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第一話 双子、異世界転生します

 暖かい温もりを感じた。

 死した身に熱を感じることに疑問を抱いた少年はゆっくりと瞼を開いた。

 眩い光によってほんの一瞬、視界を奪われたが、眼が慣れ徐々に視力が回復し始めた。

 彼の視界に最初に入ったのは雲一つない澄んだ青空と空を覆い隠そうと天高く雄々しく伸びる大木だった。

 その景色を見て不思議に思い首を傾げ、更に周りを確認しようと起き上がろうとした。

 だが起き上がることが出来なかった。

 少年は自分の体を確認する為に視線を落とすと、自らの体が赤子になっていることに気づいた。

 あまりのことに驚愕して目を大きく見開くと、隣で何かが動く気配を感じ、そちらに視線を回した。

 そこにはもう一人赤子がいた。その子も驚いたような顔で自分のことを見ていた。


「あ~、ああ~」


 向こうは必死に何かを伝えたがっているようだが、何を言っているのか解らなかった。

 彼は一度、赤子から視線を外して、見られる範囲で自分達が置かれてる状況を確認した。

 二人は籠の中に入れらており、見える範囲に自分達の親らしき大人はいなかった。


「ギャアギャア!!」


 突如、何かの鳴き声が響き渡り、驚いて二人同時にビクッっと体を震わせた。

 それから少し間をおいて、地響きが聞こえ、その音が徐々に大きくなり、何かが自分達の方に迫っているのが解った。

 やがて、地響きの主が姿を現し、双子は息を飲んだ。


 それは巨大熊だった。

 十メートル前後の体躯、錆鉄色の体毛、背中に無数の剣の刃ようなものが生え、色の濃い紫色の双眸が二人を見下ろし、左目に大きな傷痕があった。


 巨大熊の鼻息が顔に当たる。

 双子の顔は青ざめ、泣くことも忘れ、目の前に現れた怪物に驚愕することしかできなかった。

 逃げることの出来ない赤子の二人には、ただ早く何処かに行ってくれと祈ることしかできなかった。

 しかし、熊は襲うわけでもなく、ただ彼らを見下ろし続けた。


「どうした、何か見つけたのか?」


 突然、人らしき声が聞こえ、熊が振り返った。

 熊が少し左ズレると、背後から一人の女性が現れた。


 身長は一七〇センチメートルほどあり、スリムな体型、北欧系の顔立ち、額の右側から顎の左側にかけて大きな引っ搔き傷があり、背中の中ほどまで届く紅蓮に輝くボサボサの髪、深紅の瞳はまるで鋭利な刃物のように鋭い眼つきをしており、灰の長袖のシャツに紺色の長ズボンと革の靴を穿き、腰にはナイフやポーチなどを付け、背中に燃え盛る炎のように荒々しく隆起した刃が付いた斧を背負っていた。


 彼女は熊の頭を撫で、二人に視線を落とした。

 自分達を見下ろしてくる女性を見て、少年は彼女の左の袖が中程で結ばれているのに気づいた。


(アレ……この人、左腕がない?)


 そんな素朴な疑問にとらわれている少年をよそに、女性は片膝をついた。


「なんで、こんなとこにガキがいるんだ?」


 そうぼやきながら、彼女は何かに気づき、自分達の頭の上に手を伸ばし、何かを拾い上げた。

 それは白い封筒だった。それを開き中身を取り出して読み始めた。

 読み進めるにつれて、女性の顔がどんどん険しくなっていった。


「忌み子ね……まったく、だからってこんな魔獣(ビースト)の巣窟みたいな森に捨てんじゃないわよ!」


 女性は読んでいた紙を握り潰してズボンのポケットに入れると、再度二人を見下ろした。

 ただ双子にはその眼が、何処か遠くを見つめてるかのように見えた。


「これがアタシの罪滅ぼしになるとは思えないけど……」


 ハァっと溜息を吐いて、一息入れた。


「――それでもここで見捨てるわけにもいかないな」


 彼女は立ち上がりながら、二人の入った籠を持ち上げると、持ち手を熊に咥えさせ、踵を返して歩き出すとその後に続くように熊もゆっくりと歩を進めた。


 女性と熊に連れられて、双子は彼女が暮らしているログハウスに連れてこられた。

 建物に至るまでで解ったことは自分達が森の中に捨てられていたとゆうことだけだった。

 二人は現在、テーブルの上に放置状態である。


「少しだけ待ってろ」


 一言だけそう言い残し、彼女は外に飛び出していった。

 放置状態にされ、赤子の姿では何もできないので少年は自分が置かれている状況を整理することにした。


(俺はあの時、エレベーターが落ちて、その衝撃で死んだはず。多分、妹も……いや今は考えないでおこう。とにかく、俺は死んで、そんで気が付いたら、森の中で赤ちゃんになっていた。これって前に妹に借りたラノベにあった異世界転生ってやつか?)


 少年が隣でそんな事を考えている頃、隣にいる少女も自分の状況を整理していた。


(まさか、自分が異世界転生の経験をすることになるとは思いませんでした。でもだとしたら、何故こんなことになったのでしょう? 別に神様に会って力を授かったり、何か使命を言い渡されたわけでもないのですが……う~ん、死ぬ直前のことがよく思い出せません。あの時は本当に何もかもが一瞬だったので……兄さんは大丈夫なのでしょうか)


 少女は隣にいる少年は見た。少年も自分を見ていた。


(もしかして……この方は……)

(もしかして……コイツ……)


 二人はそう思いながら、お互いから目を離さず、自分を拾ってくれた女性が戻ってくるのを待った。


 女性が出かけてから三時間程経っただろうか、そろそろ空腹になってきた頃に、外から言い争うような声が聞こえてきた。


((戻ってきた))


 勢いよく扉が開き、女性が戻ってきた。

 彼女に抱えられてもう一人女性が入ってきた。


 赤い方の女性と同じくらいの身長、グラマラスな体型、世の男たちが一目見ただけで惚れてしそうな美しく整った顔立ち、普通の人とは違い両耳が長く尖っており、まるで純金で作られたかのように光を浴びて輝くブロンドの髪。宝石のような翡翠の瞳は怒っているせいで吊り上がっていた。白い修道服を着ていた為、何処かの教会のシスターであるのが解った。


 赤い方の女性は慣れた手つきでシスターを軽々投げ降ろすと、彼女の方もこの扱いに慣れっこなのか、空中で軽やかに一回転して着地した。


「まったく貴女は行方不明になったと思ったら、突然こんな危険極まりない森に私を拉致して、何を考えているんですか!?」

「だから、悪かったって言ってんだろうが!! アタシじゃどうすればいいか分かんねぇからお前の知恵が借りたいんだよ!!」

「どうして貴女はいつもそうやって一方的なんですか、もっと相手のことを考えて行動できないんですか!?」

「アタシが脳筋なのは認めるが、お前がアタシの話を素直に聞いてくれたことがあったかよ!?」


 シスターは怒気を込めた声で女性に詰め寄り、彼女も同じくらいの声量で言い返していた。

 赤子のことなどお構いなしに、二人の口論は続きそうだった。

 双子は顔を見合わせ、少女の方がウィンクをして「わたしにまかせてください」と伝えた。

 すると少女の方は突如、泣き始めた。正確には泣くマネである。

 少年は一瞬きょとんとしたが、相方の意図を察し、彼も泣きマネをした。

 赤子が泣き出したのに気づき、二人は言い争いを中断して、近寄った。


「この子達は?」

「森の中で拾った」


 彼女の言葉にシスターは頭を抱えた。

「もしかして、私を連れてきたのって……」

「ああ、こいつらの為だ」


 彼女の言葉を聞いた後、シスターは少年の方を抱き上げた。

 その瞬間、彼女はほんの刹那、目を見開いて何かに驚いたが、すぐに素面を装った。

 シスターに抱かれた少年の顔に彼女の豊満な胸が押し当てられた。


(おおおおおお!! これは赤ん坊になるのも悪くないですな~)


 今までに感じたことのない極上の感触に少年は顔が緩みまくっていた。

 籠の中にいる自身の半身である妹に半眼で睨まれているとも知らずに。


「それでこの子達をどうしろと? 『聖煌教会』で預かれと?」

「誰があんな堅物童貞の巣窟に預けるか」


 彼女の発言がとても気に入らなかったのか、シスターは人も殺しそうな眼力で睨みつけた。

 シスターの表情を見て、彼女はおどけた表情をした。


「事実だろ?」


 しばらく睨みつけていたが、シスターは呆れた顔で深く溜め息を吐いた。


「否定はしません。じゃあ、どうするんですか?」

「アタシが育てる。だから……手を貸してくれ。頼む」


 彼女は深く頭を下げた。

 その真摯な態度にシスターは少し考えてから、自分が抱きかかえている赤子を見た。


「……分かりました。協力しましょう」

「ホントか!?」


 シスターの言葉に彼女がバッっと勢いよく顔を上げる。


「貴女一人で育てたら、人の道を外れた子に育ちそうですし」

「なんだと!!」


 彼女の反応にシスターが可笑しそうにクスクスっと笑った。


「それで、この子達の名前は決めてるの?」

「あ? それなら籠に入ってた手紙に書いてあったぞ」


 彼女はズボンに入れていた紙を取り出し、シスターに差し出す。

 少年を籠の中に戻し、手紙を受け取って、内容を確認した。


「――バレットとアリス」


 それが異世界に転生した双子の新しい名前だった。

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