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第九話 バレットの作って、作って、ぶっ放そう!(魔導回路具・中編)

 数時間後、ログハウス・裏庭。


「てぃあ、はやくかえってこないかな~」


 いつもの切り株に座って、天を仰ぎながら、バレットが呟いた。


「昼前には帰ってくるって言ったんだろ? だったら、それを信じて待ってろ」


 隣に座ったクリアが、アリスの魔法の修行を見守りながら、答えた。

 アリスは半球状の光のシールドを展開し、シールド目掛けて、ブーさんが巨木の様な両腕を叩きつけて攻撃していた。

 これはアリスの守護魔法がどれほどの耐久力と持続性があるかを確かめる為の修行である。


「まぁ、てぃあはくりあみたいにいいかげんじゃないから、そこらへんはくりあよりしんようしてるよ」


 ゴォォォォォォン。


 森に鐘を鳴らしたような重い音が鳴り響いた。

 バレットは切り株の上で倒れ伏せ、頭部から煙を上げていた。


「ったく……このクソガキは一言多い……」


 クリアが小さく悪態をつくとほぼ同時に、アリスのシールドにヒビが入った。


「ブー、もういい、やめろ!」


 クリアの叫び声に反応し、ブーさんは攻撃をやめた。

 それに合わせ、アリスもシールドを解いた。彼女は疲労で膝に手をついて息切れを起こし、体中から多量の汗を流していた。

 アリスを心配してブーさんが顔を近づけると、彼女はブーさんの頭をゆっくり撫でて、大丈夫だと伝える。


「アリス、しばらく休憩だ。休んでいいぞ」


 アリスは何も言わず頷き、クリアとバレットのもとまでヨタヨタと歩み寄ると地面に座り込んだ。

 ブーさんもその後ろに付いて行くと三人の近くに座り込んだ。


「だ……だいじょうぶ……ありす?」


 クリアに殴られたダメージがまだ回復していないバレットが弱々しい声で聴くが、アリスも疲れ果てている為、右手を上げて答えることしかできなかった。

 クリアは何も言わず、傍らに置いておいた水筒を開けて少女に渡すと、彼女は何も言わず、勢いよく仰いで飲み始めた。


(バレットの魔力量に驚かされてばかりだが、アリスの魔法の適性能力と成長速度にも驚かされるな……まぁ、それ以外は普通の子供と変わらないし、このまま何事もなく元気に育ってほしいもんだな……)


 クリアは双子の日々の成長に微笑ましそうに口元を緩めた。

 それに気付き、口に触れ、心の中で「こうゆうのガラじゃないと思ってたんだけどな~」っと自嘲気味に笑った。

 その時だった。

 ログハウスの周囲に展開している結界の中に何かが二つ侵入してくる気配をクリアは察知し、ログハウス正面の方に視線を向けた。

 ブーさんも嗅ぎなれない匂いを嗅ぎつけたのか、同じ方向を見つめていた。


(気配が二つ? 一つは朝に出かけたティアだと思うが……もう一つは誰だ?)


 クリアは立ち上がりながら、カタストロフを肩に担ぐ。


「く、くりあ……どうしたの?」


 突然のことに、双子は驚いていた。


「お前等、ここにいろ! 絶対にこっちに来るなよ! バレット、来たら、魔増爆砂(エスーテル・パウダー)を使用禁止にするからな!」

「りょうかい!」


 クリアの念押しに瞬時に反応したバレットは敬礼して返事をし、それを確認すると、彼女は駆け出して、ログハウスの正面に向かった。

 ログハウスの正面に辿り着くと、そこには案の定ティアが立っていた。彼女は背に本がたくさん入った麻袋を背負っていた。

 その姿を確認して、クリアは安堵の息を漏らしたが、その後ろにいる人物の顔を見て、不機嫌そうに顔を歪めた。


「おい、ティア……なんでここに生真面目冷血仮面がいる」


 クリアが訊ねると、ティアは苦虫を噛み潰したように気まずそうな顔をした。

 ティアの後ろにはヴァイスが立っていた。彼もクリアの顔を見て、機嫌が悪そうに顔を顰めていた。


「それはこちらの台詞だ、『メルト=ルビー=スカーレッド』。まったく……十年前に行方不明になった時は何処へ行ったのかと思ったが、まさか、魔獣の庭園(こんなところ)にいるとはな……」

「うるせぇ、テメェには関係ねぇだろ! あと、私をその名で呼ぶんじゃねぇ!!」


 会いたくもない人物、呼ばれたくもない名前を呼ばれ、クリアの機嫌は最高潮で悪くになり、大声で怒鳴り散らす。

 普通の人間ならその声量を聞いただけで、怖気づいて尻込みするのだが、ティアもヴァイスもまったく動じてる様子はなかった。


「いいか、ヴァイス。『メルト=ルビー=スカーレッド』は十年前に死んだ! ここにいるのは十年前に全てを失った『何もないただの人(クリア)』だ!!」

「お前がそう思っても、世間はそう思わんぞ」


 クリアの態度など意にも介さず、ヴァイスは淡々とした口調で続ける。


「お前は『四元師』の一人……アルセリア王国魔法士の代表的な存在なんだぞ。そんな人間がこんな森の奥で何をしている」

「お前には関係ない……」

「いつまで過去を引きづっている気だ……アレはお前だけの責任じゃないだろ」

「お前に何が分かる……」

「子供のようにいじけてないで早く戻ってこい、でなければ――死んだ『ミア』が浮かばれんぞ」

「――ッ!!」


 「ミア」という言葉にクリアは反応し、怒りに満ちたその眼を見開き、カタストロフを持つ右手に力を籠めると、その姿が一瞬消え、瞬時にヴァイスの目前まで距離を詰め、彼に向かってカタストロフを振り下ろし、周囲に砂塵が舞い上がった。

 一拍間をおいて砂塵からヴァイスが飛び出してくる。彼は背負っていた青い槍――「コキュートス」を構える。

 遅れてクリアも飛び出し、もう一度、彼を両断しようとその凶刃を叩きつける。

 ヴァイスは避けようとせず、コキュートスでその攻撃を受け止めた。

 彼女の膂力のみの一撃で二人を中心にクレーターが生まれた。

 ヴァイスの顔が苦痛に歪み、額から汗が一気に溢れた。


「まったく……相変わらずの馬鹿力が!」


 ヴァイスは苦しそうな声で悪態をつくと、足元に自身の髪の色と同じ、青い魔法陣を展開する。

 すると、彼の背後に二メートル程の氷柱が四つを生み出した。

 それを確認したクリアも足元に紅い魔法陣を展開し、同じ大きさの炎の槍を四つ生み出した。

 氷柱はクリアの体を貫こうと射出され、炎の槍がそれを迎撃する。

 ヴァイスは受け止めたカタストロフの刃を受け流すと、距離を取る為後方に飛んだ。


「お前に何が分かる……お前に……何が……」


 距離を詰めずにカタストロフを肩に担ぎながら、クリアは静かに憤怒のこもった声で言う。


「――あの時、国防力低下を防ぐ為って言ってアルセリアに残ったお前に……あの悪夢(じごく)を何も知らないお前に……目の前で親友が……ミアが死ぬ瞬間を目の当たりにしたアタシの……俺の……俺の何が分かるってんだああああああああああああああ!!!!!」


 クリアは絶叫を上げながら、カタストロフを天高く振り上げると、そのまま力任せに地面に叩きつける。

 それと同時に魔法陣を展開する。その大きさは広大な魔獣の(ザ・ビースト・)庭園(ガーデン)全体を飲み込むほど巨大だった。


≪我声に応えよ、炎の精霊よ! 有象無象を焼き尽くす煉獄の炎をここにもたらせ……≫


 クリアの詠唱を聞いたティアとヴァイスは驚愕で目を見開く。

 二人はよく知っている。今使おうとしている魔法はクリアが出せる最大火力にして、最強の必殺魔法だから。

 ヴァイスは慌てて、槍を地面に突き立て、右手をクリアに向けて掲げる。

 クリアが出した魔法陣ほどではないが、彼の足元にも常人では生み出すこともできないほど巨大な魔法陣が展開する。


≪我声に応えよ、氷の精霊よ! 総てを凍りつかせる絶対零度をここにもたらせ……≫


 ヴァイスも今出せる、最大の魔法の詠唱を行う。


≪一切の慈悲もなく、一切の躊躇もなく、森羅万象全てを灰と化せ……≫

≪時を停め、空間は固め、生命全てをその永遠の氷牢に閉じ込めよ……≫


 二人の詠唱が進むにつれ、魔法陣の輝きが増していく。


≪如何なる生命の生存も許さぬ大いなる業炎! 【生命よ、灰(アッシュ・トゥ)――】≫


 ヴァイスの詠唱が終わるより先に、クリアの詠唱が終わろうとした時だった。

 突如、クリアが横に吹っ飛ばされた。


「!?」


 あまりに突然のことにヴァイスは驚いて詠唱を中止したが、いつでも発動できるように止めている。

 クリアは近くの不倒樹に激突し、衝撃を受けたほうを睨もうと顔上げると同時に口を塞がれた。

 彼女の口を塞いだのはティアだった。

 ティアはクリアの頬を殴って吹っ飛ばし、詠唱を中断させ、そして、一気に接近し、再度魔法を使わせないように口を塞いだのだった。

 クリアは自分の口を塞ぐティアの腕を掴んで、引きはがそうと暴れる。


「やめなさい、クリア!」

「んん~!!」

「貴女の気持ちは分かります。でも……ここで怒りに身を任せて殲滅魔法なんて使って、バレットとアリスを巻き込みたいんですか!?」


 双子の名前を出されたクリアはハッと我に返り、暴れるのをやめた。

 ティアは彼女の様子を見て、冷静さを取り戻したと安心し安堵の息を漏らすと、ヴァイスの方を見る。


「ヴァイス、貴方もやめなさい! クリ……メルトが昔から強情なのは知っているでしょう。それに、貴方がここに来たのは彼女を連れ戻す為ではないでしょう!」


 ティアの言葉にヴァイスは目を伏せ、しばらく逡巡すると、発動しようとした魔法を解除した。


「そうだな。すまない、熱くなり過ぎた」


 ヴァイスは謝罪をすると、地面に突き立てたコキュートスを抜き、背負った。


「んん、プハッ! そうだ、お前は何をしに来たんだ」


 自分の口を塞ぐティアの手を振りほどくと、クリアが不機嫌そうに聞いた。


「ここにいるという、双子に会いに来た」

「……」


 クリアが横目でティアを睨んだ。彼女は申し訳なさそうに頬をかいた。


「ごめんなさい、魔導回路具(アーティファクト)魔導回路(ルーン)に関する本を借りる条件に二人に会わせることになりまして……」

「ティアの話ではかなりの秀才の少年と少女と聞いた。なら、ぜひその姿を見てみたくてね」


 それを聞いて、しばらく黙った後、クリアは忌々しそうに深く溜め息を吐き、歩きだすと、地面に叩きつけたカタストロフを抜いて、肩に担ぎ歩く。


「こっちだ。付いて来い」


 足を止めずに彼を招くと、ヴァイスはその後に続き、ティアもついていく。

 

 裏庭にいたバレットとアリスも表でクリアが何かを叫んだあと、戦闘音が轟き、彼女の魔力ともう一つの知らない魔力が高まるのを感じて気になっていたが、ここにいろと念押しされたのと、魔増爆砂(エーテル・パウダー)を使用禁止にされたくないという理由から見に行くことが出来なかった。

 クリアとティア以外の人を見て、双子はヴァイスの事をジッと見つめた。

 ヴァイスも双子の魔力を感じて、睨みつけるように見つめていた。


「……二人共。この双子の魔力はなんだ?」


 あまりのことにヴァイスがクリアとティアに聞くが、二人共、肩をすくめてみせる。


「ねぇ、くりあ。このひと、だれ?」


 バレットがクリアに聞くが、彼女は嫌そうな顔で腰に手を当て、そっぽを向いた。

 そんな光景を見て、ティアが額に手を当て、深く溜め息を吐いた。


「この方は『ヴァイス=サファイア=アイシクルス』。アルセリアの王立魔法魔導学院『グリモワル』の学院長を務めている方で……私達の昔からの友人です」

「友人なんかじゃね……ちょっと待て、学院長? おい、ドーガの爺さんはどうした?」

「あとで、説明しますので、少し黙っててください」


 途中から横やりを入れてきたクリアを制止し、ティアは説明を続けた。


「彼は『四元師』と呼ばれる魔法士の中でも特別な存在なんですよ」

「「よんげんし?」」

「『四元師』というのはですね――」

「知る必要はない!」


 双子の疑問に答えようとしたティアの言葉をクリアが遮った。

 皆が彼女のほうを見るとクリアは、怒っているのか眉間にしわを寄せ、目つきがいつも以上に鋭くなっていた。

 

「――お前等が知る必要ない」


 念を押すようにクリアが言うと、ティアが溜め息を吐いて「また今度教えてあげますね」と告げ、説明を中止した。


「そうだ、バレット。これが魔導回路具(アーティファクト)魔導回路(ルーン)に関する本ですよ」


 思い出したようにティアは背負っていた麻袋を切り株の上に下ろすと、バレットはそれに飛びついて、勢いよく手を突っ込むと、中から適当に一冊取り出した。

 麻袋から出てきた本はよく管理されているのか傷一つない赤い革のカバーと紙で出来ていた。

 バレットは適当に開いて、内容を読もうとした。


「……」

「どうです、バレット。何か参考になりそうですか?」

「…………てぃあ、たいへんだ」


 深刻な顔でバレットは本から顔を上げた。

 つられてティアとクリア、アリス、何故かヴァイスまで神妙な面持ちになる。


「――もじがよめない」


 彼の言葉を聞いて、全員がズッコケた。


「あ……そうでしたね。二人があまりにも優秀でしたのでその辺りのことを失念していました。では丁度いいので、この機会に文字を覚えましょう。アリス。魔法の修行を一時中断して、一緒に文字を覚えましょう。文字を覚えれば、見分を広げることができるのでいいですよ」

「う、うん。分かりました……」

「ではまず、文字の種類から教えますね。まず――」

 ティアはバレットの持つ本に書かれた文字を指さしながら、説明を始めた。


「おい、本当にこの二人は大丈夫なのか?」

「知るか……」


 ヴァイスの質問にクリアはぶっきらぼうに答えた。

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