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第二十話 双子、決闘をします。

「どうしてこうなった?」


 バレットが天を仰いでうんざりしたように呟いた。

 今双子とクラスメイト達は、グリモワルに隣接した闘技場にいる。

 ローマのコロッセオを思わせるような外観の建物、吹き抜けの天井、サッカコート二面分の整地された砂地の戦闘用のフィールド、フィールドを囲むようにして設置された数百人単位の人間が座れる階段状の観客席。

 闘技場のフィールドの中央にバレット、オーロラ、ルーティの三人が立ち、観客席にアリスとクラスメイト達、そして、騒ぎを聞きつけた他の生徒達で埋め尽くされていた。


「あの、『氷刃の乙女』に喧嘩売るなんて、あの新人、何モンだ?」

「さぁ、よっぽどの自信家か。ただの馬鹿なんじゃない?」

「何故、彼のズボンは黒いんでしょう?」

「なんでも魔法が使えないそうですわよ」

「さぁさぁ、賭けた賭けた。この決闘、勝つのは四元師の娘にして『氷刃の乙女』と恐れられる「オーロラ=アイシクルス」か。それとも、飛竜が如く現れた謎のルーキーの~、あ~、え~っと……何だったっけ名前? ああ、ありがとう、「バレット=アーキテクト」か。さぁさぁ、賭けた賭けた」


 観客席からは様々な声が聞こえており、バレットは表情は一層曇っていく。


「ごめんね~、うちの生徒()たちは~、娯楽に飢えてるからこうゆう時に発散したいんだよ~」

「いや、別にいいんっすけど……」


 バレットは頭をかきながら、前を向いた。

 目の前にはオーロラが何も言わず睨んでおり、それを見て少年は溜め息を吐いた。


「バレット君、決闘のルールを説明しますね」

「あ、ああ、頼んます」


 何故闘技場に来たのか、それはルーティの提案でバレットとオーロラの二人で決闘を行う為である。

 バレットが勝てばグリモワルに残り、逆にオーロラが勝てば彼はグリモワルを去るという条件を付けて。

 アルセリアでは魔法士同士が意見や行動方針等で衝突した時はこうして決闘を行い、自身の意思を通すのだと説明を受けた。

 アルセリアに暮らす市民にとって魔法士同士の決闘は数少ない娯楽の為、学生達が盛り上がるのも無理はない。


「決闘の勝利条件はね~、『相手の武器を落とす』か~、『相手が降参する』か~『相手が気絶する』の~どれかを満たせばいいんだよ~」

「そんだけでいいの?」

「うん~、それじゃあ……」


 ルーティは背筋をピンっと伸ばすと、先程までのゆるふわだった雰囲気が消え去り、剣呑な空気を放ち始めた。


「それではこれより、オーロラ=アイシクルスとバレット=アーキテクトの決闘を始めます。両名、礼!」


 先程までのあのおっとりとした口調が無くなり、気迫のこもった声で闘技場全体に聞こえるほどの声量でルーティが告げると、オーロラは綺麗に四五度体を傾けてお辞儀をし、一瞬、ルーティの迫力に驚いて反応が遅れたバレットも彼女を真似て、お辞儀をした。

 オーロラは背を向けて歩き出し、十メートル程の位置で止まると、もう一度バレットの方を向いた。

 それを見て、バレットも背を向けて歩き出し、同じように十メートル程の位置で止まり、振り向いた。


「構え!」


 オーロラは腰に携えた細剣の柄を取り外して、眼前に掲げ、魔力を流す。

 魔力が流れた柄の表面に青い幾何学模様が浮かび上がり、氷の刃が生まれた。

 バレットも深く溜め息を吐いて、加具土命(カグツチ)をホルスターから抜いて、構える。


(あの魔導回路具(アーティファクト)はなんですの? 構え方からして、短剣の様に近接戦用の武器というより、弓など遠距離武器かしら)


 見たこともない武器にオーロラは今まで培った経験を基にその性能を分析する。


「それでは……」


 ルーティはゆっくりと、右手を高々と上げる。


「――始め!」


 腕を振り下ろしながら、開始の号令を上げる。

 直後、先に動いたのはオーロラだった。

 彼女はその場で舞うように一回転すると、細剣を天高く掲げる。

 するとオーロラの足元に青い魔法陣が発生し、彼女の周囲が氷河になり、目の前に六つの花弁で作られた氷の花が浮遊し、その背後に氷の槍が無数に生成されていく。

 その光景を見て、生徒達や最上段で見ていた教師達から感嘆の声が上がる。


(あの武器が例えどんな性能を持っていようと、『氷結界』の防御力なら防げます。それにこの量の『雹よ、(ヘイル・)全てを穿つ嵐となれ(ランス・スートム)』を魔法もなしに防げるはずが――)


 オーロラがバレットの加具土命(カグツチ)を警戒しながらも、魔法による物量で一気に押しつぶそうとしたが、


 バギャンッ。


 突如、オーロラの細剣の柄と氷の刃の接合部分が砕け散り、強烈な衝撃で彼女の手から柄が弾き飛ばされた。

 柄は弧を描きながら地面に落ちた。


「えっ……?」

「「「「えっ……?」」」」


 あまりに突然の事に、オーロラだけでなく、観客席で騒いでいた観衆も静まり返り、驚きの声を上げた。

 バレットは加具土命(カグツチ)を構えた姿勢のまま、その場から一歩も動いておらず、銃口から硝煙が昇っていた。

 ルーティだけは平然としており、静かに頷くと右手を勢いよく上げる。


「そこまで、勝者、バレット=アーキテクト!」


 ルーティが高らかに勝利宣言をする。

 ただ、あまりにも早くあっけない幕引きに、歓声などは上がらず、ただ一人、アリスだけが兄の勝利に拍手を送っていた。

 

「いや~、剣を上に持ち上げてくれて助かった。あのまま顔のとこにあったら、撃てなかった」


 バレットはあっけらかんとした態度でそう言うと、加具土命(カグツチ)を回転させながらホルスターにしまった。

 何が起きたか今だ理解が及んでいないオーロラはただ、呆然と立ち尽くし、上げていた右手を下ろしてその手を見つめた。


「私が……負けた……魔法を使えないような方に……」


 震える声で自身の敗北を確認するようにつぶやくと、彼女は膝をつき、目の前にいる自分を負かした少年を見た。

 彼は何事もなかったかのように平然とした様子で自分を見ていた。


「……ッ!」


 オーロラは少年の背後にある観客席の最上段の通路にいる人物に目がいった。

 そこにいたのはヴァイスとユリアだった。

 ヴァイスは険しい表情でこちらを見つめ、ユリアは興味深そうにバレットの事を見ていた。

 

(お父様……)


 ヴァイスはいつもの無表情に戻ると、身を翻し、近くの通路に消えた。

 それを追って、ユリアも歩き出す。

 彼女は去り際に優しく微笑むと、軽く手を振っていった。

 その光景を見て、絶望感で胸がいっぱいになり、俯いてしまった。

 オーロラの行動が理解できず、首を傾げたバレットは彼女を慰めようと歩み寄ろうとした。


「ハ~イ、止まってね~、バレットく~ん」


 いつの間にか自分の背後に回り込んでいたルーティに着ていたジャケットの裾を掴まれ、尻もちをつきそうになったがなんとか踏ん張って堪えた。


「うぉうぉおぉっと、危ないな。何すんだよ、ルーちゃん」

「君はいま~、何をしようとしたのかな~?」


 ルーティの質問にバレットは訳が分からないという顔になる。


「何って、落ち込んでるから慰めてやろうかと……」


 それを聞いて、ルーティは顔を顰め、やれやれと溜め息を吐いた。


「君がそれをやると~、慰めるどころか~、止めをさすことになるから~やめましょうね~」

「わ、分かった」

「その役目は彼等がするから~、君は先に教室に戻っててね~」


 ルーティがオーロラの方に目をやりながら言うと、バレットも釣られて彼女を見る。

 そこには彼女の元に駆け寄る三人組の男女がいた。

 三人はオーロラに近寄ると、しゃがんで、彼女の顔を覗き込んで声をかけていた。


「……分かりました」


 バレットも納得して、フィールドの入場口に向かって歩き出した。

 ルーティはそれを見送ると、オーロラの元に向かった。

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