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第十三話 双子、打ち明けます

 アリスが聖剣を手に入れてから、五年が経ち、双子は一五歳になった。

 アリスは聖剣の戦闘模倣を覚えて、自分のモノにしようと努力した。

 そのおかげで最初の頃に比べて、動きは多少マシになり、未来視の能力も合わさり、二人を相手取っても互角とまではいわないが、一方的にやられることはなくなった。

 バレットの方はこの五年で更に突撃銃(アサルトライフル)狙撃銃(スナイパーライフル)短機関銃(サブマシンガン)散弾銃(ショットガン)軽機関銃(ライトマシンガン)等幅広い種類の銃を作った。

 全ての銃が魔銃(ビースト)に効き戦力としては過剰過ぎるほどあるのだが、彼にはどうしても諦められないことがあった。


「クリア、頼みがあるんだけど……」


 その日の夜。リビングのテーブルで何か書いていたクリアにバレットが神妙な面持ちで声をかけ、彼女は執筆を止め、顔を上げてきた。


「なんだ、バレット?」


 クリアも鋭い眼差しになった。

 彼女は少年が何を言おうとしているのか大体想像できていたからだ。

 二人の雰囲気を見て、キッチンで食器を片づけをしていたアリスとティアも固唾を飲んで見守っていた。


「――加具土命(カグツチ)返して」


 ゴン。ゴン。ゴォォォォォォォォォン。

 森に三度バレットの頭(鐘の音)が鳴り響いた。

 外で眠ろうとしていたブーさんがログハウスの方を一瞥して、大あくびをかいた。


グゥゥガァァ(またバレットの)ガウガア~ガ(バカがなんか言って)ゴォォォォガァァァァ(殴られたんだな)


 バレットは三人に頭を殴られ、その場に倒れ伏せていた。


「まったく……いい加減諦めやがれ、このバカ!」


 吐き捨てるように言うと、執筆を再開するクリア。

 バレットは加具土命(カグツチ)を没収されてから毎日とは言わないが、よくクリアに返還を要求しては鐘を鳴らしていた。

 ちなみに没収された物はクリアが肌身離さず持っている為、こっそり持ち出すということも出来なかった。

 バレットは体を震わせながら、ゆっくりと起き上がると、もう一度、真剣な顔でクリアを見る。


「お願いクリア、加具土命(カグツチ)返して……」


 少年の言葉にクリアの手が止まり、眉間にしわを寄せ、頬を引き攣らせる。


「お前は折れないな、アレだけ殴られてんだからいい加減学習しろ!」

「大丈夫、もう肩を外したりしないから」

「信用できるか!」

「信じてよ!」


 二人の言い争いが始まり、アリスとティアは溜め息を吐きながら肩をすくめると、濡れた手を拭くと、二人のもとに歩み寄った。


「ねぇ、クリア。バレットには何か考えがあるんじゃないかしら。だから、返してあげたら?」


 ティアがバレットの肩に手を置きながら優しく穏やかな声で諭す。


「そうですよね、バレット?」


 ティアがバレットの顔を覗き込みながら聞くと、少年はうんっと頷いた。


「クリア、兄さんを信じてください。確かに兄さんは一つのことに夢中になると周りが見えなくなって、迷惑をかけても気づかないダメダメな人ですが……」

「お前、さりげなく自分の兄を悪く言うな」


 アリスのストレートな兄への罵倒にクリアは若干引いていた。


「――ですが、一度ダメだったことは反省して、忘れず何がダメだったか改善出来る人です!」


 少女の真っ直ぐな瞳と真摯な言葉に、クリアは持っていたペンを置いて、頭を掻いた。


「……分かった」

「よしっ!」

「ただし、条件がある」

「大丈夫、肩が外れないようにする為の対策はもう準備できてるから!」


 バレットの言葉にクリアは訝しげな視線を送る。


「本当か?」

「うん、なら、明日証明してやるよ!」

「……分かった。じゃあ、明日それをやって見せろ、出来たら、加具土命(カグツチ)は返してやる」

「ヨッシャ! 約束だからね、忘れんなよ!」


 バレットはそう言い残すと、玄関に向かって走った。


「おい、何処行くんだ?」

「明日の為にガレージで最終調整!」


 少年は止まらず外に出ていくと、ガレージに向かった。


「まったく……あの情熱だけはいっちょ前だな」


 彼の行動力に呆れた表情になるが何処か楽しそうなクリアとそんな彼女の顔を見て、嬉しそうに笑うアリスとティアだった。


 翌朝、裏庭に全員が集まって、事の成り行きを見守っていた

 バレットは魔獣(ビースト)の革と魔硬粘土(エーテル・クレイ)で作った黒いプロテクターを手の甲から前腕を覆うように両腕に着けていた。


「それが言ってた対策ってやつか?」


 クリアがプロテクターを指差した。

 頷いて答え、バレットはプロテクターが腕にちゃんと固定出来てるかを確認すると、無言でクリアに右手を差し出した。

 彼女も黙って腰に差していた加具土命(カグツチ)を少年に渡した。

 受け取った加具土命(カグツチ)を折って、シリンダーに弾を込めると元の状態に戻し、両手で構えると同時に魔力を加具土命(カグツチ)とプロテクターの両方に同時に流した。

 プロテクターの表面に赤い幾何学模様が浮かび上がった。

 全ての準備を整え、バレットはついに引き金を引いた。

 銃声と共に弾頭が射出され、的が描かれた不倒樹の幹を抉った。

 射撃を行ったバレットは加具土命(カグツチ)()()()()()()姿()()()()()()()()

 その様子を見て、彼の肩が外れていないことを確信し、三人は安心したように息を吐いた。

 そのまま右手だけで構えて射撃を行う。それでも肩は外れることはなかった。

 バレットは三人の方を向いて、空いている左手でサムズアップをした。

 三人も少年に対して、拍手を送った。


「おめでとうございます、兄さん」


 アリスが駆け寄って、祝福する。


「ありがとう、アリス」

「でも、どうやってあの強烈な反動を?」

「それはな、このプロテクターに筋力強化と衝撃吸収、二つの魔導回路(ルーン)を刻んであるからだ」


 バレットは自分の腕に身に着けているプロテクターを指さしながら説明をする。

 彼が付けているプロテクターには先に説明した通り二つのルーンが組まれている。

 手の甲の部分に銃の反動による衝撃が腕や肩に伝わらないように衝撃を吸収し大気中に分散させる魔導回路(ルーン)を。

 前腕の部分に筋力を強化する魔導回路(ルーン)を刻んである。

 加具土命(カグツチ)だけを扱うだけなら衝撃吸収の魔導回路(ルーン)だけでよかったのだが、()()()()()()()()()()()()がゆえに取り回しが悪くなってしまった対物(アンチ・マテリアル)狙撃銃(ライフル)を扱えるようにする為である。


「で、クリア。約束通り、肩を外さずに加具土命(カグツチ)を撃てたけど、まだ文句ある?」


 バレットがクリアに訊ねると、彼女は溜め息を吐きながら肩をすくめた。


「ああ、分かった分かった。もういい、好きにしろ……ったく」


 クリアの言葉に双子は喜び、ハイタッチをした。


「よかったですね、バレット……」


 ティアがバレットに歩み寄ってきた。


「おめでとうございます」


 そして、そのまま彼の頭を優しくなでようとするのだが、バレットはその手を振り払った。


「やめてよ、ティア。俺もうそんな歳じゃないんだから!」

「フフッ、私からすればいつまでも小さな子供ですよ」


 嫌がるバレットに対して、素知らぬ顔で頭を撫でることを強行しようとするティア。

 そんな二人を見て、クリアはやれやれと溜め息を吐いた。


「その辺にしとけ、ティア。それより、二人共、お前らに色々と話があるからちょっと来い」


 クリアの言葉に双子は顔を見合わせて首を傾げると、彼女の後を追った。


 四人はリビングのソファに向かい合って座っていた。

 クリアの隣にティアが座り、バレットの隣にアリスが座っていた。

 何を話すのか分からず、不思議そうな顔をした双子に対して、二人は真剣な顔つきをしていた。


「それで二人の話って何?」

「まぁ、率直に言うとだな……二人共、この森を出ていく気はないか?」

「「え?」」


 クリアの言葉に双子は目を丸くして驚いた。

 彼女の隣でティアが額に人差し指を当てて、顔を顰めていた。


「クリア、その言い方では『とっとと出ていけ』と言ってるのと変わりませんよ」

「ん、そうか?」

「ハァ、まったくもう……私が説明いたします」


 相方の説明下手に頭を抱えるティア。


「えっとですね……二人共、アルセリアにある魔法魔導学院『グリモワル』に通う気はありませんか?」

「「あ~、そうゆうことですか」」


 双子が納得して、声をそろえて頷く。

 

「でも、何故、急に?」

「そうだよ、それに魔法なら二人が教えてくれるだろ?」

「確かにそうですが、学院はなにも魔法だけを教えているわけでは、算術や礼儀作法や歴史等の貴方達が知らないこの世界のことがたくさん学べますよ」


 双子の疑問にティアが丁寧に答えた。


「――私達だけではなく、たくさんの人々やたくさんの物に触れることで見分を広げてほしいんです。それに、『グリモワル』は私達も通っていたんですよ」


 ティアの説明を聞いて、双子は顔を見合わせ、しばらく見つめあうと大きく頷き合い、二人のほうを向いた。


「分かった。行ってみるよ」

「お二人の通っていた学院ならなおさら、行ってみたいです」


 双子の言葉を聞いて安心したように笑うと、クリアはそっと白い封筒をテーブルの上に置いた。


「この手紙を学院長の生真面目冷血仮面に渡せ、アタシ等からの推薦状って言えば、あの野郎も文句は言わんだろう」

「生真面目冷血仮面?」


 クリアの言葉に双子は首を傾げ、隣に座るティア顔を顰めて深く溜め息を吐く。


「『ヴァイス=サファイア=アイシクルス』。十年前に会ったあの男の人です。憶えていますね」

「「ああ、あの人のことか」」

「彼なら二人のことも知っていますし、ある程度、融通や助力をしてくれると思いますので、アルセリアに着いたら、まず彼を尋ねるといいでしょう」

「「分かりました」」


 双子の元気な返事に、ティアは頷いた後、クリアと目を合わせた。


「それじゃあ、話の一つはこれでおしまい。次の話で……こっちのが重要なんだが……」


 突然、神妙な面持ちで自分たちを見てくる二人に双子は心配そうな顔になった。


「なぁ……お前等、()()()()()()()()()()()()()?」


 クリアの質問の意味を理解出ず、双子は同時に首を傾げる。


「何処からやってきた……って言われても、俺達にも分からないよ。俺達は森の中でクリアに――」

「そうゆうことじゃない、そうだな、聞き方を変えよう。お前等はどうやって()()()()()()()()()()()()?」


 クリアの言葉に、彼女が何を言いたいのかを理解した双子は顔を顰めて、見つめ合った。


「ちなみに嘘をついても無駄だぞ。特にバレット。お前は作ったモノがモノだ。異世界の技術を使った道具を作っちまったんだから」


 クリアの言葉にアリスは兄を半目で睨み、バレットも気まずそうに目を背けると、観念したように溜め息を吐いた。


「分かった……話すよ……」


 双子は腹をくくって、二人に話すことにした。

 自分達がこちらの世界の人間でないこと、元の世界から双子だったこと、一八歳で死んだこと。

 全てを包み隠さず話した。

 話を聞いたクリアはあまり驚いた様子を見せておらず、ティアはすすり泣いていた。


「辛かったでしょう……そんな若さで死ぬなんて……」


 どうやらティアは双子が死んだ時のことを聞いて涙を流しているようだった。


「まぁ、死んだのは確かに悲しかったし怖かったけど、死んだ瞬間の時なんて一瞬だったし、それに……」


 バレットはアリスの頭に手を置いた。


「――(コイツ)がいたので、寂しくはなかったです」


 笑顔でそう言うと、アリスも嬉しそうに微笑んだ。

 双子の話を黙って聞いていたクリアが、合点がいったのか何度か頷いていた。


「なるほどな、やっぱり二人は『界漂者(フォーリナー)』だったんだな」

「「ふぉーりなー?」」


 双子は首を傾げた。


「……この世界にやって来る異世界人の事です。ある日、偶然発生した時空の歪みに落ちてやって来る者もいれば、死したのち記憶と知識を持ってこちらにやって来る者もいます。我々はそんな人々を異界から漂流する者『界漂者(フォーリナー)』と呼んでいます」


 流していた涙を拭って、ティアが二人に説明した。


「俺等以外にも異世界から来る人がいるの?」

「頻繁に現れるわけではないです。百年に一人現れればいい程度です。界漂者(フォーリナー)は時にこの世界の技術力を向上させることもあれば、時にこの世界の危機を救ったりし、時に何もせずこちらでの人生を謳歌してる方もいます」


 ティアの説明に双子は目を丸くして、驚いていた。

 

「なんだ、異世界人って意外といるんだ~。黙ってて損した気分だな~」

「まぁ、アルセリアに行ったら、さすがに黙っておいたほうがいいぞ。アタシ等は別に気にしないが、界漂者(フォーリナー)は万人に受けいられてるわけじゃないからな」


クリアに釘を刺され、双子は頷いた。


「でも、そうなると学院に行った時、銃の事どうやって説明しよう……」

ヴァイス(クソ野郎)への手紙にはお前等が界漂者(フォーリナー)であることは書いといたが他の奴らへの説明か……」


 銃がなければ魔法の使えないバレットの戦闘力は民間人並みになってしまう。

 だが、公に銃を使えば自分が界漂者(フォーリナー)であることを露呈することになる。


「兄さん、自分達を育ててくれた人が界漂者(フォーリナー)で、その人から銃の作り方を教わったって言えばいいんじゃないですか?」

「「なるほど、その手があったか」」


 アリスの提案にバレットとクリアが同時に声を上げた。


「じゃあ、『アレ』もそう説明しよう」

「『アレ』? ああ、魔法が使えないことか」

「あ、いや、そうじゃなくてね……ちょっと……」

「今度は何を作った……」

「えっと……見せたほうが早いな、来て……」


 バレットは立ち上がりながら言うと、三人も立ち上がって、リビングを後にした。


 少年に連れてこられた三人はガレージの西側に立っていた。

 ガレージの西側だけは不倒樹ではなく、魔硬粘土(エーテル・クレイ)で作られたシャッターになっており、内部から開閉できるようになっている。

 バレットだけが中に入っており、時々、何か大きな金属を動かすような騒音が響いてきた。


「中で何してんだ?」

「知らない」


 クリアの疑問にアリスが答えた。

 しばらくしてシャッターが開き、中からバレットが物を押しながら出てきた。

 彼が押しているのはアメリカンタイプのバイクだった。

 銃と同じ様に魔硬粘土で作られたメタルブラックカラーの車体。

 二人乗りができるようにリアシートが備え付けられ、後輪の両側に黒い革製のサイドバッグが取り付けられていた。


「なんだそれ? それも異世界の道具なのか?」


 生まれて初めて見るバイクにクリアだけでなく、ティアも訝しげな視線を向けていた。


「私達の世界の乗り物で『バイク』と呼びます。ガソリンという燃料を使って動きますが……ガソリンなんてこの森にあったんですか?」


 二人に対してアリスが説明し、兄に燃料の有無を尋ねた。


「これは俺の魔力でエンジンが動くように魔導回路(ルーン)を刻んである」


 バレットはハンドルの真ん中に設置されたシリンダキーに挿しこまれていた剣の形をした鍵を捻って、左のグリップを握りながら魔力を流し、エンジンスタートボタンを押し、エンジンが駆動した。

 景気よくアクセルを一気に回すと、マフラーから排気熱と共にけたたましい爆音が辺りに轟いた。

 あまりの大音量に三人は耳を塞いだ。


「……なんだ、銃といい、このバイクといい、デカい音出すもんが多いが、お前等の世界の奴らは難聴な奴しかいないのか?」

「そういうわけではないんですが……」


 クリアの苦言に対して、アリスが苦笑して否定する。


「おい、うるさい! 乗り物を作ったのは分かったからやめろ!!」

「いや~、この音……もう二度と聞けないと思ってたから最高だね!!」


 バイクの排気音と高揚感によってクリアの叫び声は、バレットには届かず、彼はアクセルを再度回して、爆音を鳴らした。

 バレットは完全にバイクの奏でる騒音に酔いしれていた。

 いつまでも轟音をとどろかせる少年に対して、クリアの堪忍袋の緒が切れそうになった時だった。


「グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 それより先に我慢の限界突破をしたブーさんがバレットの耳元で生物の声帯では到底出せないような咆哮を上げた。

 その声によって脳を揺らされた少年は白目を剥いて気絶した。

 満足したようにブーさんは鼻を鳴らした。


「……自業自得だな」


 クリアの呟きに二人と一匹も頷いて同意した。

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