3話 相談
毎日寒いです。
沈黙はしばらく続いたが、微動だにせず佇んでいる。
ちょっとやそっとの動揺で狼狽えているようでは要塞の番人は務まらない。仁王立ちで童子の顔を睨みつけると、童子は少し動揺した様子を見せた。あまりいじめるのも可哀想なのでこちらから質問する。
「なんで俺に相談してくるんだ?選択を誤りすぎな気がするんだけど」
「私には友達がいないんです」
「ああ。知ってる」
キッと目をこちらに向け俺を睨みつける。ギンギラギンに睨みつける。あぁっ。新しい世界が開けそう。
「だから相談出来る人がいないんです。……でも濱田さんには一度パンツを見られているので。もう恥ずかしがることはないかと思いまして」
「じゃあもう一回パンツ見せて」
「そ、それとこれとは話が別です!!」
ちっ。もう恥ずかしがることはないって言うなら見せてくれるんじゃね?と思ったがその提案は却下された。
まあ一回見たしね。そう何度もパンツって見たいもんじゃ……ないわけないな。
悪ふざけは程々にして本題に入る。
「で、相談てのはなんだ?」
「体育祭の練習を一緒にして欲しいんです」
ほぉ。体育祭の練習と来ましたか。なおさら要塞の番人には務まらないだろ。なんでトイレに籠ってるやつにそんなお願いすんだよ。頭の中お花畑かこの子。
「練習なんて1人ですればいいじゃないか」
「それじゃあ意味ないんです。早く走る方法もわからないし1人じゃ何も出来ないんです」
「確かに。それもそうだな」
「だからお願いします。一緒に練習をしてください」
俺の様な程度の低い人間にこうして頭を垂れてお願いしているんだ。一緒に練習をしてあげるべきなのだろうか。
一応元野球部で運動神経にはある程度の自信がある。教えるのはどーってことないんだが。
「嫌だよめんどくさい。だるいもん」
あっ……。考えるより先に言葉を発してしまった。本能ってのは本当に罪深いぜ。どうやら今発した言葉が俺の本心らしい。
「な、なんでですか!こんなか弱い女の子を見捨てるんですか!?」
目頭にキラッと光る涙を浮かべながらウルウルし、小動物のような目で俺を見つめる。可愛いよ?可愛いけどそれだけじゃぁね。めんどくさいもん。人と関わるとロクなことがないし。
できるだけ童子を傷つけないよう丁重にお断り願おう。
「そーだなー。体育祭で結果を残したらパンツ見せてくれるって言うなら教えてやらんでもないな」
あっ……。またやっちまったぜ。俺の化けの皮は今にも全て剥がれ落ちそう。
とはいえ、これでの童子は俺にドン引き。蔑んだ目で俺を見て要塞を後にするはずだ。一件落着、結果オーライ。
グッバイ。ドジなかわい子ちゃん。ウェルカムサイレントエブリデイ。
「……わかりました」
「ああ。そーだろうそーだろう。俺を軽蔑し懐疑的な目で俺を見て……は?」
「私が体育祭で活躍できたらパンツ見せます。なので協力してください」
……え?えーーー。えーーーーーー。まじっすか。パンツ見れるんですか?パンツ?何それおいしいの?
いやまさかオッケーが来るとは。ヤベェぞこいつ。ドジの童子というかどうしようもないの童子だろこれ。まさかの返答に動揺が隠しきれない。してやられた。
しかも一度そう言ってしまった手前、今更お断りすることは出来ない。パンツを見れるとは言っても練習に付き合うのはかなりだるい。
「私は覚悟を決めました。約束ですからね!早速今日の放課後から練習しましょう!」
覚悟の決め方がおかしいだろ。厳しい練習に耐えるとか休日を返上して練習するとかその類の覚悟じゃないだろそれ。
パンツを見せる覚悟が決まったってことだろ。すげぇ。童子スゲェ……。
「わかったよ。教えればいいんだろ教えれば」
「やった!それじゃあ今日の放課後、校門の前で待ってまーす!」
そう言うと童子は今まで見せたことのない笑顔で要塞から去っていった。その笑顔に不意打ちを食らった心臓が早鐘を打つ。しばらく女の子と関わっていない俺には耐えきれない笑顔だった。
それにしても、パンツを見せろなんていうオプション付きのお願いを聞き入れられるとは思いもしなかった。別にそんな事しなくても教えたのに。(教えない)
しかも、早速今日の放課後から練習が始まるのらしい。だりぃ。めんどくせぇ。まぁ頑張りますか。パンツのために。
この話は9話で完結させるつもりなのです。