットの胸ぐらを掴んで持ち上げた。


「こっっっっのバカ野郎! こんな夜中に一人で森に入るなんて何考えてやがんだ!!」


 クリアの怒声を上げて、バレットを叱る。

 洞窟内部の為、音が反響し、いつもよりもその声が大きく聞こえた。

 彼女はバレットが部屋を出た時点で目を覚ましていた。

 彼が自分達の部屋を覗き込んできた為、寝たフリをして油断させ、気付かれないようにその背後を追いかけていたのだ。

 ちなみブーさんはクリアが追いかけてきていることには気付いていたが、バレットの為に黙っていたのだった。


「ご、ごめんなさい! でも、ひとりじゃないよ……ぶーもいっしょにきてるし」

「そういう問題じゃねぇんだよ! それになんで魔増爆砂(エーテル・パウダー)を集めてんだ! あんだけ危険だって言っただろ!」

「どうしてもひつようなんだよ!」

「なんで、こんな危険なモンが必要なんだよ!?」

「ありすをまもるためだよ!!」


 クリアの声量に負けないくらいの声を必死に出して、バレットが反論した。


「――おれはありすのにいちゃんなんだ。いもうとをまもるのはおれのやくめなんだ。だけど、おれにはまほうがつかえない……ありすをまもるちからがない……だけど……えーてる・くれいとえーてる・ぱうだーがあれば、それができるの……だから……」


 バレットの必死な訴えを聞いて、クリアは視線を明後日の方向に向けて考え事を始め、やがて、バレットを地面に下し、片膝をついた。


「くりあ?」

「本当に魔増爆砂(これ)があれば、アリスを守ってやれるんだな?」


 唐突に質問され、バレットは一瞬戸惑ったが、すぐに表情を引き締め、力強く頷いた。


「………………分かった。許してやるよ」

「ホント!?」

「ただし! ちゃんと約束を守れるならの話だ! もし、一つでも破ったら、もうダメだからな!」


 バレットが喜ぶより先にクリアが釘を刺してきて、気圧されるが頷いて答えた。


「ん。よし、んじゃ、このバケツに入れておけばいいんだな?」


 クリアの言葉にバレットは頷いて答え、彼女は魔増爆砂(エーテル・パウダー)を右手で掬い取って、バケツの中に入れた。

 バレットも隣にしゃがんで、一緒に掬い始めた。


 その後、魔増爆砂(エーテル・パウダー)を集め終えてログハウスに帰ると、家の前でティアが待ち構えており、バレットは軽く叱られたのだった。


 それからクリアはバレットに魔増爆砂(エーテル・パウダー)に関する決め事を伝えた。


 ①.魔増爆砂(エーテル・パウダー)を採りに行く際は一人で行かず、クリアかティアのどちらかを連れて行くこと。

 ②.何かの拍子に魔増爆砂(エーテル・パウダー)が発火して、家が壊れたら困るので、取り扱う際は必ず外で扱うこと。

 ③.扱う時もクリアとティアのどちらかを付き添わせること。

 ④.取り返しのつかないような怪我などを負った場合はすぐに取り扱いを禁止にする。


 以上がクリアがバレットに提示した決め事だった。

 バレットはそれを全て承諾した。


 そして、今、バレットは裏庭の切り株の上にあぐらで魔硬粘土(エーテル・クレイ)で頭の中にある設計図を基にあるモノの製作に取り掛かっていた。

 その正面にクリアが座って、その様子を眺めていた。


「なぁ、バレット。それがホントに武器になんのか?」


 クリアが彼の前に広がる魔硬粘土(エーテル・クレイ)製の大小様々のパーツを指さしながら訪ねるが、バレットは作業に集中し過ぎている為、彼女の声が届いていない模様。

 そんな少年の様子を見て、やれやれと言わんばかりに溜息を吐いた。

 バレットが作っているモノ、それは前世の頃から好きだったモノ。

 バイト等をしてソレを集め、それに関する雑誌は穴が開くほど読み漁った。

 だから、その構造も原理も全て頭の中に残っている。

 

 小さい頃から大好きだった――「銃」を。


 最後のパーツを仕上げ、脳内の設計図通りのパーツがあるかを何度も確認し、全て確かにあるのを確認すると、力強くを頷くと、パーツの一つを手にもって、全力で魔力を流した。

 魔硬粘土(エーテル・クレイ)のパーツは急激な魔力を浴びて、急速に変質し、艶のない粘土質から黒銀に輝く鉄のようになった。

 それを見て、パーツをあった場所に戻し、次のパーツに取り掛かり、次々と魔硬粘土(エーテル・クレイ)のパーツに魔力を流し続けた。

 その光景をクリアは睨みつけるように見ていた。


(やっぱ、バレットの魔力量は異常過ぎる。普通の子供ならこれだけの魔力を使ったら、魔力枯渇でぶっ倒れるぞ……これは少し調べる必要があるな……)


 クリアがそんなこと考えていると、バレットは全てのパーツに魔力を流し終えていた。

 全てのパーツがわずかに差し込む日の光を浴びて、黒銀に輝いていた。

 彼はそれを一つ一つ丁寧にパーツ同士を組み合わせ始めた。


「そちらはどうですか?」


 魔法の修行を切り上げたアリスとティアが歩み寄って、進捗を聞いてきた。


「どうなんだ、バレット君?」


 クリアが聞いてみるが、やはり、バレットは銃の組み上げに集中しすぎている為、何も答えなかった。


「……これだよ」


 少年の様子に呆れ果てて、肩をすくめるクリアとやれやれと同じように呆れた顔になるアリスとティアだった。

 

 数分後。


「よぉぉし、できた! しせいじゅうだいいちごう!!」


 ようやく組み上がった試製銃第一号を掲げ、バレットが嬉しそうに声を上げた。

 彼が完成させた銃は拳銃(ハンドガン)タイプなのだが、拳銃(ハンドガン)にあるはずのマガジンが付いておらず、銃身の中心辺りを折って、そこから弾を籠める仕様になっている。

 なお、その仕様の為、装弾数は一発だけだが、発砲を行う為の試製品なので一発だけ入れば問題ない。


「おめでとうございます、にいさん」

「よく分かりませんが、おめでとうございます、バレット」

「ああ、おめでと……」


 バレットの努力を心から祝福して、拍手するアリスとティアに対して、クリアだけがやる気なく拍手していた。

 ただ、彼女は左腕がない為、右手で自分の右足の太ももを叩いて、拍手していた。


「んで、それをどうやって使うんだ?」

「これだけじゃ、いみがないんだよ」

「ああん? そういや、魔増爆砂(エーテル・パウダー)を使ってなかったな」

「えーてる・ぱうだーはこれにつかってるよ」


 

 そう言いながら、バレットは傍らに置いておいた弾丸を持ち上げ、クリアに見せた。

 こちらも魔硬粘土(エーテル・クレイ)で作られており、大きさと形状は9mmパラベラム(全長約三センチ程)と似ているが、バレットの作ったモノは少し口径が大きめに作られている。


「なんだ、このちっこいの」


 バレットから弾丸を受け取り、手の平に乗せて眺めるクリアとティア。


「これはだんがん。ゆみでいうところのや」

「ほ~ん、こんなちっこいのがね~」


 クリアは弾丸をバレットに返し、彼は試製銃の銃身を折り、弾丸をそこに籠めて、元の状態に戻した。

 試製銃を傍らに置いておいた木製の三脚(クリア作)の様なモノに括り付け、更に引き金に紐を括り付けた。


「なんだ、そうやって、使うもんなのか?」


 クリアがそう聞くと、バレットは首を振って否定した。


「いちおう、ねんのため。えーてる・ぱうだー(かやく)にながしたまりょくのりょうがおおすぎて、じゅうしんがはれつでもしたら、よくてはへんでけが、わるいとてまでふっとぶからね」


 バレットの説明を聞いて、クリアとティアが驚いて、眉をしかめた。

 そんな二人を他所に、少年は試製銃を持って駆け出し、近くの不倒樹の裏に回り込むと、そこに三脚の足先を地面に深く差して設置し、トリガーに縛った紐の反対を持ってまた走って、三人の元に戻った。

 三人に耳を塞ぐように伝え、アリスとティアはそれに従って、手で耳を塞いだが、クリアだけは耳を塞ごうとしなかった。


「けっこう、おおきいおとでるよ」

「爆発音には慣れてるから安心しろ」


 納得して安心したのか、バレットは紐を手繰り寄せ、ピンっと張り詰めさせた。

 そして、勢いよく紐を引いたが、何も起こらなかった。

 何も起こらないことにクリアが首を傾げ、バレットは予想していたのか、それから何度か紐を引いた。

 やはり、何も起こらなかった。

 バレットは紐を投げ捨てて駆け出し、試製銃を回収すると、三人の元に戻った。


「しっぱいですか?」


 耳から手を離して、アリスが試製銃を覗き込んできた。


「うん……」

「どっかのパーツがおかしいんじゃないか?」

「『じゅう』じたいのこうぞうはたんじゅんだから、こっちはもんだいないよ。もんだいは……」


 バレットは銃から弾を取り出して、それを見つめた。


「――『たま』のほうだね。たぶん、『らいかん』がうまくさどうしてないんだとおもう」

「「らい……かん?」」


 聞いたことない言葉に怪訝な顔でクリアとティアが首を傾げる。


「うん、げきてつがらいかんにあたってるんだけど、うまくはっかできてないのか。もしくは、やっきょうのなかのえーてる・ぱうだーにながしたまりょくがよわすぎてはっかしても、だんとうをとばすほどのがすあつがおこってないのかも。こうしゃならまだながすまりょくりょうをふやせばいいだけだけど、もし、ぜんしゃのらいかんなら、ちょっと、かんがえなおさないといけないかも、でも、もしそうだとそたら……」


 バレットが淡々と早口で原因を説明しているが、クリアとティアには理解が及ばず、頭の中に?が溢れかえった。

 アリスだけがその様子を見て、呆れていた。

 そんな三人を他所にバレットは独り言続けていた。


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