表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

6話 童子です

腰を痛めました。そーゆーことじゃないです

 私の名前は童子宮子。ドジです。


 私がドジな理由は思いやりがありすぎるから。自分のことなんて後回しで他人の幸せを考えてしまいます。


こんな性格でこれまでの人生を歩んできたらいつのまにかドジ界のスーパースターになってました。


 今までこの性格のせいで友達は寄り付かないし親にも見捨てられました。バイトで日々の生活費を稼ぐ毎日です。


 このまま学生生活をたった1人で寂しく過ごすんだろうななんて考えていたとき、ある事件が起きたんです。


 私はその日、どうしようもなくトイレが我慢できなくなって授業中にトイレに向かいました。トイレの入り口を開け、無我夢中で個室のドアを開けました。


 やっと用を足せる。そう気持ちを緩ませパンツを下ろした瞬間。


「ゔぇっ。ちょ、ちょっと!」


 謎の声が私の後ろから聞こえ、後ろを振り向くとそこには男の子が座っていたのです。


「な、な、なな、なんで女子トイレにいるんですか!」


 心の奥底から出た渾身の言葉でした。女子トイレになぜ男の人がいるのか、パンツを見られたんじゃないか、そんなことを考えながら即座にパンツを上げました。


「なんでもなにもここは男子トイレだ」


「……え?」


「……え?」


「え?」って言ったら「え?」で返されて私は余計にとパニックに。


しかも、一度緊張を解いてしまったがために我慢は限界を迎え、隣の女子トイレに映る猶予も与えられず。


「とりあえすどいてください!!はやく!!」


「いやどいてもなにもここは俺のばしょ…」


「は、や、く!!!!」


「はいすいませんどきます!」


 男の子を無理やりトイレから追い出しておしっこをしてしまいました。個室の外にいる男の子もパニックなのかトイレからは出て行ってくれなくて、おしっこの音が聞こえないか不安でした。


おしっこが終わり外に出ると男の子は耳を塞いでこっちを向いていました。意外と真摯なんだなと正直驚きました。男の子はみんなえっちな事ばかり考えているイメージだったので。


 パンツは見られてしまったようですがそれは私の責任なので相手を責めるのはやめておきました。

 

 それにしても、男子トイレと女子トイレを間違えたとはいえ何故個室のドアが開いたんだろう。って思いました。


 男の子は鍵をかけ忘れたと言っていたのでそれなら私は悪くないと安心したのも束の間、男の子が鍵の方を見て若干青ざめた顔をしていました。おそるおそる鍵を見ると鍵は思いっきり壊れてました。


 どうやらトイレを我慢できない私の馬鹿力が鍵を壊してしまったようです。ごめんなさい。


「まあ鍵をかけ忘れた俺も悪いけどな」


 この言葉を男の子は訂正する事なく、私が鍵を壊したことに気づいたら余計に傷ついてしまうと考え自分が鍵を壊したことにしてくれたのです。


 今までドジな私にこんなに優しくしてくれる人はいませんでした。私が誰かに手を貸したとき、お礼を言ってくれる人はたくさんいました。でも、身近に気を遣ってくれる人なんて1人も居なかったんです。相手の方から私に気を遣うなんて1人も居なかったんです。


 だから、こんな私にも気を遣い優しくしてくれたことが嬉しくて嬉しくて、本当に嬉しくてパンツを見られたことなんて頭の中から消え去っていました。


 彼の名前は濱田塁というらしいです。そういえば、「だるいさん」って呼ばれてるのを聞いたことがある気がします。


 それから私は彼を見かけると楽しくふざけて見せました。そうはいっても私と彼はパンツを見た見られたというだけの関係。


 この先彼と、濱田さんと、だるいさんと仲良くなることは無いだろうって思ってました。


それでも、私に優しくしてくれた初めての人、だるいさんともう一度お話がしたくて思い切って体育祭の練習のお手伝いをお願いしてみたんです。


「体育祭の練習を一緒にして欲しいんです」


「嫌だよめんどくさい。だるいもん」


「な、なんでですか!こんなか弱い女の子を見捨てるんですか!?」


 断られた時、まあそうだろうな。仕方ないって気持ちと、それでも一緒に練習したいという2つの気持ちが混同してました。思わず涙目になったところで濱田さんはある提案をしてくれたんです。


「そーだなー。体育祭で結果を残したらパンツ見せてくれるって言うならおしえてやる」


 彼なりに私を遠ざけたかったのでしょう。それを分かった上でも私はチャンスだと思いました。


「……わかりました」


「ああ。そーだろうそーだろう。俺を軽蔑し懐疑的な目で俺を見て……は?」


「私が体育祭で活躍できたらパンツ見せます。なので協力してください」


 こうして私は濱田さんと練習をする権利を勝ち取ったのです。その時は無我夢中でお願いしていましたが後から自分の行ったことがどれほど恥ずかしいことか後悔しました。


 校門で待ちあわせをしましたが、あまりの恥ずかしさに濱田さんの顔を直視できず、向かって来ていることに気づいていないふりをしてスマホを弄っていました。


 気づいていないふりをしていただけで、此方に向かって来ていることに気づいていたにもかかわらず、声をかけられ驚いてしまいました。恥ずかしい……。


 そこから公園に向かって歩き、練習をして一緒に帰る。こんな幸せな学校生活は久々でした。


100メートル走のタイムも23秒から15秒まで縮まりました。改めてだるいさんのことを見直してしまいました。トイレの番人なのに運動神経は良いんだなぁーって。


 練習からの帰り道、濱田くんと一緒に帰っていると子供が道路に飛び出そうとしていました。


 私の体は最早条件反射で迷うことなく子供を助けるために走り出しました。


「おい、童子ちょっと待て!!」


 濱田くんの声が一瞬聞こえた気がしました。


 それでも私は子供を助けるため止まることはありませんでした。


 そして子供を抱きしめ車を避けるために飛び込みました。足に車が当たったような感覚を覚えそのまま倒れこみました。


 足が、足がとても痛いです……。濱田さんには足を痛めたことは隠しておかないと。明後日の体育祭に出られなくなる……。


足の怪我を隠すために擦りむいた肘と膝をさすりながら、


「あいたたたたっ。大丈夫ですよぉ〜」


そう言って私はその場をごまかしました。


その後、濱田さんは私に怒号を浴びせてきたのです。

何故ですか?なんで怒るんですか?子供を助けたんですから褒めてくれてもいいくらいなのに。


そのまま濱田さんとは喧嘩別れをしてしまいました。


本当は、本当は怒ってくれて嬉しかった。その事実を伝えられないまま……。

湿布さん。ありがとう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ