3 アレン再び
「フィオーレン!! お前との婚約を破棄する!!」
高々とこの国の、第二皇子アレンが言い放った。
はい皆様!! もうお馴染み、国王陛下、御生誕50年のパーティー会場の場だ。
「げっ!? マジか!!」
見た目は才色兼備、中身は女子高生。フィオーレン侯爵令嬢はまた驚いた。意外とイケるんじゃ……と思っていただけに、残念だ。
……難し~~~い。
「うっひょ~ぅ!! 出ました~~伝家の宝刀・婚・約・破・棄!!」
人が軽く落ち込んでいるのに、両方の人指し指を立て、ふざけているこのバカはケイン。フィオーレンの実の弟だ。この乙女ゲームの世界でも、転生前の世界でも弟だ。バカだが超イケメンなので、残念だが女子に困っていない。
「…………なっ!?」
アレン皇子は、絶句した。軽い軽くない以前に、こんな話し方をする人間がこの世界にはいない。おまけに不敬だった。
「このクソゲーが!! また婚約破棄だし!!」
フィオーレンは着けていた手袋を床に叩きつけた。
「だ~か~ら~、ゲオルグルートの公園イベントの選択は、1・2・2だっつたっしょ? なして3番、選択したし?」
「しるかボケ!! 1、2、2なんて言われても、わかんないっつーの!! 普通の会話にポップ画面がでるかアホ!!」
ここは乙女ゲームの世界ではあるが、ポップ画面なんて出ないし、その時々で相手の好感度が上がる選択肢を、自分で考え選ばなければならないのだ。そして、その選択肢をまさに間違え、仕方なしにアレンルートに変更していたのだ。
「途中まではマジでいい感じだったのに~。 姉ちゃんの技量に"選択肢"があれば良かったのにな。」
「マジ、それな!!」
フィオーレンは大きく頷いた。選択肢があれば良さげなのを選べる。自分ですべてを覚えて言うのは苦痛でしかない。
「……お前ら……俺を無視するな!!」
完全にかやの外だったアレン皇子が、怒って声を上げた。"婚約破棄"という、大事な場面が訳の分からない会話で台無しだった。
「「 うっせぇし!!」」
フィオーレン、ケインの姉弟はハモり言葉をぶった切る。そっちも大事な場面かもしれないが、こっちはもっと大事な場面だ。人生が懸かっているのだから。
「…………な。」
まさか二人に、反撃を喰らうと思ってもいなかったのか、アレン皇子は絶句である。
「大体てめぇが、毎回毎回キャスリンなんかと、いちゃコラすっから破滅ルートに行くんだろーが!! いい加減飽きろや!!」
毎回それに、付き合わされているのでケインもブチ切れ気味。だが、そんな複雑な事情を、知らない皆は唖然でしかない。
「ハイハイ!! やり直し~~!!」
パンパンとフィオーレンは手を叩く。やり直すしかない。
何がどうやり直しなのか、他の皆には全くわからない。それどころか、この姉弟は頭は大丈夫だろうか、と畏怖を感じていた。
「…………はぁ。」
皆が唖然呆然するなか、深いため息をつきながら、渋いイケメンがゆったりと歩いてきた。
「お父さん……後処理があるから……先に帰っていなさい。」
父こと宰相様が疲れたように、手をヒラヒラさせて二人を追い出す。
「「わかった~~!!」」
何がわかったのか、後処理とはなんの事なのか、誰一人としてわかる者はいなかった。