5 え? なんで?
ケインの言った通り、東側赤いチューリップが咲いている方向から、ゲオルグらしき、黒髪で武骨な背の高いイケメンが見えた。
……カッコいい……のか?
…………遠っ!! 見にく~~~い。
ひどい……酷すぎる……想像以上に遠い。
ここから50メートルはある。だれか、ゲーム補正してくれ。
おまけに公園あるあるで、目の前の噴水が非常に邪魔だ。破壊したい。
……って事は、上手く魔力を操作しないと、この帽子は届かない。
マジで鬼畜なクソゲームである。
うそ~~ん。
文句を言ってる暇もない。
え~~~と、風に乗せて行けゲオルグの所に!!
フィオーレンは、帽子を空に放り上手く風の軌道に乗せた。
よし!! さすが私!!
自画自賛だが、このために必死に練習して来たのだ。
余程の事でもない限り、失敗しない。
よし!! いける!!
ーーーパシッ。
…………えっ?
何か黒い影が横切った。
そのせいで死角となり、ゲオルグが帽子を…………取らなかった。
いや……取れなかった。
「お姉~~~さま~~~!! 僕が帽子を取りましたよ~~!!」
銀髪、碧眼の美少年、見た目は天使……中身は悪魔なヤツがやって来た。その悪魔が、高さ3メートルにあった、あの帽子をいとも簡単に取った。いや……取りやがった。
「アホ~~~空気を読め!! マイク!! 」
フィオーレンは叫んだ。この一番厄介な小僧はマイク。可愛らしい見た目に反して、中身はどこかオカシイ。だから、マイクのフラグは真っ先に、叩き潰したハズだったなのに何故にいる。
「空気を読んだから、取れたんですよ~~~?」
風魔法を使って、取ったに違いないが……その空気じゃない!!
「あ~~~っ!!」
アホマイクのせいで、ゲオルグ様がこちらをチラリと見て、スタスタ行ってしまった。こうなったら、もう終わりだ。ゲオルグルートに戻るのは至難の業である。ガッカリだよ泣けてくる。
「……お姉さま。」
キラキラしたマイクが、帽子を手に持ち目の前のにいた。
なんなんだよ。お前は……。
このゲーム、主人公で全部クリアすると、もれなく隠しキャラとして、悪役令嬢スタートが出来るのだ。それが私。
ただし、主人公はゲーム補正もあり、すべての対象者が好感度50%スタートに対し、悪役令嬢はマイナススタートという鬼畜ゲームだった。
おまけに、何故かこのキラキラ少年、マイクの好感度だけ70%スタートとかいう、ありえない偏り。これを作ったクリエイター、マジで頭大丈夫? と訊きたい。だから、早めにフラグを叩き潰さないと、こうなる。
「うっわ~~。マイコー出てきたし!! 姉ちゃん……マイコーのフラグ折らなかったのかよ。」
隠れていた藪から、ばさりと出できたケインも、げんなりしてるのか、いつもの軽さがあまりない。それほどマイクはよく出てくるキャラだった。
「折ったし!!」
確かに折った。っというか、人としてどうかと思うが、出会い頭でいちゃもんつけて、平手打ちを喰らわす、それで折れるのだ。
なのに……折れていない。ナゼだ?
「姉ちゃん……ちゃんと、折っとけよ。」
「ポッキーじゃないんだから、んな簡単にポキポキ折れるか!!」
破滅フラグは、そんな簡単には折れない。ウンザリである。
「アハハッ!! 名言いただきました~~!!」
と、弟ケインはゲラゲラ腹を抱えて笑う。そんな弟にマジでイラッとする。1度は本気でぶん殴りたい。
「お姉さま。結婚式はいつにします?」
そんな姉弟のやり取りもなんのその。空気も何も読まないマイクは、ニコニコと笑う。
「まだ、1回しか会ってないのに、結婚も何もないよね?」
フィオーレンもげんなりである。
そう、まだ1回目だ。今日で2回目。その1回でキミの中で何が起きているのかな? 出会い頭は平手打ちしたんだけど? しかも、プロポーズどころか何もかもすっ飛ばして結婚式ってナニかな? 好感度マックスになってたとしても非常識だよね。
「1回会えば十分ですよ。愛しのお姉さま。」
と可愛く小首を傾げて見せた。たぶん端からみたら可愛くてキュンとくるのかもしれないが、コイツの裏の顔を知っているのでキュンとはこない。むしろ、ゾゾゾッと鳥肌を通り越して、恐怖……狂気を感じた。
「……アンタ、私が平手打ちしたの覚えてる?」
訊かずにはいられなかった。あれで折れるのだ……普通は。
「あの快感……忘れられません。」
マイクは、以前打たれた左頬を擦り、恍惚としている。
ヤバイやつだ。
「姉ちゃん……なんか……コイツのフラグだけ、バク入ってんじゃん?」
さすがのケインも、恐怖を感じているみたいだ。
「…………やりなおそう……。」
当然だ。こんなヤツとエンディングなんか迎えてたまるか。
「……同感……親父のトコ行ってくる。」
ケインは、急いで家に向かう事にした。
「メンタルもたないから、早くね!?」
「わかった!! 任しとけ!!」
こういう時だけは、頼もしい弟ケインは颯爽とこの場から消えた。
頼むから、早くリセットしてくれ~~~!!
そこに残されたのは、青ざめているフィオーレンと、その腕に絡みついている天使マイクだけであった。
「僕だけの、お姉さま……フフッ。」




