19 頑張れと言って
「……バラの花、ありがとう。」
フィオーレンは庭にいた、庭師カインを見つけお礼を言った。
部屋に戻ったら、小さいローテーブルの上に、花瓶がありキレイな赤いバラが一輪、挿してあったのだ。
こんな事をするのは、カインしかいない。
「周りの人間は、お嬢様をバラの様だ……と、言ってますが、私は"ひまわり"かなと思います。」
カインは、まだ蕾のひまわりの花の手入れをしながら、唐突に言った。
「……ひまわり……?」
フィオーレンは首を傾げて小さく笑った。自分でバラとは思わないが、ひまわりだとも思った事はない。雑草で充分だ。
何度、踏みつけられても、逞しく生きる……そんな雑草でいい。
「光に向かって、必死に頑張ってる……そんな気がします。」
「…………そぅ。」
フィオーレンは、小さく呟いた。
そんなにも私は、必死に見えるのか……と。
確かに必死かもしれない。
息を抜いて、何も考えずに、すればいいのだろうか?
「フィオーレン……あまり、頑張り過ぎないように。」
カインは、泣きそうな表情をしているフィオーレンの頭を優しく撫でた。
そんなに、優しくされると余計に泣けてくる。
「カイン……は……後悔……ううん……なんでもない。」
フィオーレンは頭を振った。後悔した事がない。
……なんて聞くのは酷でしかない。カインに酷い事を訊いてしまった。家族を亡くしているのに後悔しない訳がない。それこそ、自分みたいにリセットしたいだろう。
「……フィオーレン……もし、後悔してない……って言ったら、軽蔑しますか?」
「……えっ?」
家族を亡くしているのに……? と驚いた。自分だったら後悔しかない。
「家族を亡くさなければ……ここに来れなかった。」
「……そ……う……だけ……ど。」
「私は、フィオに逢えたことが……とても嬉しいんですよ。」
カインは優しく、優しく微笑んだ。
その笑顔に、後悔の後は見えなかった。
「カイン……。」
また、泣きそうだった。そして、後悔しかない自分を恥じてもいた。自分の幸せのために、多くの人を巻き込んでいいのだろうかと。
「……カイン……。」
もう一度、彼の名を呼ぶ。
「……はい。」
「……がんばれ……って言って……。」
じゃないと、自分が何を目指しているのかが、わからなくなりそうだった。
「……がんばれ……がんばれ……フィオ。」
カインは、フィオーレンが何に、追い詰められているのかはわからなかった。だが、泣きそうになりながらも、懸命に頑張る姿に知らずと抱き締め、背中をポンポンと優しく叩いていたのだった。




