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1話 要塞の番人

一度短編として投稿してしまいましたので再投稿させていただきます。

  今俺の目の前に何があるのか、不躾ながら皆に想像してもらいたい。


 車?……違う。


 テレビ?……違う。


 スカイツリー?……それも違う。


 正解は「パンツ」だ。


 よくあるよね。よくあるよね目の前にパンツ。

 ……いや、ないから!目の前にパンツがあるとか中々ないから!



 ◆



 俺の名前は濱田塁(はまだるい)。野球好きの両親が野球に因んで塁という名前を付けてくれた。


 その影響からか、俺は小学校、中学校と野球部に所属していた。自分でも意外な事に野球のセンスは人一倍で、打ってよし、守ってよし、走ってよしの走攻守三拍子揃った選手だった。


 しかし、高校では帰宅部。授業が終わると一目散に家路につく。


 学校に行くのはだるくて仕方ないが、出席日数が足りないと留年させられる可能性がある。留年させられるのは授業に行くよりも面倒だ。それ故に、仕方なく毎日登校している。


 俺の輝かしい1日は朝の出欠確認が終わってから始まる。出欠確認が終わった直後、間髪入れずに1階にあるトイレに向かう。トイレに到着するとおサボリタイムを開始する。


おサボリタイムと言うのは、トイレでゲームをしたりスマホを弄ったりする時間のことだ。


そして授業が終わるチャイムが鳴るまで、1日中トイレに籠っている。


 入学直後から1ヶ月、そんな生活を送っていたせいで、どうやら俺は同級生にあるあだ名を付けられたらしい。


「だるいさん」と。


 濱田塁の濱を抜いてだるい。皮肉たっぷりのうまい名前を考えたもんだ。


 確かに俺は何をするのもだるい。学校に来るのはもちろん、授業を受けるのもだるい。勉強もだるい。歩くのもだるい。なんなら息をすることさえだるいと感じてしまう。


 こんな俺にだるいさんというあだ名はぴったりだろう。俺自身がそう言うのだから、だるいさんと呼ばれても仕方の無いことだ。


 俺が今こうしておサボりをしている要塞(トイレ)には個室が一つしかない。そのため、トレイをするために別の生徒がやってきても鍵の部分の赤い表示を見てトイレを後にする。


 それは流石のだるいさんでも良心が痛むが、それでも俺はトイレに籠り続ける。


 それが要塞(トイレ)の番人のプライドである。


 そう言っているそばから人が来たみたいだ。外から足音がする。その足音はトイレの入り口の前までやってきた。


 この足音の速さ、相当急いでますね。はい。


 だからと言って、俺がトイレから立ち去る理由にはならない。貴重なおサボリタイムは誰にも邪魔させん!


 そしてその足音の主はトイレの入り口を開けて侵入してきた。


 相当急いでいるとは言え、今回も赤い表示を見てお引き取り願えるだろう。そう油断したその瞬間、個室の扉は大きな音と共に開いた。


 え、なに!?なにが起こったの!?


あまりの衝撃に時間が止まったかのような錯覚に陥ったが、直ぐに時間は動き出し、個室に入ってきたのは見知らぬ女の子だった。


 なんで男子トイレに女の子がいるんだ!?え、まさか俺が男子トイレと女子トイレを間違えた?やだ。実刑判決?執行猶予無し?


 いや、そんなことはないはずだ。俺は毎日足繁くこの男子トイレに通っている。そんな俺が男子トイレと女子トイレを間違えるはずが無い。


 落ち着いて状況を整理しようと深呼吸を始めると、その女の子は目の前でパンツを下ろし出した。


「ゔぇっ。ちょ、ちょっと!」


 あまりの焦りから謎の声を発してしまった。その声に驚いた女の子はこちらを振り返り、やっと俺の存在に気づいた。


「な、な、なな、なんで女子トイレにいるんですか!」


 いや、いやいや。いやいやいや。いやいやいやいやいや。おかしいだろ。ここは男子トイレだ。俺が間違えるはずが無い。なんで女子トイレにいるんですかじゃねぇよ。というか、たった今個室の外に小便器の存在を確認した。


 良かった。無実だ。危うく冤罪を被せられるところだったぜ。自分の無実を確信し、その女に一言。


「なんでもなにもここは男子トイレだ」


「……え?」


「……え?」


「え?」と言うと「え?」で返されてしまった。よほどパニックなのだろう。


「とりあえすどいてください!!はやく!!」


「いやどいてもなにもここは俺のばしょ…」


「は、や、く!!!!」


「はいすいませんどきます!」


 そして俺は個室から追い出され、女の子は個室に入っていった。


いや、なんでこのまま男子トイレでするんだよ。直ぐ横に女子トイレがあるんだからそっちに移動してからすれば良いのに。よほど我慢の限界だったのだろう。


 あれ、これよく考えたらおしっこの音聞こえちゃうんじゃ……。神聖なサウンドが俺の耳にインしちゃうんじゃないですか!?


  ……。耳塞ごう。チキンハート。こんな場面で

もっと獣になれたなら得することも人生たくさんあっだだろうに。


 そう気を落としていると塞いだ耳からトイレを流す音が聞こえ、個室の方を振り返る。


 そこにはやはり女の子が立っていた。幻じゃなかったか。


その女の子は長髪の少しパーマのかかったふわふわした髪型をした可愛らしい女の子だ。


「ーー何か見ましたか?」


「いや、みた」


「みたんかい!!」


「そりゃ見たくなくても見えるだろ目の前でパンツ脱がれたら」


 女はぐぬぬぬぬっといった感じに引き下がる。


 確かにパンツは見た。しかし、パンツを脱いでいるはずなのにその先の聖なる器は確認することができなかった。不思議だ。


「大体男子トイレと女子トイレを間違えたあんたが悪いんじゃ無いか」


「それは申し訳ないと思っています」


 そこは素直に謝るのか。本当は良い子なんだろうな。俺なんかにパンツ見られて可哀想に。そう思ってしまった自分が一番可哀想。ファイト。俺。


「まあ鍵をかけ忘れた俺も悪いけどな」


 そうフォローを入れ。チラッと鍵の方を見ると個室の鍵は完全に大破していた。


 ……。この事実は内緒にしておこう。これを知ったらこの女の子をもっと嫌な思いをすることになる。そうさせないのが男ってもんだろう?(彼女いない歴年齢)


「このことは内緒にしておいてください……」


「そんなこと言われなくても誰にも言わないから安心してくれ。言ったところで俺が得することは一つも無い」


「ありがとうございます。それじゃあ」


 そう言って女の子はどこか不安げな表情で要塞(トイレ)を後にした。いくら俺が言わないって言ったとはいえ、赤の他人が発した言葉なんて信じられるはずがないだろう。不安になるのも当然か。


 名前を確認するとき、名札を見たが俺と同じ色の名札だっだな。


 俺の学校では学年によって名札やスリッパの色が違う。同じ色ってことは同級生か……。


童子宮子(どうじみやこ)。もう関わりたくないタイプの人間だな。



ご覧いただきありがとうございます。個人の趣味思考が強い作品となっておりますが末永くお付き合いください。

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