14 誰の悲鳴?
「…………えっ?」
その、耳をつんざく声にフィオーレンはビックリした。
何、この声はと。
「私の側から、離れないで下さい。」
ゲオルグは怯えた様に見えた、フィオーレンを護る様に、前に出て辺りをキョロキョロ見回す。
「…………。」
その庇う仕草にフィオーレンは、またドキドキした。あって間もない自分を、護ってくれているのだ。こんな場合でない事は、重々承知だが、その逞しい背中に護られてると思うと、嬉しいし頬が紅くなるのを感じた。
「……た、助けて……姉ちゃん……。」
藪に隠れていたケインが、何故かゲッソリした姿で出てきた。
先程の悲鳴は、ケインの様である。
「どうしました……。?」
フィオーレンを護る様に、ゲオルグはケインに声を掛けた。何かがあったに違いないと。
「……げっ……。」
フィオーレンは、ゲオルグに聞こえない様な小さな声で呟いた。
何故呟いたかと云うと、ケインの腰にしがみつく、天使の顔をした悪魔マイクが見えたからだ。
「…………マ……。」
マイク!! と叫びそうな声を、フィオーレンは慌てて飲み込んだ。ここまで来て叫んだら何もかもが終わりだ。ゲオルグに色々と説明がつかない。
「…………。」
ゲオルグは固まっていた。どういう状況なのかが、分からないのだ。ケインが女なら、間違いなく助けたが、男だ。そして、襲っているのも男だ。何がなんだか分からないらしい。
ちなみに、フィオーレンにもさっぱりと分からない。
「……お姉様、お兄様を僕に下さい!!」
相変わらず、空気を読む気がないマイクが、真剣な眼差しで言った。
…………ん? マイクどうした?
ケインにロックオン、しちゃったのかな?
「ないないない……!! 絶対にない!! ゲオルグさん助けて~~!!」
ケインは、顔面蒼白になりながら、ゲオルグに助けを求めた。
ケインも必死だ。女ならまだいい、だが彼は男だ。どうしようもない。
「……なぜ……私の事を……。」
今、会ったばかりのケインが、自分を知っている事に驚きつつも、訳の分からない現状にも頭が混乱しているらしい。
「助けて……お願いします!!」
ケインがもう一度言うと、ゲオルグはハッとしたようだった。
「キミ……彼が嫌がっているだろう? やめたまえ。」
と腰にしがみつくマイクを引き剥がそうとした。
「イヤよイヤよも、好きのうちですよ?」
仔犬みたいな可愛らしい瞳を、うるるんとさせる。
「……そ……うなの……か?」
その仕草にほだされているゲオルグは、引き剥がそうとした手を弛めてしまった。
「違う違う違~~う!! んな訳あるか~~!!」
ケインは必死に訴えた。マイクの罠に引っ掛かるゲオルグに、再び助けを求めた。このままでは、貞操があぶない……と。
「キミ、とにかく彼から離れなさい。」
もっともな事を、ゲオルグは言い、嘆くマイクを引き剥がした。
「ナゼにこうなったし……。」
自分の不幸は、さすがに蜜の味ではないのか、ケインはゲッソリしている。
「僕達の愛を、邪魔するのですか?」
「「愛……。」」
ゲオルグとフィオーレンは、変なところに気が合いハモる様に呟いた。
うん……。
ケインには悪いけど、そのままでいてくれるかな?
ゲオルグ様と気が合いそうだし、いい感じだ。
「何が愛なんだよ~~!! リセット~~!! リセット~~!!」
ケインは必死に誰かに叫んだ。
「……リセット?」
ゲオルグがいよいよ、怪訝そうにし始めた。もう訳のわかる分からないを通り越して、不審でしかないのかもしれない。
「……はぁ……」
フィオーレンは深い深い、諦めた様なため息をついた。
ゲオルグが不審がってしまった以上、もうダメだ。
不審人物に弟が認定されてしまった以上、姉である私がいくら説明しても、どうにもならないだろう。
せめて、もう少しゲオルグとの仲が進展した後なら、と思わなくもないが……どうしようもない。
……リセットしよう。




