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第十九話 双子、クラスメイトと打ち解けます?

 ルーティに案内されること数分、三人は一つの教室の入り口の前で止まった。

 教室の中から少年少女の話し声が聞こえてくる。


「じゃあ、私が呼んだら入ってくださいね」


 そう言い残し、ルーティだけが先に教室に入った。


『ハ~イ、み~んな~。おはようございま~す』

『『おはようございます』』

『アレ~、なんでルーティ先生が?』

『すこ~し事情があってね~、今日からコット先生から私に変わったの~』


 中から教師と生徒の他愛ない話が聞こえてきた。


『さて、本日の連絡事項ですが、今日からこのクラスに新しい仲間が増えま~す。しかも二人も~!』


 ルーティの言葉に生徒達がざわつきだす。


『それじゃあ、二人とも入ってきて~』


 ルーティに呼ばれ、双子は教室の中に入った。

 教室内部は階段教室になっており、二人並んで学べるように木製の長机が設置され、それが三列、一列に四席置かれていた。

 一部の机の側面には長剣や短剣がぶら下げられていた。

 最上段には大剣や弓等、机の側面に吊り下げられない生徒の武器が置かれた棚があった。

 教室にいる全員の視線を受けながら、双子はルーティのもとまで歩む。


(転校とかしたことないから分かんなかったが、これは妙に緊張するな)


 内心で緊張するも顔に出さないように平静を取り繕うバレットと、その隣で緊張で表情を強張らせるアリス。


「ハ~イ、皆さん。この二人が皆さんの新しい仲間のバレット=アーキテクト君とアリス=アーキテクトさんで~す」


 ルーティに紹介された双子は同時に頭を下げた。


「あの娘、可愛いね」

「だな。でも白い髪だけど、どの元素を使うんだろ?」

「なかなかの色男ですが、黒い髪?」

「フォミリーネームが同じということは兄妹なのかしら?」


 生徒達の反応は様々、全員が双子に興味津々だった。

 クラス中が双子の事で沸き立つ中、最上段の席に座っていた女生徒が手を上げた。


「ん~、どしたの~。オーロラさん」


 名を呼ばれたオーロラは立ち上がった。

 彼女は今、普段着ではなく、学院の制服を着ていた。

 ただ、アリスとは違い、スカートの部分が髪と同じ色をしていた。

 アリスは彼女の顔を見て、ハッとした。


「兄さん、あの娘……」

「ん、誰だっけ?」

「ほら、学院に初めて来た時にいた」

「ああ、あの娘か」


 アリスに耳打ちで言われ、バレットもようやく、オーロラの事に気づいた。


「何故、この時期に入学を? 試験なしで何故入学が認められたのですか?」

「二人はね~、推薦で入学を認められたんですよ~」

「推薦? 誰のですか?」

「四元師全員だよ~」

「お父様とユリア様が!?」


 予想外の回答にオーロラは驚きの声を上げる。

 彼女だけでなく、周りの生徒達も驚愕し、ざわつきだした。

 推薦はそうやすやすと受けれるものではない。

 王宮魔法士が時折、元素開眼の儀の際、貴族や平民の中でも素質があると思った者に与えることはあるが、それでもその割合は数十年に一人いるかいないかである。

 ましてや、全魔法士のトップともいえる四元師全員が推薦を与えるなど前代未聞事態である。


「そ、それは本当に何ですか!?」


 机から身を乗り出したオーロラが食い気味に聞くと、ルーティは「うん、ホントだよ~」っと屈託のない笑顔で答えた。


「二人はちょっ~~~~と特殊な環境で育ったので~、まだアルセリアの法律や学院のルールに疎いから、皆さんでフォローしてあげてね~」


 ルーティの言葉に、クラス全員が驚きのあまり口を開けたまま頷くのを見て、彼女も頷く。


「じゃあ、これ以上時間をとってもしょうがないので~、このへんでお開きにしま~す。バレット君とアリスさんの席は最上段の窓際だからそこに座ってね~。オーロラさんも座ってくださいね~」

「「「分かりました」」」


 三人が返事をし、オーロラは自分の席に座り、双子も自分達の席に向かった。


「あ、二人とも~、腰の武器は机の横のフックに引っ掛けてね~」


 ルーティに言われ、何も言わず、双子は腰に付けていた武器を机の速目に取り付けられいたフックに吊り下げてから窓側にアリスが教室側にバレットが座った。


「は~い、じゃあ、今日の連絡事項は~このくらいにして~、出席取るよ~。呼ばれたら、元気に返事してね~」


 ルーティは教壇に置かれていた名簿を開いて、出席を取り始めた。

 そんな中、オーロラは双子の事を睨みつけるように見つめていた。


 出席を取り終わり、一限目が始まるまでの間の小休憩。

 生徒全員が仲のいいメンバーと話をしながら、双子のほうをちらちらと何度も視線を向けていたが、誰一人として声をかけようとはしなかった。


「警戒されてますね……」

「だな……」


 周りの反応に双子は苦笑しながら眺めていると、オーロラが歩み寄ってきた。


「少しよろしいかしら?」


 声を掛けられ、双子は彼女に視線を向けた。


「何……え~っと、オーロラさんだっけ?」

「ええ、初めまして……と言うべきなのかしら?」


 険しい顔で自分達を見つめてくるオーロラに、双子は不思議そうな顔をしていた。


「貴方達は一体、何の元素を使うのかしら?」

「ん、コイツは光の魔法を使えるけど、俺は魔法を使えないぞ」


 バレットの言葉にオーロラだけでなく、周りで聞き耳を立てていた者達まで驚愕した。


「あ……貴方ふざけてるの!? 光の魔法?! あんなモノおとぎ話の中だけでの事で、存在するはずがないでしょ!? それに魔法が使えない?! 冗談もほどほどにしてもらえませんこと!?」


 オーロラは机を強く叩きながら、凄まじい剣幕で詰め寄ってきた。


「冗談じゃないし、本当だっての。なぁ、アリス」

「ハイ」

「では、証明してくださいませんこと?」


 オーロラの要求に双子は右手を自身の顔の高さまで上げ、魔力を流した。

 いつものようにバレットには何の反応もなかったが、アリスの右手には白い光球が生まれた。

 眩い光を見て、全員が大口を開けて、驚きで呆然とした。


「な、嘘じゃなかっただろ?」

「え……ええ、ごめんなさい。疑ってしまって」


 自分の非を素直に詫びるオーロラを見て、悪い娘ではないというのを理解する双子。


「――アリスさんでしたか、光の力を持っているとは感服いたしましたわ」

「ありがとうございます」

「ですが、バレットさん。貴方の事は見過ごせません」


 オーロラはバレットを睨みながら、彼を指差した。


「いくら、お父様やユリア様。『四元師』の推薦があるとはいえ、魔法も使えませんのによくグリモワルに入学しようなどと思いましたわね!」

「……なぁ、質問いいか?」

「フッ、悩める平民に答えるのも貴族の務め、何かしら?」

「『四元師』って、なんなんだ?」


 バレットの爆弾発言に周りで聞いていた生徒が驚愕の叫び声を上げ、オーロラは頬を引きつらせていた。


「あ……あ……貴方は今なんと言いまして!? 四元師を知らないなんて!!」

「ああ~、まったく教えられてなかったんでな~。なぁ、アリス」

「え……うん、教えてもらってなかったですね……」


 兄の傍若無人ぶりに額から汗を流して顔をそらすアリス。

 目の前にいるあまりに常識外れした男の態度に体を小さく振るわせて、腹の底から溢れかえりそうな怒りを必死に抑え込むオーロラ。


「…………いいでしょう、教えてあげますわ。四元師とは『火』『水』『風』『土』の四元素の魔法を極めた魔法士に贈られる最高位の称号ですわ」


 オーロラは気を取り直し胸を張って、説明を始めた。

 

 四元師。

 それはアルセリア王国国王から贈られる魔法士最高位の称号。

 強大な魔力を持ち、元素の力を自在に操り、数百の魔法を巧みに発動させれる存在。

 称号だけでなく、その名に自らが極めた元素と同じ色の宝石の名も与えられる。

 その地位と権限はどの貴族よりも高く国王に並ぶほどである。

 一つの元素に対して一人、計四人のみが四元師になることを許される。

 四元師の称号とは魔法士にとって最上の名誉なのである。

 魔法士にとって、常識ともいえることを理解していないバレットに対して、オーロラは怒りを覚えずにはいられなかった。


「――というわけですわ。お分かり頂けまして?」

「んぁぁ、まぁ、なんとなく分かったよ」


 気の抜けた返事をするバレットに対して、オーロラの額にビキビキっと青筋が浮かび上がる。


(やっぱ、クリアってスゲェ魔法士だったんだな)

(予想はしてましたが、まさか、最高位の魔法士だったなんて……)

「何をこそこそ話してらっしゃるの?」

「「いや、何でもないよ」」


 双子の行動に首を傾げるオーロラ。


「んじゃあ、あの学院長の()()()()も四元師なのか」

「お……おっさん……」


 バレットの無作法な物言いを聞いたオーロラの目元に陰が生まれる。

 その光景に周りの生徒達が青ざめ、その様子を見て、アリスも何かを察し、顔に手を当てて、頭を振った。


「ん、どうした。アリス?」


 ただ一人空気が悪くなっていることに気付いていないバレットが不思議そうな顔で首を傾げると、


 ブチッ。


 何かが引き千切れるような音が響いた。


「ん、今の何の音だ?」


 呑気な声でバレットが音の聞こえたほうを見ると、体を震わせ俯いてぶつぶつと小声で何かを呟くオーロラしかいない。


「魔法は使えない……あげくお父様をおっさん呼ばわり……」

「おい、どした?」


 バレットが声をかけると、オーロラは勢いよく顔を上げ、目の前の少年を氷柱のような鋭利な眼差しで睨みつける。


「貴方は一体何なの! 魔法が使えないのにグリモワルに入学する! 四元師の事を何も知らない! 挙句の果てには四元師の一人を……私のお父様を『おっさん』呼ばわりだなんて、無礼極まりません!!」


 怒りに身を任せ早口でまくし立てるオーロラに対して、何で怒っているのか訳が分からないと言わんばかりの顔をするバレット。


「何怒ってんだ、お前?」

「怒りたくもなりますわ! 貴方のような非常識極まりない魔法士は初めて見ましたわ! いいえ、貴方に魔法士を名乗る資格もグリモワルにいる資格もありませんわ! 即刻、このグリモワルを出て行きなさい!!」

「まぁまぁ、怒ったら美人が台無しだよ~」


 怒り狂うオーロラに場違いな程おっとりとした声でオーロラをなだめようとルーティが歩み寄ってきた。

 

「しかし、ルーティ先生。彼のような者がいては栄光と伝統あるグリモワルの看板に泥を塗ることになります」


 謂れのない不名誉に眉を顰め、唇を尖らせるバレット。


「じゃあ、オーロラさんは~学院長の~四元師の~お父さんの~決定に異を唱えるの~?」

「いえ……そういうわけではありません……」


 四元師である父の事を出され、言い淀んでしまうオーロラ。


「――ですが、私が言っていることも一理あると思いますわ」

「んん~~~~~~~~~、じゃあ、こうしましょう……」


「「?」」


 バレット、アリス、オーロラの三人だけでなく、周りの生徒達も首を傾げ、ルーティだけがにこやかに笑っていた。

 

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