15 この気持ちは……
「……はぁ……。」
フィオーレンは気づくと庭にいた。
何度目かのリセットかも分からない、リセットに疲れていたのだ。だが、仕方がない。弟ケインを人身御供にする訳にはいかない。
「お嬢様、幸せが逃げますよ?」
耳元に暖かい息がかかった。
「…………んっっ!!」
フィオーレンは慌てて、耳を塞ぎ振り返り一歩下がった。
あいかわらずのいい声に身悶えする。
「……カイン!!」
庭師カインを睨む。考え事をしていてぼぅと、していたのも悪いが、耳元にわざわざ声を掛けるのもどうかしている。
「油断は禁物ですよ?」
とニコリと微笑む。ヤケドの痕なんて感じさせないくらい、カインは実に魅力的だった。むしろヤケドの痕が神秘さを増して、とつもミステリアスだ。
「自分の家で、油断は禁物っておかしいでしょ!?」
フィオーレンは、気恥ずかしさを誤魔化す様に怒って見せた。
顔が紅くなるのを、必死に抑えるのに大変だった。
「……顔が紅くて、可愛らしいですね?」
隠しきれていないのか、カインはフィオーレンの頬を、優しく撫でる。間近なその瞳に、いつも以上に心を奪われそうになる。
「~~~~っ!」
恥ずかしいやら、ドキドキするやらでフィオーレンは言葉にならない。
…………チュッ。
「…………ふ……ぇ……?」
頬にかかる、柔らかく暖かい初めての感触に、フィオーレンは時を止めた。何が起きたのかが、頭がショートして真っ白になったのだ。
「そんな、隙だらけだと……食べちゃいますよ?」
と、カインは意地悪そうにだが、優しく優しく微笑んでいた。
そんな、カインに見惚れていると、カインはフィオーレンのその小さな口を、親指でなぞった。
……その瞬間、フィオーレンは初めての感覚に、身体がふわふわとするのを感じる。
「……ダメですよ? 私以外にそんな顔をしては…?」
カインは困った様な顔しつつ、フィオーレンに触れた自身の親指に優しくキスをした。
「…………っ。」
艶っぽいその仕草に、フィオーレンはますます、顔が火照っていくのを感じた。
……だって、間接キスだ。
「次、そんな可愛らしい顔をしたら……ね?」
と、カインは意味深な事を言って、最後は優しく頭を撫でてその場を去っていったのだった。
…………今の……なに……?
フィオーレンは、ふわふわとした身体を支えられず、足から崩れ落ちた。
何が起きたのかわからないが、カインの薫りがフィオーレンをまだ包んでいた。
ただ、その残った感触に"言葉"に"薫り"に酔いしれていた。
あのカインが、フィオーレンの頬にキスをしたのだから……。
…………そう……キスをした。
フィオーレンはまだ胸がドキドキとしていた。
なぜなら、一度は好きになった人だからだ。
だが、同時に悲しくもあり胸が痛くなる。
……この想いは報われる事はけしてない……なかったのだ。
フィオーレンは再び咲き始めた想いを、深く深く心の中に押し込め、気づかなかった事にしたのである。




