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2部

「……彼とずいぶん長く話しすぎたかしら……。会議の時よりも日が傾いてるわ……。早く帰らないとまた坂野くんに怒られちゃうわね……」


 図書室を出ていくと、不意に目に入った窓の外を見ると赤かった空はもう紫がかっていて、辺りは暗くなり始めていた。これ以上遅くなれば大切な幼馴染である坂野くんにあまり怖くはないがプンプンと怒られるかなぁ。なんて考えていると、その様子が目に見えて浮かび、思わず苦笑混じりの言葉が漏れる。

 早く帰って、今日は早めに寝よう────。そうと決まれば急いで教室に行って、カバンを持って帰らなくては、と私は思う。


「さ、戸締りも平気そうだし、鞄も持ったし早く帰りま……しょ……う」


 教室に戻りカバンを手に持ち、廊下に出ようとした瞬間────。突如立ちくらみのような目眩を感じ、身体がよろけた。倒れ込まないように足に力を入れようとするもうまくいかず、そのまま床に倒れこんだ。そんなとき、机がずれる大きな音が耳のすぐ近くで聞こえる。恐らく自分が倒れた所に机があったようで、少し目線を動かせば、丁寧に整頓されていたはず机は少し乱れていた。後で整理し直さなくちゃ────。そう思いながら思うように体に力が入らなくて、床に向かって倒れこまないように体を支えるのが精一杯で、暫く手近かにあった机の足に掴まることしか出来なかった。ずきずきと倒れたときに打ち付けた箇所があるらしくあちらこちらが痛んでいた。

 体は正直だと誰かが言った。自覚はしていなかったが、体には相当負荷がかかっていたのだろう。こうして目眩を起こして倒れそうになるぐらいまで。

 目眩を起こして、どのぐらい経ったのだろうか。じっとしていると、目眩は治り気怠さは残るものの、立ち上がって歩くことがようやくできるようになった。

 気怠さの残る体を起こすと、窓の外を確認する。窓の外は既に日は沈んでいて、時計も門限の六時近くを指していた。

「……!いけない!門限以内に帰れるかしら……。……仕方が無いわ、今日は校舎内から行ける裏道から帰りましょう……」


 裏道というのもあまり普段使わないのも相極まって慣れない道から帰るのは避けたかったが、この際仕方が無いと考え、カバンを持って慌てて教室から出ていく。急ぎ足で階段を駆け下りて行く。


「せーんーぱいっ! そんなに焦らなくても普通に寮には間に合いますよ~」


 2階に降り立った時、不意に声を掛けられる。声のかけられた先を見れば先ほど会話を交わしていた図書委員の新堂くんが立っていた。まだ彼が残っていたことにも驚いたが、何よりも急がなくても間に合う、ということだった。確かに間に合わない、なんてことは無いが、のんびりと歩いてもいいほど余裕はないと思っていたからだ。私が呆然としていると、新堂くんがいつの間にか隣に立っていて、ゆるりと気の抜けるような笑みを浮かべていた。その笑顔を見ていると自然とこちらも安心するのだ。「じゃあ先輩一緒に帰りましょう!」といいながら若干手を引かれる。私も歩を進めると、にっこりと笑いながら私の歩行スピードに合わせて歩いてくれた。


「新堂くん。新堂くんは当番の日はいつもこのくらいになるの?」

「うーん、今日はちょっと事情があっていつもより遅いですけど……。でもたまにこのくらいの時間になっても間に合ってるので大丈夫ですよ~」

「そうなの?……これからも遅くなる時は気をつけてね、敷地内だからって油断しちゃダメだよ。今の世の中何があるか解らないんだから……」


 私が質問を投げかけると、新堂くんは少し悩んだそぶりを見せると、少し間を置いてから頷きながら答える。その言葉を聞いて驚きを隠せなかった。前々から議題には上がっていた図書館の閉館時間、特に司書さんが居ないときの時間については相談しなくては、なんて思う。私が気をつけるように、というと、にっこりと笑いながらガッツポーズを作りながら口を開く。

「ご心配、ありがとうございます、心愛先輩!でも今まで何もなかったですし、大丈夫ですよ!」

「全く……危機感がないんだから……」

「むぅ……それを言うなら心愛先輩の方が少ないですよ!心愛先輩は女の子なんですよ!なおさら危ないですよ!」

「そ、そうかしら?」

 私があきれたように肩をすくめると、少しむっとした顔をしながら、頬を膨らませながら私の方が危機感が少ないです、と告げる。

「そうなんです! ……これから遅くなるときは他の誰かと一緒にかえってくださいね!危ないんですから」


 少しむすりとしながら新堂くんはそう告げる。その顔を見ると真剣さが伝わってきて、クスリと笑ってから頷きながら口を開く。

「わかったわ。じゃあこれからはすするわね」

「当たり前です!」

 私の返答を聞くなり、新堂くんは先ほどよりも頬を膨らませると当たり前だ、といいながらなんともいいがたい不満げな顔をしていた。恐らくくすくすと思わずこぼれてしまった笑いも行けなかったのだろうとは思うが、こらえきれなかったのだから仕方がないと思っていた。私はまだ収まらない笑いを一所懸命にこらえながら「ごめんなさい」なんて告げるとふくれっ面のままこちらをふりかえるとしばらくこちらを怪しむように見つめていたが、少し不満げにしつつも、「わかったならいいです」なんて言って目を逸らす。

 そんな会話をしているといつの間にか、寮に着いていて玄関の前には坂野くんが待っていた。

「心愛ちゃ……生徒会長!遅いじゃないですか!早めに帰るって約束だったじゃないですか!」

「ごめんなさいね、ちょっと教室の中で立ちくらみしちゃって」

「ほら!すでに倒れてるじゃないですか!やっぱり無理のしすぎですよ!……室長には話しを通しているので、部屋まで送ります。えっと、あなたは寮に戻っていていいですよ。ここまで生徒会長を送ってくださりありがとうございます」


 坂野くんは一度新堂くんの方を見ると、訝しげな瞳を少し向けたあと、寮に戻るようにと伝える。新堂くんは少し面食らったような顔をしていたが、すぐににっこりと笑うと、「わかりましたー、福かいちょーさん」といいながら先に寮へと入っていく。

 新堂くんが寮に入っていったのを確認すると、坂野くんも寮へと入っていくのだった。

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