8 はよう家に帰らねば
「ねぇ……どうでもいいけど。」
たった今、暴漢に襲われかけて、どうでもいいなんて普通ではありえないが、ありえてしまうのがこの家族なのである。
「……あぁ……これって……。」
「「ローウェル ルート!!」」
姉弟は同時に言った。
何故"ローウェル ルート"かがわかるかと云えば、危険度が極端に増すからだ。アレンルートは平穏そのものに対し、ローウェル ルートに関しては真逆。身の危険が、すぐに降りかかる。そう、今、まさに起きた事の様に。
ーーーバン!!
「親父~~~!!」
慌てて家に帰ったアレン達は、父親を呼んだ。
ローウェルを薦めた父親が絡んでいるのかと思ったのだ。
「ケインお坊ちゃん、親父ではなく……。」
音もなく現れた執事長が、ケインの口の聞き方を注意する。確かに、侯爵家の跡取りの話し方ではない。
「坊っちゃんはやめれって!! 父上は御帰宅か?」
小さい頃からの付き合いもあり、未だにケインを坊っちゃんと呼ぶ時がある。まぁ、今のは言動のなっていない、ケインに対しての当て付けもありわざとだろう。
「先程、お帰りになられました………お嬢様!! 大股で走らない!!」
執事長の返答を聞くや否や、2階の書斎に走り出したフィオーレンを執事長は叱りつける。大股も走るのも令嬢としては失格だ。
「それどころでは、ありませんの。ごめんあそばせ?」
フィオーレンは走りながらも優雅に言った。はしたなく走る姿も何故か舞う様で"美しい"と侍女達は見惚れていた。
「あっ! お土産買ってきたから、後で皆で食べて。」
ケーキを買って来たのを、思い出したフィオーレンは、見惚れていた侍女達の横を、華麗に通り過ぎりながら言った。
「「……あ……ありがとうございます!!」」
世間では、悪役令嬢なフィオーレンでも、屋敷の人達には華麗で綺麗な優しいお嬢様だった。
ーーーバン!!
書斎の扉を、ノックもなく配慮もなく思いっきり開けた。
「お父さ~~~ん!!」
「……フィオちゃん。お父様と呼びなさい。」
書斎の革のイスに座っていた父は、顔はにこやかに微笑み言った。




