1部
「……あら?もうこんな時間なのね。まだ議決までは至ってないけど暗くなると危ないし、今日のところはここまでにしましょうか。お疲れ様でした。解散しましょうか。遅くならないうちにみんな帰寮してくださいね」
私立聖山学園のとある一室。そこに私、佐伯心愛は生徒会長として、会議に参加していた。会議の内容はこの先の学園について。つい最近、良くない噂が流れているのもあり、警戒をするのを目的にそれについて会議をしていた。しかし、なかなか話は進まない。と、言うのもこの学園に通う生徒の多くは何かしら抱え込んでいて、普通の高校に通うことが難しい、もしくは通えない生徒が多い。この学園を受験する理由は人によって様々でここで上げていたらきりがない。そんな何かしらを抱え込んでいる生徒達がここで青春を送れるようにと願いを込めて作られたのがこの学園らしい。もちろん私だってここには、とある事情で通っている。ここに通うことを強制される生徒もいる中で私は自らこの学園に入ることを決めた、珍しい人だ。しかし、建設当初は家から通ってもらっていたが、色々な事情があって寮制に、開校2年で切り替えられた。
さて、少しだけ話を戻し、この学園に流れている不吉な噂についてもう少し詳しく話したいと思う。何年か前、いきなり多くの生徒が消える、という事件が起きた。この学園は寮制で、無断外泊や外出は禁止されいる。もちろんこの学園には外に出なくても遊べるような施設や買い物ができる施設を取り揃えている。なので脱走する生徒なんて居なかった。そんな中起きた多くの生徒の失踪事件。マスコミも連日訪ね、消えた生徒達の親も毎日のように駆け込んできたらしく、とても大変だったらしい。未だに消えてしまった生徒の行方は愚か、生死の確認も取れていないのが現実だった。その時に流れた噂、”あの生徒達は神隠しにあったのでは”という。それは後にこの学園の七不思議の一つになったのは言うまでもない。しかし、噂は噂だ……。生徒が消えた、なんてそう簡単には信じられないのが本音だが、そう思いつつも調べなければ分からない。これが本当だとしたら、あの噂ももしかしたら本当かもしれない────。そう思うと不安が募る。そう思うと、事実確認をしたくて、図書館に寄ることを決める。
「あっ……坂野くん。私今日ちょっと図書館に寄りたくて……。会議室の戸締りお願いできるかしら?頼めるの坂野くんくらいで……」
「……もちろんですよ、生徒会長!僕に任せてくださいよ!そもそも僕と会長の仲じゃないですか!」
たまたま近くにいた坂野くんに戸締りをお願いする。彼は、坂野翔也くんと言って、私と同じく、生徒会に入っていて、私の補佐である生徒会副会長に当たる。ちなみに彼とは幼馴染で家も近所でよく一緒に学校に通ったりしていたものだ。時が流れるのは早く、昔は私の方が身長は高かったのにいつの間にか身長を抜かされて、今では坂野くんの方が大きい。そして何よりも周りの女の子たちからまぁモテる。理由は顔が整っているから。それから意外と彼は、おっちょこちょいで、ドジな面がある。それがどうやら女の子たちの間で母性本能を掻き立てるらしく、面倒見のいい女の子にモテたりする。そんなモテモテな坂野くんだが、選り取りみどりの割には、まだ彼女はまだいない。この間理由を聞いたが、顔を真っ赤にさせながら「す、好き……好きな子がいるから、みんなには悪いけど断ってる……」と答え、それきり俯いてしまった。
そんな照れ屋でドジっ子でおっちょこちょいな坂野くんに頼み事をしたくて声をかけると、ノートに会議の内容をまとめていた手を止め、顔を上げると嬉しそうに笑いながらガッツポーズを決める。その笑顔は昔から変わらなくて、相変わらず犬みたいだなぁ、なんて思いながら、「ありがとう」と告げると、慌てて荷物を片付け始める。「じゃあ坂野くんは戸締りよろしくね」と告げながら教室を出ていく。坂野くんは少し思案した後私の背中に向かって声をかける。
「……いえいえ、でも会長。会長も遅くならないうちに帰寮してくださいね?会長だって一人の生徒で、一人の女の子なんですからねっ!学園内とはいえ安全とは言いきれないって言ってるのは会長なんですから!……本当は僕が送ってあげられればよかったんですけど……ね」
そう言いながら坂野くんは少しむすりとしながら、軽く言い聞かせるように、しながら私も早めに帰寮するようにと告げる。本当は僕が送りたかった、と告げながら少し残念そうに顔を俯かせる。しかし、その後にばっと顔を上げたかと思えば、再念するように無理をしすぎないように、と告げた。
「と、も、か、く!会長は無理しすぎないでくださいね。昔からそういうところは変わりませんが、たまにはゆっくりすることを覚えるのも必要ですからね」
「……そうね、坂野くんの言うとおりね。ふふ……。いつも心配かけてごめんね。大丈夫よ、今日はちょっと気になることがあって調べ物するだけだから……。それが終わったら帰寮するわ」
そんな幼馴染みの言葉を聞いてるとふっと笑みが零れた。そう言えば、確かに彼のいうとおり最近あまりしっかりと休めていない。いや、正確に言えばあの時からあまり休めてはいなかった。あの時ことを忘れたことはない。クスクスと笑っている私を見ると、1度驚いたような顔をした後に、むっとしたような顔になりながら、こちらに近寄ってくる。コロコロ変わる表情で本当に面白いなぁ────。そうおもう。
「笑い事じゃないですよ?!約束ですからね!会長!」
「うん、約束。今日は無理しない」
「……今日は……?」
「……これからは」
「それでもいいです!」
無理をしないことを約束すると、ようやく坂野くんはそれでいい、と言ってくれる。全く心配性な幼馴染みだ。そう思いながら、図書館へと道を急いだ。もちろん理由は幼馴染みと交わした早く帰寮するという約束を守るため、というのもあるが、閉室時間が迫っていたのもあり、廊下は走らないように急ぐ。
図書室前に着くとほんの少し上がっていた呼吸を整え、ドアノブに手をかけると扉を押した。
中には図書委員である男子生徒が暇そうにしながらカウンターに腰掛けていた。見覚えが無いため、おそらく後輩だろう。それも新入生だ。近くにある時計を見やれば、もう間もなく閉室時間。ギリギリに来てしまった……。そう思い、カウンターに腰掛けていた図書委員の男の子に声をかける。
「……すみません、まだ大丈夫ですか?」
「あれれぇ、生徒会長さんだぁ、まだ大丈夫ですよ?何かお探しですか?」
私が声をかけるなりゆるりとした態度で生徒会長さんだぁ、と言いながらカウンターから出てきて、なにかお探しですか、と聞かれる。
「うーん、そうねぇ……。この学園についての資料ってどこにあるか分かるかしら?」
「ん〜……。そういうのは司書さんの所にあって今日は司書さん出張でいないんですよねぇ……。いつも鍵がしてあって僕達生徒は立入禁止なので……」
「そう……ちょっと残念。最近学園で都市伝説また流れ始めたでしょう?私はそういった類のことは信じていないんだけれど、みんなを安心させたくて調べようと思ったのだけれど……」
彼の質問に対して答えると、彼は、少し思案した後に申し訳なさそうにしながら、そっと口を開く。彼の言葉を聞くと私は予想通りだったが、少し残念に思う。まぁそんな学園の資料が易々と図書室内に置かれてもちょっと困るが────。皆を安心させたい。そういう旨を伝えると、図書委員の彼はパァと顔を輝かせながら、いいことを思いついた!とでも言いたげにパンッと手を叩いた後に、口を開く。
「じゃあ僕、司書さんに明日頼んでおきますよ!生徒会長さんが学園についての資料を欲しがってましたって」
「……いいの?そんなこと頼んでも」
「いいに決まってるじゃないですかぁ、それに生徒会長さん、絶対忙しくて最近休めてないんじゃないですか?顔色悪いですよ」
図書委員の彼は、とても有難くて助かる提案をしてくれたが、彼は、迷惑なのではないか、と思う。確認をとると、当たり前だ、と告げながら顔色が悪いことを伝える。そう言えば、先程も幼馴染みに休めていないことを指摘されたことを思い出す。そんなに顔色に出ているのだろうか────。そんなふうに思うと同時に見ず知らずの生徒にまでわかるほど疲れた顔色なのか、と考える。
「さっき幼馴染みにも最近休めてないんじゃないか、って聞かれたわ……。そんなに疲れた顔してるのかしら……?」
「してます」
「あらら……困ったわね……」
即答されるほどどうやら疲れた顔をしていたらしく、思わず苦笑が零れる。これからは気をつけなければ、なんて思いながらこの後どうしようかと思案する。もう用事は終わったし、学校に残る意味もない。少し悩んだ後に、これ以上無理をすれば今度こそ幼なじみに怒られる気がしたので、大人しく帰寮することを決める。その前に彼に、本のことを頼んでおこうと思い、口を開く。
「じゃあ、えっと……」
そう言えば、名前を知らなかった。そこで言葉を詰まらせる。彼は、すぐに名前を名乗っていなかったことに気がつき、微笑みながら口を開く。
「そう言えば僕名乗ってなかったですね。僕は新堂雄也と言います!一年A組になります!よろしくお願いしますね、生徒会長さん」
「新堂君ね。覚えたわ。じゃあ新堂君、本のこと司書さんによろしくお願いできるかしら?」
「もっちろん!任せてくださいよ、生徒会長さん」
「後、私は佐伯心愛って言います。生徒会長さんよりもこっちで読んでいただければ嬉しいわ」
彼の名前はどうやら新堂雄也くんと言い、やはり1年の生徒で、A組らしい。佐伯が新堂くん、と呼ぶととても嬉しそうにぱぁと顔を輝かせる。そんなに嬉しいのかしら?なんて思いながら、本のことを依頼すると、大きく頷きながら任せてほしい、と告げる。とてもいい子で、優しい子でよかった、なんて思う。新堂君が、名乗ったというのに自分が名乗らないのはなんとなく落ち着かない……。そう思った私はそっと名前を名乗る。
「じゃあ心愛先輩で!」
「……下の名前で呼ぶ人、久しぶりだわ……。よろしくね、新堂君。じゃあ私はそろそろ帰寮するわね。新堂君もお仕事終わったら寄り道しないで帰寮してね。危ないから」
佐伯が名乗ると、じゃあ心愛先輩で、と言いながらゆるりと頬を緩ませる。下の名前で呼ぶ人は幼馴染みの坂野くんだけで、他に呼ばれることが少なくて、なんとなく擽ったい。それを隠すように言葉を紡ぎ、手を振りながら図書室をあとにした。
2020/02/19……追記&誤字の修正、設定の見直しによる違和感の修正をしました