4 ゲオルグルートに行きたい
ある晴れた昼時に、とある公園では入念に何かを確認している男女がいた。端からみたら、美男美女カップルに見えるこの二人は、実の姉弟である。
「姉ちゃん、1・2・2……1・2・2だし。」
「うっせぇし!! せめて会話のヒントをくれる!?」
何度も確認する弟ケインに、フィオーレンはキレた。乙女ゲームの世界ではあるが、ゲームではない。ポップ画面なんぞ一切でないのだ。どうしろという。
「マジ、選択肢の技量欲しいし、帽子はこれでいいの?」
角度を変え、帽子をフィオーレンは確認する。出逢いイベントに必要なアイテムも、毎回用意しなければならないし、現実は非常に厳しくシビアだ。
「リボンはピンクの、エレガントな帽子……だった気がするし、大丈夫じゃね?」
お嬢様必須アイテムの、エレガントな帽子だ。ふわりとした布製のつばつき帽子。エレガントな帽子って何なのか? ゲームをやった人間にしかわからない。もう野球帽で良くない? といいたい。
「……で、ゲオルグが来たら、風魔法で飛ばせばいいのよね?」
帽子を飛ばして、ゲオルグを釣る。これも都合よく風なんか来ないから、自分で相手にめがけて飛ばさないといけない。
主人公だと、補正がかかるから、風が上手く吹くらしい。悪役令嬢にもなると、全部自分でやらなければいけないなんて、酷い贔屓である。
「ちなみに、赤い花が咲いてる方向から……あっ!?」
弟ケインが、何かに気付いた。フィオーレンも同じ方向を見て唖然した。
「ちょっと!! あっちにもこっちにも咲いてるし!! どこよ!!」
赤い花なんて、ポピュラー過ぎてそこらじゅうで咲いている。なんだったら、咲いていない方向がないくらいだ。目印になりゃしない。
「アハハッ!! 春の公園、チョーウケる。」
と腹を抱えて笑う。ケインは他人事なので、面白くて仕方がない様だ。我が弟ながら苛立つ。
「ふざけるな!! そろそろゲオルグ来るし、捜してこい!!」
こうなったら、手分けして来る方向を見つけるしかない。何この、悲しい茶番劇。世が世なら、ストーカーですよ?
「あいよ~~。」
ケインは楽しそうに、右側に走って行った。フィオーレンは逆方向の左を見に行くことにする。早くしなければ、帽子を飛ばして拾ってもらうイベントが終わってしまう。そうなったら、またアレンに軌道修正してもらわなければならない。
「姉ちゃん!! ゲオルグっぽいの来たぞ!!」
右側に行っていたケインが、慌てて戻ってきた。
「"ぽい"ってなに!? ちゃんとゲオルグなの!?」
いい加減な弟にイラッする。何回も出来るとは云え、一つの人生には違いない。失敗なんてしたくはない。
「遠目だし、わかんねぇって……とにかくベンチに座って待ってろ。」
ケインはそう指示をすると、自分は近くの藪の中に姿を隠した。
ゲオルグはちょっと武骨でカッコいい。アレンは金髪で細身だが、ゲオルグは黒髪。隣の国の軍人でガッチリしたタイプだ。
今日は、たまたま合同軍事練習に来ていて、その帰りにこの公園を通りかかるのだ。そして、たまたま……たまたま、フィオーレンが飛ばしてしまった帽子を拾う事で、イベントスタートだ。