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第二三話 それぞれの事情②

 昼休憩が終わり、教室に戻ると次の授業は魔法の実技だった。

 双子のクラス全員が今朝、決闘で使われた闘技場に集まっていた。


「は~い、では、魔法の実技に入りま~す」


 ルーティが大きく手を上げて、全員に聞こえるほど大きな声で告げる。


「今日皆さんには~、あそこに立ててる的に向かって何でもいいので魔法による攻撃を当ててもらいま~す」


 彼女は自分の背後に設置している的を指さす。

 的は畑にあるような案山子の姿をした赤茶の土人形だった。

 大きさは大体一五〇センチメートルほど、距離はおおよそ十五メートル程離れていた。


「じゃ~あ~、まず~、誰からしますか~?」


 ルーティが全員を見渡しながら聞くと、ほとんどの生徒が近くにいるチームメイトに「お前行けよ」っと押し付け合いを始めだした。

 その光景にオーロラはうんざりしたように溜め息を吐くと、髪をかき上げ全員の前に歩み出た。

 ルーティは自主的に出てきた少女を見て、満面の笑みになる。


「それじゃあ~、オーロラさ~ん。皆にお手本をみせてあげてくださ~い」


 ニコニコと屈託のない笑顔なルーティに対して、オーロラは無言のままつまらないモノを見るかのような目で的を睨む。

 彼女はただ優雅に右手を胸の高さまで上げると指を鳴らした。

 すると、的の真下から氷の巨人の手が出現し、目標を殴り飛ばして打ち上げる。

 彼女は冷めた表情のまま、まるで厄介な人を追い払うように手を払うと、打ち上がった的に百近い細長い氷柱が突き刺さった。

 その光景に一部の生徒を除いて、口を開けて驚愕していた。

 ふんっと鼻を鳴らして、オーロラは振り向いた。


「これでよろしいでしょうか?」

「うん、ちょっとやり過ぎなところがあるけど~、合格で~す」


 オーロラは優雅に一礼をすると、バレットの方を一瞥した。

 彼も少女の視線に気づいて、彼女を見た。

 オーロラは仏頂面で顔逸らした。


(こりゃ、相当嫌われたな~……)


 内心で顔を顰めるバレット。

 オーロラが先程いた場所に戻るのを確認すると、ルーティが両手をくるくると回転させると、地面がボコボコと盛り上がり、新たな的が造られ、もう一度、全員を見渡す。


「それじゃあ~、次は誰がやりますか~?」


 全員が先程のオーロラの魔法を見て、怖気づいてしまっていた。

 その光景にグレイがやれやれと言いたそうな顔になると、前に出た。


「では~、グレイく~ん。次、お願いね~」

「ええ、ド派手にやってあげますよ!」


 グレイは右手を仰々しく振り上げる。

 すると彼の目の前に直径五メートルの紅蓮の魔法陣が発生し、炎の柱が噴き上がった。

 まるで蛇が鎌首を持ち上げて狙うようにうねりながら、炎は目標を見据える。


≪【炎よ、(フレイム・)大蛇となって(スネーク・)敵を食らえ(イーター)】!≫


 ショートカットした詠唱を叫び、上げた手を勢いよく振り下ろすと、炎の蛇は天高く昇り、的を真上から飲み込んだ。

 着弾点で蛇は的を中心にとぐろを巻くように動いた後、爆発した

 爆発の爆風に生徒達は顔を背けた。

 爆心地は地面が抉れ、的は跡形もなく破壊されていた。


「フゥー、フゥー……どうです、ルーティ先生?」


 軽く息切れを起こしながら、グレイが訊ねると、ルーティは難しい顔で唸っていた。


「んん~、上出来だけどね~、自分の魔力量を考えて魔法を使おうね~」

「分かりました……」


 息を整えてから、グレイは自分がいた場所に戻った

 それを確認し、ルーティは抉れた地面を直し、再び新しい的を造った。


「さぁさぁ、次は誰が行きますか?」


 グレイの魔法を見てやる気が消失してしまった生徒達は全員そっぽを向き始めた。


(兄さん、私行ってみようと思います)


 アリスがバレットにそっと耳打ちをした。


(お、行くか?)

(ハイ、ちょっと、楽しそうなので)

(よし、派手にぶちかましてこい)


 兄の言葉にアリスは楽しそうに笑顔で頷くと、前に出た。

 全員の視線が少女に集まる。


「おお~、アリスさん。行ってみますか~?」

「ハイ!」


 アリスの威勢のいい返事にルーティはうんうんっと頷き、何も言わず手で促した。

 少女は的に右手を向け、少し俯いて瞼を閉じた。


≪光よ、世界をあまねく照らす白き力よ……≫


 アリスが魔法の詠唱を始めると、的付近の空中に一メートル程の魔法陣が出現する。


≪清らかなる者には平穏の加護を。邪なる者には粛清の輝きを≫


 詠唱が進むにつれ、魔法陣が徐々に増え、的を取り囲み始めた。


≪これは悪しきを滅ぼす浄化の光!≫


 的を取り囲む魔法陣の数は三十に到達した。


≪――【収束せし光(フォトン・バースト・)の奔流(レイン)】!≫


 詠唱が完了した直後、全ての魔法陣から同時に白い光のビームが一斉に放たれ、的を貫いていった。

 全てのビームに貫かれた的は塵も残さず消し飛んだ。

 その光景を見て、バレットとルーティ以外の全員が驚愕で目が点になった。

 彼女は笑顔でルーティの方を向いた。


「どうですか、ルーティ先生?」

「……」


 少女の言葉に、ルーティは反応せず、眉間にしわを寄せて、的があった場所を見つめていた。


「先生?」


 再度、彼女の名を呼ぶと、ルーティはハッと我に返ると、いつもの子供のような笑顔を取り繕った。


「うん、詠唱があったとはいえ、オーロラさんに引けを取らない威力だね~」


 ルーティの反応が気がかりだったが、何も聞かず自分のいた場所に戻った。

 

「次は誰~?」


 振り向きながら、ルーティがふわふわしたで聞いた。

 それからしばらく、全員が順々に魔法を使って的を攻撃した。

 テニスボール程の火球を当てる者や、竜巻を起こして的を切り刻む者など、様々な魔法が繰り出されていった。


「はい、いいですよ~。ただ、もう少し早口で詠唱を出来るようになればもっと早く魔法を発動出来るから、魔法と一緒に早口の練習しておいてね~」

「ハイ」


 ルーティの指導を受けた生徒が元居た場所に戻り、ついに最後の一人になった。


「さて、最後はバレット君なんだけど~……大丈夫~?」


 ルーティが可愛らしく首を傾げながら聞くと、全員の視線が一斉にバレットに集まる。

 バレットは視線をそらして、溜め息を吐いて、前に出た。


「本当に大丈夫~?」

「問題ないです。ようは一撃当てればいいんでしょう?」

「うん、そうだけど」

「なら、問題な……あ!」


 そこまで言って、空間魔法でしまっていた銃を出そうと右手を上げようとして、止まった。

 バレットは振り向いて、半目で全員を見た。

 

「どうしたの~?」


 ルーティがまた首を傾げるが、バレットは何の反応もせず、半目のまま直立不動している。


(どうしよ、ここで空間魔法を使っていいものか……)


 バレットは空間魔法を使うことを躊躇っていた。

 何故かというと、クリアやティアも知らない空間魔法を見せて、興味を持ったクラスメイト達から質問攻めにあうのが嫌だからである。

 少年はしばらく目を泳がせながら唸ると、諦めがついたようにため息を吐いて、全員を指差した。


「さきに言っとく、俺もよく分かってないから質問しても無駄だぞ!」


 全員に聞こえるような声量でバレットが先に釘を刺した。何のことか分からないクラスメイト達はが首を傾げる。

 アリスだけが何のことか気づいて、手を打った。

 バレットは前を向いて、止めていた手を上げ、空間魔法を使って、軽機関銃を取り出した。

 何もない空間から黒い霧状のモノを出し、そこから物を取り出す光景に、生徒達だけでなくルーティまで驚きを隠せず動揺する。

 バレットの作った軽機関銃。

 銘「麒麟」。

 全長五三〇ミリメートル、口径八.六二ミリ。装弾数二〇〇発。

 バレル下部にバイポットが取り付けられていた。

 麒麟を両手で構え、プロテクターに魔力を流し筋力強化と衝撃吸収の魔導回路(ルーン)を起動する。

 セレクターをセーフティからフルオートに切り替え、引き金を一瞬だけ引いて、一発だけ的の胴体部分に向かって発射する。

 弾は人間の部位でいえば脇腹にあたる部分を掠めるように抉り取った。

 軽機関銃の弾丸で破壊できると確認したバレットは再度引き金を引き、銃を連射した。

 けたたましい銃声に一部の生徒が耳を塞いだ。

 射出された大量の弾頭は豪雨の如く降り注ぎ、的を破砕していった。

 約二分ほど射撃を続け、全ての弾丸を撃ち尽くすとバレットは一息ついて、麒麟を肩に担ぐように持った。

 的は弾が貫通して穴が開いたり、掠めて抉り取られボロボロになっていた。


「どうよ、ルーちゃん。魔法じゃないけど、評価はいかほどかな?」


 バレットがルーティの方を向いて訊ねるが、彼女は先ほどアリスの魔法を見た時以上に険しい顔で的ではなく、バレットの事を睨みつけるように見つめていた。

 あまりの形相にバレットは驚いて後ずさった。


「ど、どしたの、ルーちゃん?! メッチャ怖い顔になって!?」


 自分の表情に引いている少年や他の生徒達を他所に、ルーティは目を伏せ、口元に手を当て思考にふける。


「な、なぁ……ルーチャン?」


 バレットは恐る恐る近づいて、声をかけるが彼女は無反応のままだった。

 クラスメイト達の方を見て、首を傾げるバレットとそれに釣られて彼等も首を傾げた。

 それからしばらくして、ルーティは顔を上げた。

 その顔はいつも通りの子供の様な純粋無垢な笑顔になっていた。


「あ~、ごめんね~、ちょっと考え事してたから~。うん、先生はいいと思いますよ。ただ、魔導回路具(アーティファクト)を使った攻撃は魔法というのはちょっとね~」

「おお、うん、そっか……」


 バレットは先ほどのルーティの表情が強烈に記憶に残っている為、彼女の言葉が耳に入ってこなかった。


「じゃ~あ~、自分のいたところに戻ってくれるかな~」


 ルーティの言葉にぎこちなく頷いて、バレットは妹の隣に戻った。


「ハ~イ、じゃあ、全員終わったので次に行きま~す。呼ばれた人は前に出てくださいね~」


 手を軽く叩いあと、ルーティは一人一人名前を呼んで横に一列に並ばせた。


 その日の夜。

 王城・国王執務室。

 執務室内には国王とアルセリア王国騎士団の団長、ヴァイス、ユリア、ルーティの五人が神妙な面持ちでおり、空気が張り詰めていた。

 執務席に座る国王の背後に騎士団長が控え、ヴァイスとユリアが国王の正面に立ち、ルーティだけが一番遠い出入り口の脇で跪いて頭を垂れていた。


「以上があの兄妹に関しての情報であります」


 ヴァイスが王にバレット達の事を報告し終え、その報告と渡された報告書に目を通した国王の表情が一層険しくなる。


「兄は魔法が使えぬが、魔導回路具(アーティファクト)を使うことで戦うことができ……妹は四元師と遜色のない実力を秘めているか……」

「妹の方はまだ解るが、兄の方は脅威と言えるのか? 所詮、魔導回路具(アーティファクト)であろう?」


 国王と共に報告書を見ていた騎士団長が怪訝な顔で首を傾げた。


「私もメルト=ルビー=スカーレッドから手紙を読んだ時はその疑問に至りましたが、実際に目の当たりしてみて分かりました。あの武器は今後、世界のパワーバランスを覆しかねない程の力を持っています。魔法が使えずとも、我々四元師にすら対抗しえる力を誰でも手にすることが可能でしょう」


 四元師であるヴァイスの言葉に、騎士団長の顔は驚愕に染まり、国王は項垂れた。


「……『アサン』。お前もその魔導回路具(アーティファクト)――『銃』とやらの力を見ておるであろう。お前の見解も聞こう」


 国王に問われ、頭を垂れていたルーティが顔を上げた。

 その表情は昼間、学院の生徒達に見せていた太陽のように明るかった笑顔はなく、まるで氷河のように冷たい無表情な顔をしていた。


「……彼の者の持つ『銃』はまさしく、魔法に等しき力を秘めております。もし、『銃』が世に広まれば、魔法はもはや過去の遺物となってしまい、新たな争乱が巻き起こることは間違いないでしょう」


 ルーティは淡々と冷たい口調で説明し、国王と騎士団長は驚愕で目を見開き、抱えていた頭に痛みを感じ顔を顰める。

 彼女は()()()()()()()決して冗談や嘘をつくことがなく、モノの真意を見定め、瞬時にそれがもたらす最善と最悪の未来を予想できる。

 そんな彼女が争乱が起こると言うのであれば、それは冗談でも拡張表現でもない事実であるということを彼等は理解している。


「陛下、もしこのことが他国に知れ渡れば、面倒なことになります。特にアルセリアをよく思わない者達にとっては最高の報せになるかと……」


 ユリアの言葉に国王は頷いて、ルーティを見やる。


「『アサン』。お前は引き続き、教師の仕事と並行しつつ彼等の……特に兄の方の監視を徹底するように。もし、悪意ある者が近づいたのであれば……最悪、排除して構わん」

「仰せのままに、陛下……」


 ルーティの返事を聞き、国王は頷いてみせた。


「陛下、私からも一つ報告が……」


 そう切り出したのは王の傍に控えていた騎士団長だった。

 国王は振り返りながら、母親に部屋を片付けろと言われて嫌がる子供の様な顔になる。


「今度はなんじゃ……これ以上、ワシの悩みの種を増やさんどくれ」


 国王の反応に騎士団長も苦虫を嚙み潰したような顔になる。


「お願いします陛下。先の話も重要ですが、こちらも国益に関わるかもしれない重要な案件ですので……」

「ハァ……それで、なんじゃ?」

「西のグーバルト国境砦からの報告です。ここ数日、砦付近に多数の草食動物達が集まっていると」

「……………………それ、ワシに報告すること?」

「それがその動物達は砦から更に西へ数百キロ離れた高原に生息する動物で、砦付近では決して見かけぬモノだと。それに全ての動物が怯えており、まるで何かから逃げてきたかの様子だったと」


 先程まで嫌そうな顔をしていた国王の表情が引き締まる。


「これは何か恐ろしいことの前触れではないかと、私と副団長は睨んでいます」

「……ふむ、分かった。砦の隊長に伝えよ。原因が判明するまで厳戒態勢を敷くようにと、もし、砦の維持が困難になるようなことがあれば、砦を放棄して全軍本国まで撤退せよと」

「仰せのままに、陛下。直ちに砦へ伝令を送ります」


 そう言い残し、騎士団長は足早に部屋から退出していった。

 その背を見送り、国王は一息ついて、椅子の背にもたれかかる。


「奇妙な双子の出現、西の砦で起きた異変……一体何が起ころうというのじゃ?」


 国王の疑問に、ヴァイス達は答えを見出すことが出来ず目を伏せることしかできなかった。


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