第四話 双子、魔法の力に目覚めます
魔力制御の修練から二ヶ月が経った。
森の中が蒸し暑くなり、夏を感じ始めた頃、二人は魔力を完璧に制御できるようになり、次のステップに進んでいた。
四人はログハウスの裏庭に来ていた。
裏庭は広く、ログハウスを造る際に切られた不倒樹の切り株が至る所に残されていた。
その中心辺りでクリアは自身の腰ほどまである木の棒で地面に魔法陣を描いていた。
「それじゃあ、魔力制御も覚えたから次はいよいよ。お楽しみの魔法の修行に移るぞ」
その言葉を聞いて、双子は内心で喜んでいるが、クリアの行動が気になりすぎて、リアクションが取れずにいた。
「くりあ、何描いてるの?」
「これはな、魔法を使えるようにする為に必要な儀式を行う為の魔法陣だ」
描く動作を止め、近くの切り株に乗って、魔法陣が正しく描けているかを確認し、棒を投げ捨て、双子の前まで移動する。
「それじゃあ、これから「元素開眼の儀」をやるぞ」
「「げんそかいがん??」」
聞いたこともない言葉に双子は同時に首を傾げる。
「簡単に説明しますと、自身のうちに眠る四元素という自然の力。『火』『水』『風』『土』の力を覚醒させる儀式のことです。これを行わなければ、人は魔法が使えないんです。それと、元素開眼すると髪とか目の色が変わりますよ」
ティアは双子に分かるように要点だけを説明した。
彼女の説明を聞いて、双子は納得しのか何度も頷いた。
「それじゃあ、どっちが先にやる?」
クリアの言葉を聞いて、双子は顔を見合わせた。
「どうしよう、兄さん」
「どうする、先にする?」
兄の言葉にアリスは眼を輝かせて、うんうんっと頷いてから魔法陣の上に移動した。
「それで、どうしたらいいんですか?」
「お前は魔力を魔法陣に流してるだけでいい、メンドいのはティアだけだから」
「他人事だからって軽く言いますね~」
苦笑し、呆れたような感じでティアがそう言うと、右手を魔法陣に向けた。
「ではアリス。魔力を流してください」
ティアの言葉にアリスは頷いて答え、足元の魔法陣に魔力を流した。
それを確認すると、ティアは瞼を閉じた。
《我が声に応えよ、世界を彩り造る四元の力よ》
ティアが詠唱を始めると、魔法陣が白く輝きだす。
《――彼の者の中に眠る元素を目覚めさせ、奇跡の力を使役する術をもたらしたまえ》
詠唱が進むにつれ、輝きは徐々に増し、雷光まで迸り始めた。
その光景にバレットは口を開け、見入っていた。
すると突然、アリスが胸を押さえ、その顔が苦痛で歪んだ。
「アリス!!」
突然のことに、彼女に近寄ろうとしたバレット。
「大丈夫だ、力が目覚めようとして苦しいだけだ」
クリアが叫んで彼を制止させ、その言葉にバレットは動きを止めた。
(それにしても、白い光? 火の赤。水の青。風の緑。土の黄のどの色でもなく、白? 聞いたことないぞ。それに雷光まで迸るってどうゆうことだ?)
クリアが魔法陣から発生する白い光と雷光に内心で疑問を抱いていると、アリスの身に変化が表れだした。
彼女の黒髪が根元から徐々に白く染まり始めた。
白く染まる髪を見て、バレットだけでなくクリアとティアも驚きを隠せずにいた。
一分ほどで髪が染まり切り、それに合わせ瞳が黄金に変わり、魔法陣の光と雷光がゆっくり消えた。
「ハァ……ハァ……どうですか、げんそかいがんできましたか?」
儀式の反動により息切れを起こし、苦しみ耐えながらアリスが訊ねるが、クリアとティアは彼女の身に起きたことを理解できず、放心していた。
「あの……くりあ……てぃあ……?」
無反応の二人にアリスは首を傾げる。
「アリス……」
我に返ったティアが声をかける。
「は、はい……」
「――右手に魔力を集めてもらえるかしら? それで貴女の元素の力が発現するので」
「分かりました」
アリスは息を整え、右手を自分の胸の高さまで上げ、魔力を集めた。
すると、右手に白い光の玉が発生した。
「白い……」
「光……」
二人はアリスの生み出した光の玉に驚愕した。
「きれい……これがわたしのちからなんですね」
「きれいだね~。ねぇ、これはよんげんそのどれなの?」
バレットが興味津々に訊ねるが、二人はあまりに予想外の事態に放心しており、彼の言葉が届いていないようだった。
「クリア? ティア?」
バレットは近くにいたクリアの裾を引っぱって呼ぶが、まったく反応しなかった。
そんな二人を見て、不安そうな顔をするアリス。
放心したままのティアがゆっくりとアリスに歩み寄って、その肩にそっと手を置く。
「アリス……」
「は、はい!」
「貴女の力は四元素の力じゃないわ……」
「そうなんですか?」
ティアが頷く。
「――貴女のそれは原初の力です」
「げんしょ?」
「ええ、それは原初の――『光』の力です」
かつて世界は何もない無だった。
神の意思か、はたまたただの偶然なのか、突如、光の大奔流が起こった。
光は無を隅々まで照らし、満ち溢れた光の中にこの世界が生まれた。
そして、創造された世界に火が舞い上がり、風が吹きすさび、水が降り注ぎ、土に草木が芽吹き、そして、数多の小さな命が誕生し、世界は様々なもので満たされ続けた。
これがこの世界の創造譚である。
「言い伝えや伝承、おとぎ話でしかその存在が確認されていないような伝説の力です」
「そ、そんなすごいちからなんですか?」
「ええ、勇者や英雄が使っていたモノなので」
それを聞いたアリスの顔が不安の色が濃くなった。
「じゃあ、わたしはゆうしゃにならないといけないのでしょうか?」
「え?」
アリスの悲しそうな声にティアが目を丸くする。
「だって、ゆうしゃやえいゆうがつかってたものなんですよね? だったら、わたしもそうしないといけないのかなって……」
アリスの不安と恐怖を纏った顔を見て、ティアは優しく慈愛に満ちた顔で首を軽く振り、アリスの頭を撫でた。
「別にいいんですよ。そんなものにならなくても」
「え?」
「なりたくないのならなくていいんです。勇者や英雄は無責任な人達に責任を押し付けられた人達がならざるおえなかったモノなのですから」
「だから、アリスはアリスのままでそんな無責任な人達の言葉なんて無視してもいいんですよ」っと最後にそう一言だけ言い、ティアはアリスをバレットの隣まで連れて移動した。
「さて、あまりに驚くことが多かったですが、次はバレットの番ですよ」
「おう、何でも来い!」
「元気があってよろしい。では、魔法陣の上に移動してください」
「は~い」
バレットは元気よく、魔法陣の上に移動し、ティアも先ほどまで立っていた位置に戻った。
「うし、んじゃあ、バレット。魔力を流せ」
「おう!」
元気よく返事をし、バレットは魔法陣に全力で魔力を流した。
「そんな全力で流さなくていい! 少しでいいんだよ!!」
クリアに怒鳴られ、バレットは魔力を流す量を抑えた。
「まったく……」
クリアは呆れたように吐き捨てると、ティアに視線を送って促す。
彼女も頷いて答え、詠唱を始めた。
《我が声に応えよ、世界を彩り造る四元の力よ。彼の者の中に眠る元素を目覚めさせ、奇跡の力を使役する術をもたらしたまえ》
ティアが儀式の詠唱をした。
しかし、魔法陣は一切反応せず、何も起こらなかった。
そのことに四人は首を傾げた。
「なにもおこらないよ~」
「アレ、おかしいですね。もう一度、やります」
ティアは再度詠唱を行うが、何も起こらなかった。
クリアはその光景を見て、口に手を当て思考する。
「バレット。もう少しだけ、魔力の量を増やして流してみろ」
クリアに言われ、バレットは流す魔力量を増やした。
それを確認し、三度目の詠唱を行うが、やはり魔法陣は何も反応を示さなかった。
「どうして……何故……?」
あまりに再び起こった予想外の事態に困惑するティアとクリア。
「もしかして……バレットには四元素の力がないのか……」
クリアの言葉に周りが静寂に包まれた。
「つまり……どうゆうこと?」
不安そうな顔でバレットが訊ねると、二人は気まずそうに顔を背けた。
「……分かりやすく言うなら、元素の力が目覚めないお前には魔法が使えないってことだ」
クリアが静かに告げられた衝撃の事実にバレットは数歩後ずさった。
「そん……な……」
バレットの震える弱々しい声が風に乗って、森の中に消えていった。




