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最初に予定していた構造とはかなり違うものになってしまいました。申し訳ありません。かなり修正が加わることとなってしまいましたが、もし楽しんでいただけたなら幸いです。
次郎と一希が人生初の敵機撃墜記録を打ち立てたその日、航空母艦「大鳳」の船員居住区にて、古参兵達が主催するささやかな祝いの宴が開かれた。祝いの席には、日本酒やウイスキー、チョコレート、キャラメル、ドーナッツ、大福、煎餅などの嗜好品が並べられていた。これらの品は、先輩のポケットマネーで購入されたものであった。
成人している先輩方は、アルコール類を躊躇なく飲んでいた。しかし、未成年である次郎および一希は、法律の見えざる力によって飲酒が禁じられていた。よって、彼と彼女は、大鳳のラムネ製造機で量産されるラムネを飲んで時を過ごした。
「今日はよくやったな、新米ども。いやぁ、これはめでたい。もう一度初撃墜を記念して乾杯!」
古参の先輩方は、酒の力で上機嫌になると大声で叫び、本日何回目になるのかわからなくなってしまった乾杯の音頭をとった。その声は、艦長の耳にまで届いてしまうのではないかと心配を募らせるほど、大きく遠慮がなかった。
ーー先輩達、かなり出来上がっちゃってるよぉ、大丈夫かなぁーー
一希は、気まずさを漂わせた作り笑顔を外面として、胸の内ではそう思っていた。こうなってしまった理由は、アルコール量増加に比例した彼女に対するボディータッチの増加が感じられたからであった。
最初は、指でつつかれる程度であったが、次第に肩や腰に手が回るようになった。
顔を赤く染めて理性を失いつつある先輩方に恐怖を覚え始めている一希の様子を見て、次郎は行動を起こした。
「明日も朝早いので、俺達はこの辺で失礼させていただきます。」
そう言うと彼は、彼女の手を握ってそのまま立ち上がった。
「乗りの悪いこと言うなって、もうちょっと楽しもうぜ」
酒臭さを漂わせた先輩が、上機嫌に笑みを浮かべて言った。
「しかし...」
次郎は反論しようとしたが、先輩に遮られた。
「明日は、えっと、何だっけ、うんとぉ、あっ、そうだそうだ、ハワイだよ。ハ・ワ・イ。俺達はハワイの真珠湾に入港だろ、大したことじゃないだろ。だから少しくらい夜更かししても大丈夫だろ。」
ウイスキーのボトルを片手に言われても説得力は無かったが、彼は有効な口実を見出せなかった。
結局のところ二人は、もうしばらくの間先輩の飲みに付き合うことにした。
「大日本帝国バンザーイ!」
「帝国海軍バンザーイ!」
「天皇陛下バンザーイ!」
「陸軍の役立たずー!」
(一番最後のやつは良くないですよ、自重してください。)
次郎は、日本人同士で争うべきではない、と深々と思っている。
先輩達の血中アルコール濃度は、0.1~0.15%くらいだろうか。次から次へと口から言葉が出てくる。機関銃並みの会話力は止まる所を知らない。
「サクッと鬼畜米英を倒して内地に帰りてぇ~」
飲酒によって末梢血管を拡張させ、血流を良くしたことで顔を真っ赤にさせた先輩が、戦争に対する本音をぶちかました。
「何だお前、内地に彼女でもいるのか?」
「あぁ勿論いるとも、田舎娘で清楚で色白で可愛い子がな!」
ーーなぜ恋愛の話に走る!?ーー
二人は思った。先輩方の話題に介入できない状態が暫く続く。
「いいなぁ、俺も彼女とイチャコラしてぇ。」
ーー欲望を隠せ!欲望を!ーー
次郎の思いとは正反対に、酒類は成人から理性の皮を剥いでいく。
「お前は少しは建前を身に付けろよ。」
「男は皆、本能的に"肉"を求める生き物だ。だから自然なことだろう。」
ーーそこはそんなに自信満々に言っても良いところなのか?ーー
次郎は思った。そして、顔を赤くした一希が、驚きの表情も浮かべながら、彼の方を見た。
次郎は一希にまばたきでモールス信号を送った。ワレ、淫乱ニアラズ。
そうしていると、艦内に呼び出しの放送が流れた。
「鈴木一希一等兵、副長室まで来なさい。」
空母大鳳の副長の声だった。
――副長ナイス!一希がこの場を去る口実を得られました!あと、ご都合主義マジで万歳!――
というわけで、一希は戦場を脱出した。次郎は・・・その後もしばらくは先輩方の拘束を受けたとさ・・・めでたし!
この物語を最後まで読んでくださり、誠にありがとうございました。最後の更新から一年近く空いてしまっていましたが、その分だけ知識を準備したので、これからも定期的に続けていきたいと思っています。もしよかったら、次のお話も読んでいただけると嬉しいです。