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乙女ゲームの悪役令嬢は、ハッピーエンドを模索する〈連載版〉  作者: 神山 りお


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18/20

18 アレンの兄



 「…………何かあったのか?」

 いつも通り、いつもの様に帰って来たフィオーレンは、いつも通りに皆と夕食を食べ、いつもの通り部屋に戻った。

 だが、ケインと帰って来た娘の様子が、何かおかしい事に父が気づいたのだ。

 「……何もねぇよ。」

 そう何もない。ケインが来た時には、誰もいなかった。

 何も起きてはいなかった。

 だが、ケインは気づいていた。遠目にアレンの護衛がいたのを見つけていたからだ。

 護衛がいる、姉が泣いている。

 それだけで、もう充分だ。

 「……あ~~。」

 でも、父に訊いておきたい事がある。ケインは手をぱたぱたと振り、人払いをした。

 執事は勿論、使用人が全員いなくなり、人の気配がなくなった事を確認すると、改めて父に向く。

 「……なぁ。あのバカの兄……って、なんで表舞台に出て来ねぇの?」

 乙女ゲームには、そこまで詳しい描写はなかった。だけど、父親はこの国の宰相だ。何かを知っていてもおかしくはない。

 「……病弱なんだよ……。」

 と父ミュスエルは、紅茶を飲みながら、ため息混じりに言った。

 「そんなに、酷いのですか?」

 心配そうに訊いたのは、母シュゼットだった。国は違えど同じ王族として気になるし、娘の未来にも関わる事だ。

 「ベットから起き上がれない程に……ね?」

 と苦笑いしてみせた。父とて、あのバカの後見より兄の方が、いいのかもしれない。

 「本当に、病気なのか?」

 王に選ばれなければ、継承権放棄の上、平民落ち。

 ただでさえ、王族なんて誰が王になるか、骨肉の争いは日常に起きる。病弱なんてウソかもしれない。

 「嘘だと思うのなら、自分で調べなさい。」

 ただし、命の保証はないけど……? と目が言っていた。

 当然の事だ。本来、訊いた処で教えてくれる案件ではない。

 「ジュリアス様……でしたよね? あなたの力を持っても王には……ごめんなさい。」

 父ミュスエルが、チラリと母を見たのだ。深く訊くな、出来たらやっている。そんな、物言わぬ笑顔だった。母とて、入ってはいけない領域はある。

 「もって……半年……。」

 ミュスエルは小さく、誰に云うでもなく呟いていた。

 「「…………。」」

 そんなにも、酷いのか……と。母とケインは思った。

 「たしかに、小さい頃は……線の細い方でしたね。」

 母は見た事があったのだ。王妃候補として、良くフィオーレンを王宮に連れて行っていたからだ。

 「……俺は、金髪の美少年ってしか、印象がないな。」

 ケインは、茶菓子を口に放り込みながら言った。

 侯爵家の息子とはいえ、そんなに会ってはいない。病弱で外に出ていないせいもあるが、ケイン自体が王宮が好きではなかったからだ。

 「あぁ……だから、か。」

 ケインは、今さらながらに気付いた。何故、アレンが強気で出れるのか。

 「ジュリアスが死にかけてるから、あのバカは余裕かましてんのか。」

 第1皇子のジュリアスが亡くなれば、平民に落ちていようが、いまいが関係ない。王宮に戻れるし国王にもなれる。

 ……となれば、宰相であるミュスエルの、後ろ楯が必要なくなるからだ。

 「でも、ゲームではどうだったっけ? キャスリンルートでは死んでたけど、悪役スタートって死んでなかったよな?」

 だからこそ、悪役令嬢ルートでは、宰相が後ろ楯について王になっていたハズ。

 「ケイン……ここはゲームがベースなだけで、ゲームではないんだよ。だから、色々イレギュラーな事が起きる。」

 ミュスエルは、複雑そうな顔をした。ゲーム通りならアレン皇子は、フィオーレンと結婚しなければ、王にはなれなかった。

 だが、実際ジュリアス皇子は……。

 もう、ゲーム通りではなくなり始めていた。

 「なら、姉ちゃんの幸せは、どこにあるんだよ!!」

 ケインは、テーブルを拳で叩いた。アレンを選んでも、選ばなくても不幸しかみえない。なら、自分は姉のために、どうすればいいのかが、わからなかった。



 「……アレン皇子が、浮気出来ない身体に……。」

 母がぼそり……と真剣に、何やら恐ろしい事を呟いていた。



 浮気出来ない身体……って、なんだろうか?



 「あの……お母さん……無茶はダメだよ? 無茶は……。」

 ミュスエルは、顔をひきつらせながら注意しておく。

 何をするのか、わからないのだ。

 「……無茶は、しませんよ? お父さん?」

 と、母が冷ややかに微笑んだ。

 「「…………。」」

 無茶"は"ってなんだろう……。

 父と息子は、身体がブルリと震えるのを、抑えられなかったのだだった。

 



 更新が遅い中、皆様、閲覧ありがとうございます。

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