2 やはり、浮気相手はキャスリンですか。
「アレンでいいの?」
フィオーレンは改めて、目を丸くしている少女に訊いた。
「……え……と……はい」
少しだけ俯き、顔をポッと赤らめた少女。
背はフィオーレンより数センチ低く、髪は薄いピンク色。瞳の色は栗色で、涙でウルウルとしている。
さすが、ゲームの主人公。可愛らしい。
……っていうか、ピンクの髪……違和感バリバリなんだけど。
「一応言っとくけど、私と婚約破棄すると、コイツ王宮放っぽり出されるけど、それでもイイのかな?」
王位争いに敗けた皇子はもれなく、王位継承を剥奪され王宮を追い出されるのがこの国の宿命。
「……え?」
知らなかったのか、訊いてなかったのか、バカなのか。この国に住んでいる人間ならもれなく自然と耳に入る情報だ。
「……キャスリン……コイツらの後ろ楯がなくても、俺はこの国の王になって―――!!」
「ハイ!! ムリゲーきました~っ!!」
アレン皇子の愛の誓いを、意図も簡単にバッサリ斬り倒した弟。マジすごい。
「お……お前は!!」
ギリギリと怒るアレン皇子。
それも当然だ。今、一番カッコいいセリフを最後まで言う間もなく、無礼にも弟にバッサリと斬られたのだから。
「だって、超ムリゲー? うちの親父宰相様よ? それが皇子さんじゃなくて上の皇子さんに付けば、お子ちゃまだってどうなるか分かるし?」
「……やってみないことに―――――」
「やるだけムダだし? 好きな女の前で頑張りたいのはわかるけどぉ、戦うだけ鬼ムダぁみたいな?」
不敬、無礼でバッサバッサと斬りまくる弟には感服さえする。
「……で? アンタはどうするの?」
二人に話しを脱線させられたが、フィオーレンは話を戻して訊いた。
「…………」
俯きプルプルとゼリーみたいに、震えてみせるキャスリン。
「正直、立場悪いよ?」
知っているのかしらないが、状況をそれとなく伝えてあげる。
「……え?」
「こんな場所で私を断罪しようとするから、あなたは婚約者のある女性から男を奪った、性悪女になっちゃったし。コイツと結婚しようがしまいが御家は断絶だし、可哀想に代償……大きかったね?」
その代償を払ってまで、この皇子と一緒になりたかったのか。
乙女ゲームでは、主人公キャスリンがアレン皇子を選んだ後までは、描かれてなかったが本当に結婚したのだろうか?
「……お……御家……断絶……"あなた" のせいで……」
「なんで、私のせいになるかな?」
この状況がわかっていないのは、このキャスリンも一緒らしい。
こっちは侯爵令嬢、そっちはたかが男爵令嬢。しかも養女ときている。弟じゃないけど普通に考えたらマジでムリゲー。おまけに自分が、皇子を奪ったと大勢に公言したと云ってもいい。
この先、どうなるのか? なんてわざわざ言わなくても、普通は分かるだろう普通は。
「だって、あなたが私達を恨んで……!!」
なんで――――っ!?
この後に及んでまだ言うキャスリンに苛立つ以前に呆れ果てた。何故こんなにも、乙女ゲームの主人公は、頭がお花畑なのかと。
「あ~~!! もぉ、いや!! クソ面倒くさい!!」
この茶番劇が、なんかもうイヤになってしまった。
「……は?」
キャスリンはびっくりする。フィオーレンが叫ぶ様に大きな声を出したからた。この世界の女性は、悲鳴はともかくとして大きな声は、はしたないので出さないからだ。
「ケ~~イン!!」
「あいよ?」
「ゲオルグルート、今からムリ?」
弟ケインに相談する。アレン皇子はもういいやと見切ったのだ。これ以上は無理。キャスリンが出てきた時点で、ひっくり返すのは難しい。
「裏ルート入れば、なんとかなんじゃね?」
このゲームを知り尽くした、弟だからのこその言葉だ。
「なら、行く!!」
アレン皇子なんか、やってられるか。
「それには、オカンに協力してもらわないといけないっしょ。親父~~!! 姉ちゃんアレン捨てるし、ゲオルグ行くから。」
遠巻きに、傍観をしていた父親こと、ミュスエル宰相に言った。
「……そうか。なら、宰相を辞める手続きがある……お前達は、先に帰っていなさい。」
「「……わかった~~!!」」
父親もまた、転生者であった。臨機応変に動ける凄い父親である。
「「「「「………………。」」」」」
状況の分からない、パーティー会場の皆は唖然呆然であった。婚約破棄からゲームまで、訳の分からない事ばかりが急に短時間で起きて、頭で処理しきれないらしかった。
果たして、宰相の後ろ楯がなくなったアレン皇子はどうなるのか?
なにも分からないまま、婚約を破棄する断罪の場にいたキャスリンは、御家はどうなったのか?
それは、また別の話である。
っていうか、やり直すから、しらな~~~い。