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9/9

9話 終わり

あまりにも遅くなりました。

 保健室を出た後、閉会式を何事もなく終えて体育祭は無事終了した。有終の美を飾るとまでは言えないが、借り物競争の活躍は十分な手応えを得ることができた。


 童子も満足している様子だったし万々歳だ。


 体育祭が終わった次の日から、グラウンドにこだましていたかけ声も聴こえなくなり学校は静寂に包まれている。


 そして俺はその静寂の中、相変わらず要塞(トイレ)でおサボりを続けている。


 おサボりしながらもただゲームをしたりする訳ではなく、俺もそろそろ授業を真面目に受けようかなぁ。なんて 以前の俺なら考えるはずのないことを考えていた。


 すると、外から足音が聞こえてきた。もう流石に理解できる。このパターン、あいつだな。


「濱田さん。いますか?」


「あぁいるよ。どーしたんだ今日は」


「昨日は言えなかったお礼を言おうと思いまして」


 体育祭の日は礼を言うのをやめさせたからな。わざわざこうしてお礼に来てくれたって訳か。お礼をしに来てくれた童子の行為を無下にするわけにはいかない。俺は扉を開け個室から出た。


「体育祭以来、話しかけてくれる人が増えたんです。私はドジだけど頑張ってることを認めてくれて」


「良かったじゃないか。やっと友達ができて。これで1人じゃくなったな」


「はい」


 童子は体育祭で活躍したおかげで友達が出来たようだ。童子はこの先、高校生活という3年間しかない貴重な時間を友達と過ごすことが出来るだろう。


 そうなったからには俺には言わなければいけないことがある。これは俺が童子に練習を教えだしたあたりですでに決めていたことだ。


「じゃあこれで俺と童子の関係も終わりってことだな。短い間だったが楽しかったぞ」


「そう……ですね」


「ああ。この先、パンツを見せるのは好きになったやつだけだぞ。変な男も多いから気をつけろよ」


 変な男が世の中の変な男批判をしても説得力ないだろうな。


「わかりました。気をつけます。本当にありがとうございました。それじゃあ」


 そう言って童子は要塞(トイレ)から出て行った。俺が想像していた以上にすんなりと要塞(トイレ)から出て行く姿に俺は幾分か寂しさを感じた。


ドアの閉まる悲しい音が響き、いつもの静けさとは違う別の静けさだけが残っていた。



◆◆◆



 あれから1週間が経過した。あれ以来、童子が要塞トイレを訪れることは一度も無かった。


 これで良かったんだ。あいつにはあいつの友達ができて俺は元の生活を取り戻した。こんなにいい終わり方はないじゃないか。


 それなのに、この気持ちは一体なんだ。このやるせない気持ちは。もう、もう童子と俺が関わることは無い。そう考えると胸が痛くなって……


「だーるーいーさーん!!」


 ……。いや、俺はようやく元の静かな生活を取り戻したのだ。悲観することは何も


「おーい。だるいさーん!!」


 ……前向きに考えよう。俺はまた静かに、ゆったりとした時間をすごせるのだから


「だるいさん!だーるーいーさーん!聞こえてるんでしょ。返事してくださーい!」


「聞こえてるって!そんな大声出さなくてもすぐそこにいるから!!」


 もうここには来ないはずの童子には空気を読むという概念が無いようだ。俺がせっかく1人で納得しようとしているときに……。


友達もできて楽しく過ごしてたんじゃないのか?何故またここにやって来たんだ。


「どうした。友達も出来たんだしまたここに来る必要は無いだろう」


「新しくできた友達といるのもすごく楽しいんですけど、友達ができてわかったんです。だるいさんといる方がよっぽど楽しいって」


「俺は童子と一緒にいても迷惑なだけだ!静かにさせてくれ!」


「えーそんなこと言わないでくださいよ〜。本当は私と居られるのが嬉しいんじゃ無いんですかぁ?」


ぐっ……。こんな時に限って察しが良いな。批判したいところだが図星である。


「そんなわけないだろ!でもまあ、童子がどうしてもって言うなら一緒にいてやらんでもないな」


「じゃあ一緒にいてくださいっ!」


「仕方ねぇなぁ」


 言葉では嘘をつきながらも、俺の緩みきった表情は本音を隠しきれてはいなかった。


童子にそそのかされクラスに戻ると、大勢の奴らが話しかけてきた。体育祭で活躍したのは童子だけではない。他ならぬ俺もその一人だったようだ。この後、クラスで一人ではなくなったことは言うまでもないだろう。




9話までありがとうございました。

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