第三話 双子、修行始めます。
翌日、ログハウス前。
夜が明ける少し前、いまだ夜の帳が世界を覆っている時間、四人は家の前に並んでいた。
夜明け前とゆうのもあって、双子は眠そうな顔で欠伸をしている。
バレットの前にクリアが、アリスの前にティアが立っていた。
こちらは早起きに慣れているのか、平然としていた。
「さて、眠いのは分かるが、これから修行を始めんぞ~」
クリアの言葉に二人は寝ぼけた眼でやる気なく右手を上げ、「おお~」と小さく声を出す。
そんな二人を見て、やれやれと微笑むティアとピクピクっと頬を引きつらせるクリア。
ゴンゴン!
「眼は覚めたか、馬鹿共?」
クリアに殴られ頭を押さえてその場にうずくまりながらも双子は小さく頷いて答えた。
「クリア、もう少し加減をしなさい」
「生ぬるくするとガキってのはすぐつけあがるからこれくらいがいいんだよ。聖女様」
右手を軽く振るって、二人を指さし何かを相方に促した。
ティアは深く溜息を吐いて、二人と向き合う。
「では二人共、修行を始めます。いつまでもうずくまっていないで立ちなさい」
頭を擦りながら、双子はゆっくり立ち上がった。その目には涙が浮かんでいた。
「さて、ではまず、二人には魔力の制御を覚えてもらいます」
ティアの言葉に双子は可愛らしく首を傾げ、バレットが大きく手を上げた。
「何かしらバレット」
「てぃあ、なんでまほうをつかうのよりまりょくのせいぎょなの? はやくまほうつかってみたい」
「バレット、気持ちは分かります。ですが、今の状況で魔法を使うと良くて制御出来ず、すぐに魔法が消える……」
ティアの説明に二人がうんうんと頷きながら、黙って聞く。
「――最悪の場合、膨大な魔力で魔法が暴走して我々もろともこの森が消滅します」
彼女の言葉にバレットとアリスは目を見開いて驚愕した。
クリア達は二人をベッドから起こす前にあることを決めていた。
それは二人に自分自身の異常さを知ってもらうことだった。
バレットとアリスがその常軌を逸した魔力を制御できず魔法を使えば、暴走し、最悪の場合、都市どころかこの大陸そのものを消滅させかねないと踏んだからだ。
だから、彼等に己の力の強大さを知ってもらったうえで、それを制御する術をまず身に着けてもらおうと考えたのだ。
「バレット、アリス。貴方達の魔力量は異常です。それだけなら私達をも軽く凌駕するほどです。だから、二人には魔力を暴走させない為に魔力制御の修行を先に行います」
そう言い終わると、ティアは持っていた物を二人に手渡した。
彼らが受け取ったのは先端に綺麗な六角形に加工された白い石が付いた長さが三十センチほどの杖だった。
「その杖についている石は『魔輝石』と言って、魔力を感じると三色に光ります」
ティアは懐からもう一つ出し、魔力を杖に流すと、石が緑色に輝きだした。
二人はそれを見て、感嘆の声を上げる。
「この魔輝石は一定の魔力を安定して流すと緑に。ある程度超えると黄色に。許容できないほどの魔力が流れ込むと赤に。限界を超えた場合は破裂します」
「まずそれを使って魔力を操作する感覚を覚えてもらう。お前等と同じくらいのガキがよく使う道具だ。ただな、先に言っておくがその魔輝石はこの森じゃあ簡単に手に入らないから壊すなよ」
クリアにそう釘に刺され、二人はぎこちなく頷く。
「いいですか。バレット、アリス。魔力制御は覚えてしまえば簡単です。まず、自分の胸に意識を集中してください」
ティアの説明を受け、二人は杖をジッと見つめ、意識を胸に集中した。
「――そして、頭の中で胸の奥にある力を腕にゆっくり流すイメージをします。そしたら、暖かいモノを感じるはずです」
頭の中で胸の奥にある未知の力を腕に流し、杖へ流すイメージをした。
すると彼女の説明通り、胸の奥から暖かな何かが流れる感覚を感じた。暖かなモノは胸からどんどん腕に進んでいった。
「いいですよ二人共、そのままその流れてきた力を少しづつ杖に移すイメージをします」
力を杖に流すイメージをし、魔力が杖に流れた瞬間――。
パンッ!
二人の杖に付いていた魔輝石が甲高い破裂音を立てて粉々に砕け散った。
それを見て驚き硬直するバレットとアリス。
苦笑して頬をかくアリー。
そして、注意したのにもかかわらず石を壊したことに、眉毛を吊り上げて怒るクリア。
その後、二人の頭部にクリアの拳が振り下ろされたのは言うまでもない。
二人の魔輝石を使った修練を始めて数週間が過ぎた。
アリスの方は魔力制御を覚えだし、石の光が緑と黄色に交互に変わってまだ安定しないが、破壊することはなくなった。
バレットは今だ制御がうまくいかず、五回に一回は石を砕いてクリアに殴られてる。
「いいかバレット、魔力を扱うのなんて簡単だ。頭ん中で水が流れるイメージをして、それを杖にちょっとづつ渡すイメージをだな……」
「くちでいわれてもよくわかんねぇ……」
「あ~だから……こうゆうのアタシ向いてねぇな~」
クリアは頭を乱暴にかき、眉間にシワを寄せて困り果てた。
バレットもいつまでも出来ないことに涙目になって、うつむいた
「にいさん……」
そんな兄の様子が心配でつい、よそ見をしてしまうアリス。
「コラッ、よそ見しない」
杖で頭を軽く小突かれ、視線を戻した。
ティアもバレットの事が気になっているが、魔力制御は自分の感覚で覚えなければならないモノ、不用意な発言は本人の為にならない。
ただ、彼の事を考えると何かいい方法はないかと思案するがなかなかいい手が思いつかないでいた。
「しすたー・てぃあ……」
「ん、何かしら?」
「ちょっとじかんをもらってもいいですか?」
「構いませんが……具合でも悪いの?」
ティアが聞くと、アリスが頭を振るって、バレットの方に駆け寄る。
「にいさん……ちょっといいですか?」
「なに、ありす?」
「えっとね、じぶんをぽんぷだとおもえばいいの」
「?」
妹の発言にバレットだけでなく、隣にいたクリアも首を傾げた。
「まりょくはくうき、じぶんはそのくうきをおくるぽんぷ、つえはたいやだとおもって、それでそのたいやにくうきをためるいめーじをするとできるよ」
彼女の説明に更に首傾げるクリアだったが、それを聞いて、何かを得れたバレットはハッと顔を上げ、アリスの言う通りにイメージをした。
(つえはたいや。まりょくはくうき。じぶんはくうきをおくるぽんぷ)
すると、さっきまで赤く光らしていたり、壊れしていた杖の魔輝石が黄色に輝いた。
「おお、やったー!」
バレットは笑顔になり喜びの声を上げ、両手を上げた。
すると、突然の感情の起伏で制御が乱れ、杖の石が壊れた。
「あ……」
バレットは声を上げ、恐る恐るクリアを見上げた。
クリアは半眼で彼を見下ろし、拳を振り上げていた。
咄嗟にいつ殴られてもいいように、身構えた。
「…………あれ?」
いつまでも振り下ろされない拳を不思議に思い、そっとクリアを見上げると、彼女は拳を振り上げたままの体勢で静止していた。
しばらくしてやれやれといった表情になって、拳をゆっくり下げた。
「まぁ、魔力制御を覚えれたならそれで許してやる」
そう言い終わると、ぽんぽんっとバレットの頭に手を置いて、乱暴にその頭を撫でた。
「よくやった」
彼女に褒められ、バレットは素直に喜んで笑顔になった。
「さて、それよりアリス……お前……」
クリアはアリスに視線を送ると、少女は不思議そうな顔をして首を傾げていた。
「…………いや、今はまだ聞くべき時でもないか」
そう言って、バレットから手を離した。
「それじゃあ、ティアここいらで少し休憩にしようぜ」
「ええ、そうしましょうか」
クリアの提案で四人は休憩をすることになった。