7 まさかの……。
「姉ちゃん……。なんも買ってないけどいいの?」
今日は、弟ケインと二人で街に出ていた。本来、侯爵令嬢がお供を連れずになんてありえないのだが、元が元の世界だったためか、二人で出かける事が多かった。お供を連れてなんて生活、何年こちらで過ごそうが慣れない。
「どうせ、リスタートしたら、意味ないし。食べ物だけで充分よ。」
だから、最低限の物しか買わない。なので家は"侯爵家"でありながら、他とは違い質素倹約な簡素な屋敷だった。使用人達には、逆にもっと侯爵家らしく、華やかな屋敷にして欲しいと、嘆願されるくらいだ。
だが、毎回毎回、リスタートするたびに買い出しするのが、面倒くさいので、自然とこうなった訳である。
「それな、持って行けたらいいのにな。」
ケインもそう思うのか、大きく頷いた。何一つ持って行けない。せいぜい、過ごした記憶だけだ。
ーーーザザッ。
和やかな帰り道、人気が途絶えた瞬間を狙っての事か、二人の男が慣れた速さで前後を塞いだ。
「お前が、オーフォランド侯爵の娘、フィオーレンか?」
黒服、フードで顔を隠した男が言った。
調査をしていて、訊かなくても分かるだろう。なのに確認したいのか、訊いてきた。
「……え? 違いますけど?」
だから、とぼけて見せる。なにもバカ正直に"そうだ"と答えてあげる義理もない。こんな見た目から、危なそうな男達になら尚更である。
「……とぼけるな。ケガをしたくなかっ…………おふっっ!?」
先手必勝だ。フィオーレンは、律儀にドラマの悪役みたいに、つらつら話す男の股間を、力任せにヒールの踵で蹴り潰した。
「……ぬぇ~~~。」
変な声を上げて、泡を吹いて倒れた。まさか、侯爵令嬢が股間を躊躇なく、蹴り潰すとは思わなかったのだろう。大人しく付いてくるか、悲鳴を上げるか……そんな所だと、油断をしていたため何も防御が出来なかった様だ。
「うっわぁ!! えげつねぇ~~姉ちゃん。」
残りの一人も、サクッと倒したケインが渋面顔で言った。
男なので、痛さがわかるのか、口を押さえて犯罪者に同情している。
「ヤられる前にヤレ。家訓通りでしょ?」
とフィオーレンは満足そうに、腰に手をあてた。
そう、家の家訓……ヤられる前にヤレ。
なんという家訓だと思うかもしれないが、何度もリスタートしているからこその"家訓"だ。
「だけど……あ~あ~、こりゃ潰れたな。」
ケインは、泡を吹いて倒れた、男の顔を見て言った。苦悶の表情で気絶している。その男の前に立つとケインは"南無阿弥陀仏"と手を合わせていた。




